18 / 92
濫觴の四月[April of Beginning]
Mission18 元暗殺者の実力
しおりを挟む
遠くから彼女を監視していたが本当に風に当たるだけだった。
顔がバレているとはいえ、彼女ならば逃げようと思えば逃げられたはずだ。
そして風に当たり終えると再びどこかへと歩いて行った。
「ところでどこに?」
「寮の地下」
「寮の地下……?なにかあるの?」
寮生ではない俺にはなにがあるか判らない。
イージス学園は国や地域を問わずに世界各国からやってきた人間を対テロ戦闘員に養成するための学校だ。
当然生徒たちが在学中に寝食する場所がないと生徒たちは困る。
故に寮が存在する……というのは知っているが、何故寮の地下に行く必要が?
「ワタシの実力を見せろと言ったのはあなたでしょう?そこで見せてあげるわ」
「…………?」
なにがなんだかよく判らないがここはついていくしかなさそうだ。
そこに行けばなにがあるのか判るだろう。
俺たちは彼女についていき、寮の中に入ると地下へと続く階段を下りていく。
「……この先になにが?」
聞いてみても彼女は黙ったままだ。
まるで『それについて知りたければついてこい』と言っている様だ。
階段を下り終えると早速目の前に扉が存在している。
彼女は重厚感のある扉を開ける。
「……ここは」
灰色のコンクリートでできた壁が4面、縦に長い部屋だ。
俺たちの目の前、部屋の奥には人の形をした的が設置されている。
確か……マンターゲットといったか。
的とはいえ、人型のものを撃つのはなんだか抵抗感を感じそうだ。
的はその場で静止しているものもあるし、左右に動いているものもある。
「射撃訓練場。これから1発も外さずに全ての的を撃ち抜いてみせるわ」
「1発も外さずに……?」
「ええ」
彼女は射撃位置の目の前に置かれているテーブルの上から訓練用の狙撃銃を取る。
そして迷うことなく、一番手前にある的を撃ち抜いてみせた。
1発の銃弾はその的の頭部を撃ち抜いていた。
「1発で頭を……!」
森さんはそう呟いた。驚いている様だった。
射撃というのは思っている以上に難しい様だ。
『1発も外さない』という誓約に緊張することなく、彼女はその隣にあった的の頭を撃ち抜く。
「次」
銃声と共にいくつもの的に穴が穿たれていく。
銃弾は全て頭部を捉えており、彼女が的確に狙撃する能力に長けていることが知れた。
(これまで8発……全て的の頭を撃ち抜いている……)
実力は確かな様だ。
残された的は2つ……一番奥にある静止している的とその手前にある左右に動く的だ。
静止している的は動いていないが一番奥にあるため、距離はある。
動いている的は手前にある分距離は離れていないが左右に同じところを往復している。
「…………」
どちらも当てることは難しいだろう。それも1発で。
けれど彼女は一切集中力を切らすことなく、引き金を引いた。
静止していた的に銃声と共に的の頭部に弾痕が刻まれる。
「……最後」
そして最後に動いている的を冷静に撃ち抜いた。
彼女は床に転がった空薬莢に一度視線を下ろした。
構えていた狙撃銃を下ろすとそのままテーブルの上に置いた。
「……どう。これがワタシの実力よ」
確かに彼女は『一度も外さない』という誓約通り全ての的を撃ち抜いてみせた。
しかも全て頭部のみを狙って。
「……凄い」
「え?」
「凄いよ、ナギサ!全て当てるなんてっ!」
レイはそう言って彼女を称賛した。
その赤い瞳を燦爛と輝かせて、熱い眼差しを送る。
「な、なに……いきなり……」
突然称賛されたことに彼女は困惑している様だ。
どうやら彼女は自身が褒め称えられるとは思っていなかったらしい。
「うん、凄いよ。西郷さん。1発も外さないで、しかもためらいなく撃てるなんて」
「ああ。君が部隊に入ってくれるなんて心強いよ」
「…………」
俺たちもそう彼女を称賛すると彼女は片手で顔を隠す様にして、そっぽを向いた。
「……西郷さん?どうした?」
「……その、いきなり褒めるものだから……褒められ慣れていなくて……」
その顔を見てみると若干赤くなっている様だった。
先ほどまでのクールな暗殺者ではない、年頃の少女らしい反応だ。
「あ、照れてるの?可愛いなぁ」
「べっ、別に照れてなんか……!」
頬を赤らめ、そう反論する。
レイはそんな彼女を見て、ニヤニヤしている。
確かに少しからかいたい気持ちも判る様な気がする。
(最初は殺し屋って聞いてとっつきにくそうだって思ったけど)
(うん。普通の女の子と変わらないね)
俺と森さんはレイが西郷さんにじゃれあっている様子を見ながら小声でそう話していた。
朗らかな性格のレイと冷淡そうな性格の西郷さん。
全く違う2人だが気が合うのかもしれない。
「色々あったとはいえ、今日から君は俺たちの仲間だ。よろしく、西郷さん」
「……渚でいいわ。戦場じゃ短く呼んだ方が合理的でしょう?」
それもそうだろう。
けれど女性を下の名前で呼ぶというのは中々勇気がいる。
初対面ですぐに打ち解けられる様な性格の直巳なら遠慮なく下の名前にチャン付けで呼ぶだろうが。
「ああ。判った、渚。俺も呼び捨てでいいよ」
「了解よ。……えー、っと?」
彼女は俺の名前を呼ぼうとしたらしいが知らない様だ。
俺は短く「東条大和」と名乗った。
「……大和」
「ああ。よろしく」
俺は再び手を差し出した。
先刻は無視されたが今度は手を握ってくれた。
ありきたりな表現だが氷の様に冷たい手だった。俺の手の熱が吸い取られていく。
けれど彼女は心までは決して冷たくはない人間なのだと握ってくれた手が物語っていた。
顔がバレているとはいえ、彼女ならば逃げようと思えば逃げられたはずだ。
そして風に当たり終えると再びどこかへと歩いて行った。
「ところでどこに?」
「寮の地下」
「寮の地下……?なにかあるの?」
寮生ではない俺にはなにがあるか判らない。
イージス学園は国や地域を問わずに世界各国からやってきた人間を対テロ戦闘員に養成するための学校だ。
当然生徒たちが在学中に寝食する場所がないと生徒たちは困る。
故に寮が存在する……というのは知っているが、何故寮の地下に行く必要が?
「ワタシの実力を見せろと言ったのはあなたでしょう?そこで見せてあげるわ」
「…………?」
なにがなんだかよく判らないがここはついていくしかなさそうだ。
そこに行けばなにがあるのか判るだろう。
俺たちは彼女についていき、寮の中に入ると地下へと続く階段を下りていく。
「……この先になにが?」
聞いてみても彼女は黙ったままだ。
まるで『それについて知りたければついてこい』と言っている様だ。
階段を下り終えると早速目の前に扉が存在している。
彼女は重厚感のある扉を開ける。
「……ここは」
灰色のコンクリートでできた壁が4面、縦に長い部屋だ。
俺たちの目の前、部屋の奥には人の形をした的が設置されている。
確か……マンターゲットといったか。
的とはいえ、人型のものを撃つのはなんだか抵抗感を感じそうだ。
的はその場で静止しているものもあるし、左右に動いているものもある。
「射撃訓練場。これから1発も外さずに全ての的を撃ち抜いてみせるわ」
「1発も外さずに……?」
「ええ」
彼女は射撃位置の目の前に置かれているテーブルの上から訓練用の狙撃銃を取る。
そして迷うことなく、一番手前にある的を撃ち抜いてみせた。
1発の銃弾はその的の頭部を撃ち抜いていた。
「1発で頭を……!」
森さんはそう呟いた。驚いている様だった。
射撃というのは思っている以上に難しい様だ。
『1発も外さない』という誓約に緊張することなく、彼女はその隣にあった的の頭を撃ち抜く。
「次」
銃声と共にいくつもの的に穴が穿たれていく。
銃弾は全て頭部を捉えており、彼女が的確に狙撃する能力に長けていることが知れた。
(これまで8発……全て的の頭を撃ち抜いている……)
実力は確かな様だ。
残された的は2つ……一番奥にある静止している的とその手前にある左右に動く的だ。
静止している的は動いていないが一番奥にあるため、距離はある。
動いている的は手前にある分距離は離れていないが左右に同じところを往復している。
「…………」
どちらも当てることは難しいだろう。それも1発で。
けれど彼女は一切集中力を切らすことなく、引き金を引いた。
静止していた的に銃声と共に的の頭部に弾痕が刻まれる。
「……最後」
そして最後に動いている的を冷静に撃ち抜いた。
彼女は床に転がった空薬莢に一度視線を下ろした。
構えていた狙撃銃を下ろすとそのままテーブルの上に置いた。
「……どう。これがワタシの実力よ」
確かに彼女は『一度も外さない』という誓約通り全ての的を撃ち抜いてみせた。
しかも全て頭部のみを狙って。
「……凄い」
「え?」
「凄いよ、ナギサ!全て当てるなんてっ!」
レイはそう言って彼女を称賛した。
その赤い瞳を燦爛と輝かせて、熱い眼差しを送る。
「な、なに……いきなり……」
突然称賛されたことに彼女は困惑している様だ。
どうやら彼女は自身が褒め称えられるとは思っていなかったらしい。
「うん、凄いよ。西郷さん。1発も外さないで、しかもためらいなく撃てるなんて」
「ああ。君が部隊に入ってくれるなんて心強いよ」
「…………」
俺たちもそう彼女を称賛すると彼女は片手で顔を隠す様にして、そっぽを向いた。
「……西郷さん?どうした?」
「……その、いきなり褒めるものだから……褒められ慣れていなくて……」
その顔を見てみると若干赤くなっている様だった。
先ほどまでのクールな暗殺者ではない、年頃の少女らしい反応だ。
「あ、照れてるの?可愛いなぁ」
「べっ、別に照れてなんか……!」
頬を赤らめ、そう反論する。
レイはそんな彼女を見て、ニヤニヤしている。
確かに少しからかいたい気持ちも判る様な気がする。
(最初は殺し屋って聞いてとっつきにくそうだって思ったけど)
(うん。普通の女の子と変わらないね)
俺と森さんはレイが西郷さんにじゃれあっている様子を見ながら小声でそう話していた。
朗らかな性格のレイと冷淡そうな性格の西郷さん。
全く違う2人だが気が合うのかもしれない。
「色々あったとはいえ、今日から君は俺たちの仲間だ。よろしく、西郷さん」
「……渚でいいわ。戦場じゃ短く呼んだ方が合理的でしょう?」
それもそうだろう。
けれど女性を下の名前で呼ぶというのは中々勇気がいる。
初対面ですぐに打ち解けられる様な性格の直巳なら遠慮なく下の名前にチャン付けで呼ぶだろうが。
「ああ。判った、渚。俺も呼び捨てでいいよ」
「了解よ。……えー、っと?」
彼女は俺の名前を呼ぼうとしたらしいが知らない様だ。
俺は短く「東条大和」と名乗った。
「……大和」
「ああ。よろしく」
俺は再び手を差し出した。
先刻は無視されたが今度は手を握ってくれた。
ありきたりな表現だが氷の様に冷たい手だった。俺の手の熱が吸い取られていく。
けれど彼女は心までは決して冷たくはない人間なのだと握ってくれた手が物語っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
Amor et odium
佐藤絹恵(サトウ.キヌエ)
ファンタジー
時代は中世ヨーロッパ中期
人々はキリスト教の神を信仰し
神を軸(じく)に生活を送っていた
聖書に書かれている事は
神の御言葉であり絶対
…しかし…
人々は知らない
神が既に人間に興味が無い事を
そして…悪魔と呼ばれる我々が
人間を見守っている事を知らない
近頃
人間の神の信仰が薄れ
聖職者は腐敗し
好き勝手し始めていた
結果…民が餌食の的に…
・
・
・
流石に
卑劣な人間の行いに看過出来ぬ
人間界に干渉させてもらうぞ
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話
トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる