ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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濫觴の四月[April of Beginning]

Mission23 セイクリッドワルツ隊長

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俺たちはあの場をサイレント・カプリチオの人たちに任せ、先に進んでいた。
商店街に辿り着くとやはり荒れ果てた廃墟と化していた。

「紙越商店街……昔は賑わってたのに……」
「懐古してる暇はないわ。どこに兵器があるか探し出さないと」

商店街の過去の姿を思い浮かべている俺に渚はそう言った。
俺は隊長なのだ。こんなところで過去に囚われているわけにはいかない。
皆をまとめあげなければならない。

「そうだった。兵器はどこにあるんだろう?」
〈そうだな……“神機”は一国の軍事力をも変えると言われているほどの兵器だ。となるとスサノオ同様に巨大な兵器なはずだ〉
「じゃあ、隠せる場所も限られてくるね」
〈そうだ。珍しく冴えているな〉
「『珍しく』は余計だよ、千秋!」

レイと神崎さんはそうやり取りをする。
無線越しではあるものの2人の仲の良さを感じられ、くすりとさせられた。

〈冗談さ。君の言う通り神機の詳細は不明だ。しかしそれなりに大きい兵器だろう。……となると隠せる場所も限られてくる。ならば神機を隠せそうな場所にいくつかマークを付けておく〉
「マーク……?──おっと」

突然視界の端にある地図に赤い丸が3つ現れる。
赤い丸の内側に感嘆符エクスクラメーションマークが描かれている。
3つとも商店街の地図の上に設置されている。

〈君たちのスマートコンタクトに情報を送った。神機の隠し場所と思われる場所にマークしてある。そこに向かってくれ〉
「判った」

このコンタクトレンズ型のコンピュータは結構便利かもしれない。
自身の視界に生体データや地図、時計などが表示されるのでまるで一人称視点のFPSゲームをやっている様だ。
いちいち地図を広げて目的地までの場所を確認しなくていいので『便利かもしれない・・・・・・』ではなくて、『便利』だ。
俺たちは神崎さんの言う通り地図にマークされた場所まで向かうこととする。

「……ところで君がヴァイオレント・ノクターンの隊長さん?」
「はい、そうですが……?」

目的地まで走りながら向かっていると突然いたずらっぽい微笑を浮かべた女性がそう聞いてきたので頷いた。
銀色の長い髪に薄紫がかった青い瞳、氷の様に透き通った白肌、高く通った鼻筋、すらりと長い脚を持つ女性だ。彼女を例えるならば雪女──だろう。肌の白さや顔立ちから日本人でないことが判る。
女性と言ったが着ている制服を見ると彼女が俺たち同様生徒で、未成年なのだろう。
ミステリアスな雰囲気をまとっているので一目だけ見ると『女子』ではなく、『女性』に見えてしまった。

「……そう、あなたが。ああそうそう、まだ自己紹介してなかったわね」

彼女は俺が隊長だと判ると思い出した様にそう言った。
一体俺が隊長だからなんだと言うのだろうか。別に驚く様なことでもないと思うが……。

「ワタシが神聖なる円舞曲セイクリッド・ワルツ隊長、ルーチェ・カリオストロ。ちなみに2年生ね。お姉さんだと思って甘えていいのよ」

彼女はいたずらっぽい微笑を浮かべ続けたまま言った。
その笑みからは『余裕』の2文字が感じられた。

〈ルーチェセンパイ……そういやイタリア出身の元怪盗だとかって聞いたな〉
「怪盗!?」
「ええ、これでも“元”怪盗なの。今じゃ色々あって対テロ戦闘員になっているけれど……」

元空挺団教官といい元暗殺者といい元怪盗といい……イージス学園には前職が世間一般から見て『普通』ではない人ばかりが集まってくる様な気がしてならない。
そんなことを思っていると突然足元にいくつもの穴が穿たれた。

「!」

俺たちの視線は自然と穴を穿った者たち・・・へと向いた。
商店街の中にも関わらず俺たちを轢き殺さんばかりの速度で走行している高機動車、その荷台に乗っている戦闘員たちが俺たちに対して機銃で掃射をしてきたのだ。

「あらあら、仕方ないわ。ここはワタシたちに任せて、あなたたちは先に行きなさい」
「え、でも……」
「大丈夫よ。そうですよね、拓海さん」
〈うん。大和、ここは安心して進んでいいよ。ルーチェちゃんもみんなも……そう簡単に負けはしないから〉

拓海姉がそう無線越しに俺に言った。
そういえばセイクリッドワルツは拓海姉も所属している部隊だった。
幼馴染である彼女の言葉を聞いて俺は彼女たちにこの場を任せても良いだろうと確信できた。

「……判った。拓海姉がそう言うなら……任せました、カリオストロ先輩!」
「あらあら、ファーストネームでいいのに」
「判りました、ルーチェさんっ!」

俺はそう言い直すと彼女たちにこの場を任せて先を目指した。
しかしGR戦闘員は荷台に取り付けられた重機関銃でこの場から離れようとした俺たちを撃ってくる。
先を目指そうとした俺たちだったが俺たちはそれを遮られてしまった。

「させないわよ」
「ッ!?」

突然重機関銃を握る手が動かなくなる。
一体なにが起こったのだと戦闘員が動揺しているとルーチェさんは間合いを詰めて顎を蹴飛ばした。
彼女が銃の引き金を引くと戦闘員の手が氷に閉ざされた様に見えた。

「え、手が凍り──」

なにが起こったのかを理解できた戦闘員もいたが時すでに遅し。
ルーチェさんは自身の脚で次々と敵の顔面を捉え、蹴飛ばしていく。
膝蹴りだ。あんなものを顔面にまともに喰らいたくはないな……。

「く、くそっ!なんなんだこの女は……!?」
「一旦退くぞ!」

高機動車から滑り落ちる様にして出ると、そのままこの場から逃げる戦闘員たち。
どういうわけか手を凍らせた彼女を見て、まともに戦うのは危険だと判断したのだろう。
けれどその判断も失敗だった。

「逃がさないわよ」

彼女が持っている拳銃の引き金を引くと銃口から白い光線の様なものが放たれ、逃げた戦闘員たちの脚を凍らせた。
先ほど重機関銃を握る戦闘員の手を凍らせたのはあの銃だろう。

「くっ……氷……!?」
「任せたわ」

彼女がそう言うと彼女の部隊の生徒たちが氷のせいで走ることはおろか歩くこともできずにいる戦闘員たちに手錠をかけて拘束する。

「ルーチェさん、その武器は?」
「ああこれ?ワタシの使う武器はこの銃“アイシクル”とこの脛当てレガース、“スマッシャー”なの。この銃アイシクルで動きを封じて、レガーススマッシャーを使った蹴りで戦うって感じかしら」
「相手を凍らせる武器だなんて……初めて見たわ」

渚はそう言った。
確かに氷を武器として使えるなんてフィクションの中だけだと思っていた。
けれど彼女は実際に俺たちの目の前で氷を武器として使ってみせた。

「さぁ、増援がやって来るわ。あなたたちは早く。ワタシたちもある程度倒したら探すことにするわ」
「判りました」

遠くに見える増援と思われる高機動車数台の影を見て、ルーチェさんは再び銃を構える。
彼女の部隊の生徒たち全員も構える。
この場で俺たちにできることは先に行って神機の隠し場所を探すことくらいだろう。
俺たちはこの場を彼女たちに任せ、今度こそ先を目指すこととする。
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