ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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濫觴の四月[April of Beginning]

Mission28 謎の男

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──駐車場に鉄と鉄のぶつかり合う音、乾いた銃声、中空で浮かぶヘリのローター音……
あらゆる音が響いていた。

「ホラホラホラホラッ!」
「くっ……」
「受け止めてるだけじゃ、勝てねえぜ!?」

速水沙々は手に持つマチェットを俺へと降り下ろす。
彼女は秩序なくただ単に振るっているだけだが俺はそれを受け止めるだけで精一杯だった。

「……外さない」

森さんは静かに彼女へと拳銃で狙いを定める。
しかし俺と速水沙々の2人で激しい剣戟を繰り広げているので誤射を恐れて中々撃てずにいる。

「オラオラっ、その銃はただの飾りか?」

そんな彼女へと速水沙々は挑発をする。
森さんはその言葉に一瞬かっとなるがすぐに冷静さを取り戻し、拳銃を握り直す。

「……そんな挑発には乗らない」
「チッ、そうか──よッ!」

俺を捉えていた彼女の刃がふっと消える。
次の瞬間に彼女はその神速で森さんへと迫り、刃を振るっていた。

「させるかっ!」
「!」

俺は森さんの前に滑り込む様にして速水沙々の刃を受け止める。
先ほどからこの刃は変わらずに重い。
俺の体力であと何回、この刃を受け止められるだろうか。

「反射速度も上がってきたな……最初は雑魚だろーなって思ってたけど……悪くねえ!」

彼女は刃を受け止められた状態のまま蹴りを繰り出した。

「くっ!」

俺は右腕でそれを受け止める。
制服がその衝撃を吸収してくれるとはいえ、若干だが痛みを感じた。
もし制服を着用していない状態で蹴られていたら骨は折れていたかもしれないくらいだ。

「オレの速さ……捉えてみろよっ!」

彼女はその神速で俺たちの周りを駆け始める。
とても常人には捉え切れない素早さだ。
森さんは拳銃をもう1挺取り出すと速水沙々へと連射する。

「ハッ、当たンねえよ!」

森さんの放つ銃弾も速水沙々の神速の前では意味を成さなかった。
決して森さんが射撃が不得手だというわけでもない。
しかし自らの身体を機械に置換した彼女の速さは常人には捉え切れるものではなかった。
森さんは再装填リロードし、再び彼女を捉える。

「オラっ!」

ある程度俺たちを神速で翻弄してから再び俺へと切りかかる。
俺はそれを受け止める。
中々彼女は攻めさせてくれなかった。
せっかく直巳が白煙を払ってくれたというのに一切戦況はよくなっていない。
このままでは俺たち2人が倒されるビジョンしか見えない。

(歳は俺たちと変わらないはずなのに……強すぎる!)

そう言えば彼女は自身が第1部隊隊長だと言っていた。
黒の部隊第1部隊だということは神崎さんの言っていた黒の部隊の中で一番力を持つ人間だということなのだろうか。
俺がつい最近まで戦闘経験が全くない人間だとはいえ、それならばこの強さも納得だ。

〈速いな……ヘリに搭載されてるガトリングガンとかミサイルで援護してもいーんだけど……〉
「……俺たちに被弾するよね?それ」
「それは遠慮したいかな……」

森さんはそう言った。
それもそうだろう。ここでそんなものを使ったら速水沙々だけでなく俺たちへも被弾は免れない。
俺たちは蜂の巣になるために戦場にいるわけではないのだ。

〈まぁ、そりゃそうだよな……参ったな……なんかサポートしようと思ったけど思いつかないもんだな〉
「いや、直巳はさっき煙を払ってくれたじゃん」
「そう。あれでもう充分だよ」
〈ああ。ありがとよ。そう言って貰えると嬉しいぜ。機内からだが応援させてもらうぜ〉

直巳は操縦席に座ったままそう言った。
俺たちには俺たちで、彼には彼で、神崎さんには神崎さんでやれることがある。
今俺たちがやるべきことは目の前の第1部隊隊長である速水沙々を倒すことだ。
これは俺たちにしかできない。

「オラアアァ……っ!」
「!なに……!?」

俺は自身の刃に力を込める。
確かに彼女の膂力は凄まじく、とても人間では勝てそうにない。
けれど100パーセント勝てないわけではない。
脇差を強く握りしめる。

(コイツ……一体どこからそんな力を……!)
「はぁっ!」

自分たちの役割を思い出した俺は彼女を押し切った。
──そうだ、こんなところで手こずっている場合ではない。
彼女は自身の想像していた以上の力で押されたことによってマチェットを持ったままよろける。

(──今っ!)

ドンドンと立て続けに銃の轟音が聞こえる。
森さんだ。彼女は1挺の拳銃を構えている。
銃口から放たれた2発の銃弾が速水沙々の手から得物を手放させた。
マチェットが彼女の背後の地面に突き刺さる。

「──チッ」
「させるかっ!」

突き刺さったマチェットを引き抜こうと彼女はした。
けれどそれを許してしまっては先の猛攻を許すことにもなる。
俺は握っている脇差で彼女が引き抜こうとした瞬間に振るった。

「オイオイ、大人しく抜かせろって」

彼女はそれを右に避けると右手で拳をつくり、俺の頬を突いた。
表向きのアイドルという職業からは想像もできないくらいの威力だ。
そこら辺の不良とは違ってパンチが鋭い・・
これもサイボーグ化によって力を増大させているのだろうか。

「ぐっ……!」

咄嗟に頬に走った痛みを抑え、外した刃を横に振るった。
彼女はそれをしゃがんで回避すると嬉しそうな笑みを浮かべながら言った。

「……へぇ!オレのパンチに耐えるなんてな、久々だ!気に入ったぜっ!」
「そりゃどうもっ!」

どうやら彼女はいわゆる戦闘狂という人間の様だ。
漫画や小説フィクションではよく見かけるが……まさか現実にいるとは。
彼女は俺から離れてマチェットを引き抜きに走る。
けれど森さんが速水沙々が自身の得物に触れる直前に左右の拳銃から銃弾をそれぞれ1発放った。
彼女はマチェットに触れる寸前でその場で大きく跳躍して避ける。
やはりサイボーグとして身体能力が強化されているのか俺たちの身長を軽く超えるくらい大きく跳んだ。

「……っ、邪魔すンなよッ!」
「っ!」

速水沙々は森さんがマチェットを抜く邪魔をしたことが気に入らないのかターゲットを俺から森さんへと変えた。
森さんは2挺の拳銃で自身へと迫る彼女をようげきする。
その銃口からは残弾が全て発射される。
しかし速水沙々はそれを右、左と動くことで回避をする。

「!」
(弾切れ……!)
「死ねオラアァッ!」

武器を拳銃それ以外持たない森さんは必死に引き金を何回も何回も引く。
けれど撃ち尽くした銃から弾丸が放たれることは当然だがない。
森さんは恐怖から目を閉じて身構える。

「これで終わりだッ!」

俺は背後から彼女の脚を払った。

「ッ!?」

俺の存在を忘れ、森さんを排除することだけを考えていた彼女を転ばせるのは容易だった。
卑怯な手ではあるがこれは試合ではない、戦闘だ。
多少卑劣ダーティな戦い方をしても自身と仲間の生存、それが第一だ。
俺は森さんと共に手早く彼女を取り押さえると懐中から手錠を取り出し、嵌めた。

「ちっ……やられるなんてな……」
「勝った……?」
「……ああオマエらの勝ちだよ、手錠までかけられるなんてな」

やりやがる、と付け加える様に彼女は言った。
それは純粋な称賛だろう。その表情は悔しそうでもあるが嬉しそうでもあった。

「おーい、ヤマトー!ミナミー!」
「!レイ、渚!」

駐車場の外から俺たちの名を呼び走ってくる者がいる。
レイだ。その後ろを渚が走っている。

「よかった、無事だったんだね」
「ああ2人は?」
「隊長を1人倒したわ。あなたたちも……1人倒したみたいね」

渚は両手を後ろで拘束されて、地面に倒れている速水沙々を見て理解した様だ。

「ああ。本来なら避けて通るべき隊長2人を倒して進むことになったけど……」
「これで確認していない場所ポイントはあと1つだけ、だね……」

森さんはそう言った。
コンタクトに表示されている!マークはあと1つだ。

〈ああ。君たちは隊長を2人倒した……しかしそこにも隊長が配置されている可能性がある〉
「……だろうね。それに兵器の周りに戦闘員を配置しないとも思えないし……」
〈ああ。その前にちょっといいか?〉

そう言うとヘリが高度を下げて、俺たちの近くへと着陸する。
そして中からは直巳が出てくる。

「沙々チャンだったらこっちで見とくよ、このまま学園に運ぶ」
「ああ。それじゃあ頼むよ」
「……フン」

速水沙々はそのまま直巳に従ってヘリに乗る。
彼女は意外なことに抵抗せずにそのまま素直に乗った。

「それにしても色紙くらい積んどきゃよかったな……サイン書いてもらったのに」
「……しゃあねぇ、色紙じゃなくてもいいなら書いてやるよ」
「マジでッ!?……もうホントに今日が地球最後の日でもいい……!」

……戦場だというのに恐ろしく緊張感のない声音だ。
彼がもしヘリとかで支援を担当しないで武器を握って戦場に行ったら敵に即射殺されるだろう。
そんな彼を見て速水沙々も苦笑いを浮かべている。

「……さて、気をつけて行ってくれ」
「ああ」

俺たちはそのまま戦場を駆けて最後の目的地へと向かう。





「はぁ……はぁ……」
「……ありえない」

乱れた息を整えながら一対の刀と狙撃銃を構えた少女たちが同じ場所を睥睨する。
横転した高機動車、血を流しながら倒れている数十の戦闘員たち──その中に1人の男は立っていた。
黒いチェスターコートとテンガロンハットに身を包んだ180センチはある長身で筋肉質だが引き締まった身体を持つ男だ。

(まさか2人がやられるなんて……それになんなのあの武器・・は!?)

一対の刀を構える少女、藍川麻季は自身の持つ得物を構え直すと男の後ろを睨む。
──男の背後には微かな動きを繰り返す黒い塊があった。
それはぶよぶよとしていてスライムの様だが光沢はまるで金属の様なものだ。
微かな動きを繰り返すとはいえ、生命体ではなさそうだ。

「……後輩たちに任せなくてよかった」
「……はい。とても任せられる相手じゃないですしね……」

隊長と副隊長の2人はそう言って男を睨んだ。
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