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濫觴の四月[April of Beginning]
Mission29 液体金属兵装
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「はぁっ!」
麻季は男の懐に入り込むと一対の刃を叩き込む。
けれど刃は彼の身体に届くことはなかった。
「無駄だよ」
麻季と男の間には黒い壁が現れていた。
──いや、よく見るとそれは壁ではない。盾だ。
(まただ……)
七菜は狙撃銃のスコープを少し覗きながら何故盾が現れたか、それを見ていた。
──彼の背後にあった黒いスライムの様なものが麻季が刃を振るうと同時に高速で移動し、まるで意思を持った生物の様にその一部分を盾の様な形状に変えたのだ。
「……っ、このッ!」
麻季はその盾に向かって刃を振るう。
けれどその盾は一切の攻撃を受け付けない。
鉄と鉄のぶつかり合う音が虚しく響くだけだ。
麻季は一旦後ろに下がって彼と距離を取る。
それを見て男は「──形態変化」と短く言った。
「……!」
彼の言葉の後に少し遅れて突然盾が蠢く。
そして盾はどろどろと溶け始め、再びスライムの様な形状へと変わった。
「……麻季さん、あれは……?」
「……判らない。動いているところを見ると生物みたいだけど生きてる様には見えないし……」
「──“液体金属兵装”」
男はそう彼女たちの疑問に答えた。
彼が自身の手前にある黒い物質に手を伸ばすとそれは彼の掌に集束し、彼の手の中でとあるものへとその姿を変え始める。
(あれは……剣?)
七菜は形を変えたスライムの様なものを見て、身構える。
男は剣へと姿を変えたそれの剣身を軽く撫でると切っ先を麻季へと向けた。
「この武器は“決められた形を持たない武器”だ。僕の剣にもなれば盾にもなる」
「決められた形を持たない武器……!?」
「……そんなものが……!?」
液体金属兵装──その名の通り液体金属の形状を変えられる武器だ。
普段は柔らかく、滑らかに動くという流動性を見せるが男の意思によって形状を操り、硬度を高めることで鋭い切れ味を誇る剣やあらゆる攻撃を弾く盾にもなる。
「さぁ、もう1回かかってきなよ」
男は左手を前に出して挑発をする。
自身からは向かっていかずに彼女が自身の懐へと入り込もうとすることを許可するところに圧倒的な実力と自信があることが窺える。
「くっ……」
麻季は普段ならば挑発には乗らないが仲間を2人も倒され、冷静な判断を欠いていた。
一対の刃を両手に握り、一気に男との間合いを詰めていく。
「ちょっと麻季さん……いきなり敵に向かっていくのは……!」
七菜はそう言ったが麻季の耳には届いていない様だ。
──学園の中でも最強クラスの部隊であるサイレント・カプリチオ。
結成当時は難敵と交戦することはあったものの成長していくと同時にそういった敵と遭遇することはなくなっていた。
しかし今彼女たちの行く手に立ちはだかる男は久々に戦う難敵であり、ぬるま湯に浸かっていた彼女たちをここまで追い詰めるには充分な熱湯だった。
自分たちの強さに若干ではあるが驕っていたのもあり、圧倒的な実力で叩きのめされた麻季は隊長として2人を守り、2人に代わって男を撃破しなければならないという責任を感じていた。
(ああもう……麻季さんったら……!)
七菜は狙撃銃を構え、男へと照準を定める。
──今の隊長は男以外なにも見えなくなっている。
そんな彼女が敗北するという結末を阻止するために七菜はいつでも銃弾を放てる様にスコープ越しに男の動きを睨む様にして見る。
「はぁっ!」
麻季は右の刀を振るう。
男はその刃を自身の剣で受け止めた。
「まだまだァ!」
左の刀を男の側面から滑り込ませる様にして振るう。
側面はガラ空きだ。身体に刃を当てられれば相手を無力化できるだろう。
「……流石だ」
あと少しで刃が男の身体に触れるところだった。
その瞬間、男は剣を手放す。
(一体なにを──)
右の刃を受け止めている状態だというのに剣を手放してしまったら左の刃だけでなく、右の刃による攻撃も許してしまうことになる。
一体なにを企んでいるのだろうか、の麻季は警戒しつつもその最大の好機を逃さずに男へと左右の刃を滑らせる。
「っ!?」
けれど刃は男へと叩きつけられる前に防がれた。
一体なにによって?──それは手放した剣によってだ。
……いや、正確には変形した剣によってだ。
「──けれど惜しかったね。僕に刃を届けるにはその刃はまだ未熟だ」
男の手放した剣は地面へと落下中にスライムへと変形し、その身の一部を変形させて盾の様な形を作ることで一対の刃を防いだのだ。
麻季の刃は液体金属でできている盾によって男を切りつけることを阻まれている。
(ありえない硬度……アタシのブレードでも切れないなんて……!)
「麻季さん……っ!伏せてっ!」
副隊長である狙撃手は獲物を狩る鷹の様に鋭い目付きでスコープを睨み、獲物へと引導を渡す銃弾を放つ。
男の頭部を守るものは何1つない。
銃口から放たれた1発の銃弾は蒼い軌跡を宙に描きながら男の頭部へと飛んでいく──
「無駄だよ」
──しかし盾はぐにょりと全体的に伸びて、男を全体的に覆う繭の様な形へと変形し、その銃弾を防いだ。
「はぁっ!」
麻季はその液体金属でできた繭へと一対の刃を振り下ろす。
ガンガンと金属同士がぶつかり合う音が辺りに響くだけで刃を通すことはできなかった。
そんな時だった。
「っ!」
突然繭の様に変形した液体金属がまるで生物の様に蠢き、表面が波立ち始める。
自分の四方を無数のナイフが包囲しているかの様な嫌な感覚に麻季は思わず男から飛び退いて離れる。
1秒後、その判断は正解だったと知る。
──液体金属の繭の表面から無数の棘が飛び出てきたのだ。
その棘は液体金属とは思えないほどに鋭く、棘というよりは刃に近い形状をしていた。
もし飛び退くのがあと少しでも遅かったならば串刺しになっていただろう。
(なにあれ……あんなこともできるの!?)
自分の身体中を棘によって貫かれる未来を想像し、戦慄する麻季。
その恐怖が怒りによって囚われていた彼女に冷静さを取り戻させた。
その数秒後、無数の棘の生えた繭は崩れる様にして液体に戻る。
(……ダメ元だけど……っ!)
七菜は「どうせ弾かれるだろう」と諦めつつも男へと銃弾を放つ──
「ッ!」
──けれどそんな彼女の予想とは異なる結果となった。
銃弾が男の右肩を撃ち抜いたのだ。鮮やかな赤がコートを伝い、地にポタリポタリと模様を描く。
「……やってくれたね」
男はそれなりに出血をしているはずなのに痛がったり苦しむ様な表情を浮かべずに憎々しげな瞳で七菜を睥睨する。
(通った……?でもなんで……?)
「そんなに死にたいなら君から殺ってあげようかッ!」
液体の様な形状からスライム状に戻った自身の武器に手を伸ばし、再び剣となった液体金属兵装を持つ男。
そして自身に銃弾を当てた七菜へと剣を片手に駆けていく。
「くっ……!」
自身へと駆けてくる男へと銃弾を放ち、邀撃しようとする。
銃弾が軌跡を描き、彼の腹を貫く。
けれど男は自分の身体を銃弾で貫かれることを厭わずに七菜へと接近する。
(こいつ……撃たれてるのに痛がりもせずに……!?)
そしてそのまま七菜へと接近すると男は剣を振り上げる。
「しまっ──」
今からこの場から離れても遅い。
自身に終わりをもたらす剣が振り下ろされかけると同時に七菜は目を閉じる。
「……?」
しかしいつまで経っても終わりは訪れない。
少しずつ目を開けると──
「なっ……」
──剣を持った男がその場に倒れていた。
伏臥位……いわゆるうつ伏せの状態で、背中には右肩から左脇腹、左肩から右脇腹へと交差する様に2本の刀傷が刻まれている。
「……ごめん、七菜。少し冷静さを欠いてたね」
「麻季さんっ!」
──そして倒れている男の背後には一対の刃を構える隊長の姿。
七菜は麻季が自身へと向かっていた男を切り伏せたのだと理解した。
「……そしてこの男も冷静さを欠いて負けた。七菜の一撃を喰らって七菜しか見えてなかったね」
「ふっ……そうだな……」
男は身体の向きを変えて、仰向けになるとそのまま起き上がり、膝を突く。
切られたというのにまだ動ける体力があるとは想定外だった。
「流石学園トップクラスの部隊の隊長だ……君たち以外の部隊が僕を相手していたら敗北していただろうね」
「……そうかもね。あなたはただのテロリストじゃないからね」
麻季は鞘に収めた刀をいつでも抜ける様に柄に手を置いたまま男を睨む。
その双眸は男から反撃や逃走という手段を許さない。
そのまま麻季は男へと言う。
「……聞きたいことがあるんだけど」
「フッ、いいよ。僕に勝利したご褒美だ。なんでも聞くといい」
男は地面に突き刺した剣に縋り、膝を突いたままそう言った。
「なら、聞かせてもらうけど──その液体金属兵装とやらでさっきの銃弾も防げたんじゃないの?」
「『何故防がなかった』と聞きたいんだね。簡単な話さ」
男はそのまま言葉を続ける。
「この液体金属兵装はその名の通り、液体金属でできた武器さ。形状を自在に変えて剣にも盾にもなる。けれど液体金属だけで硬化させたり、形状を操ることはできない」
それもそうだろう。それができたら超能力者だ。
「液体金属を操るためにこれには硬化させるために無数の精密機械を混ぜてある。それで液体の様に柔らかくしたり、金属みたいに硬くしたりしていた訳さ」
けれど──と更に言葉を続ける。
「繭形態みたいに兵装の展開範囲が広いと機械の処理が遅れるんだ。処理中は完全に無力だ。だから『防がなかった』んじゃなくて『防げなかった』のさ」
「液体金属兵装……厄介な相手でしたね、麻季さん」
「うん……さて、次の質問をさせて貰うよ」
麻季の冷酷な瞳に睨まれたまま男は「どうぞ」と言う。
そして刀を抜くと質問をした。
「──なんで組織を裏切ったの?黒の部隊第2部隊隊長、志熊司」
麻季は男の懐に入り込むと一対の刃を叩き込む。
けれど刃は彼の身体に届くことはなかった。
「無駄だよ」
麻季と男の間には黒い壁が現れていた。
──いや、よく見るとそれは壁ではない。盾だ。
(まただ……)
七菜は狙撃銃のスコープを少し覗きながら何故盾が現れたか、それを見ていた。
──彼の背後にあった黒いスライムの様なものが麻季が刃を振るうと同時に高速で移動し、まるで意思を持った生物の様にその一部分を盾の様な形状に変えたのだ。
「……っ、このッ!」
麻季はその盾に向かって刃を振るう。
けれどその盾は一切の攻撃を受け付けない。
鉄と鉄のぶつかり合う音が虚しく響くだけだ。
麻季は一旦後ろに下がって彼と距離を取る。
それを見て男は「──形態変化」と短く言った。
「……!」
彼の言葉の後に少し遅れて突然盾が蠢く。
そして盾はどろどろと溶け始め、再びスライムの様な形状へと変わった。
「……麻季さん、あれは……?」
「……判らない。動いているところを見ると生物みたいだけど生きてる様には見えないし……」
「──“液体金属兵装”」
男はそう彼女たちの疑問に答えた。
彼が自身の手前にある黒い物質に手を伸ばすとそれは彼の掌に集束し、彼の手の中でとあるものへとその姿を変え始める。
(あれは……剣?)
七菜は形を変えたスライムの様なものを見て、身構える。
男は剣へと姿を変えたそれの剣身を軽く撫でると切っ先を麻季へと向けた。
「この武器は“決められた形を持たない武器”だ。僕の剣にもなれば盾にもなる」
「決められた形を持たない武器……!?」
「……そんなものが……!?」
液体金属兵装──その名の通り液体金属の形状を変えられる武器だ。
普段は柔らかく、滑らかに動くという流動性を見せるが男の意思によって形状を操り、硬度を高めることで鋭い切れ味を誇る剣やあらゆる攻撃を弾く盾にもなる。
「さぁ、もう1回かかってきなよ」
男は左手を前に出して挑発をする。
自身からは向かっていかずに彼女が自身の懐へと入り込もうとすることを許可するところに圧倒的な実力と自信があることが窺える。
「くっ……」
麻季は普段ならば挑発には乗らないが仲間を2人も倒され、冷静な判断を欠いていた。
一対の刃を両手に握り、一気に男との間合いを詰めていく。
「ちょっと麻季さん……いきなり敵に向かっていくのは……!」
七菜はそう言ったが麻季の耳には届いていない様だ。
──学園の中でも最強クラスの部隊であるサイレント・カプリチオ。
結成当時は難敵と交戦することはあったものの成長していくと同時にそういった敵と遭遇することはなくなっていた。
しかし今彼女たちの行く手に立ちはだかる男は久々に戦う難敵であり、ぬるま湯に浸かっていた彼女たちをここまで追い詰めるには充分な熱湯だった。
自分たちの強さに若干ではあるが驕っていたのもあり、圧倒的な実力で叩きのめされた麻季は隊長として2人を守り、2人に代わって男を撃破しなければならないという責任を感じていた。
(ああもう……麻季さんったら……!)
七菜は狙撃銃を構え、男へと照準を定める。
──今の隊長は男以外なにも見えなくなっている。
そんな彼女が敗北するという結末を阻止するために七菜はいつでも銃弾を放てる様にスコープ越しに男の動きを睨む様にして見る。
「はぁっ!」
麻季は右の刀を振るう。
男はその刃を自身の剣で受け止めた。
「まだまだァ!」
左の刀を男の側面から滑り込ませる様にして振るう。
側面はガラ空きだ。身体に刃を当てられれば相手を無力化できるだろう。
「……流石だ」
あと少しで刃が男の身体に触れるところだった。
その瞬間、男は剣を手放す。
(一体なにを──)
右の刃を受け止めている状態だというのに剣を手放してしまったら左の刃だけでなく、右の刃による攻撃も許してしまうことになる。
一体なにを企んでいるのだろうか、の麻季は警戒しつつもその最大の好機を逃さずに男へと左右の刃を滑らせる。
「っ!?」
けれど刃は男へと叩きつけられる前に防がれた。
一体なにによって?──それは手放した剣によってだ。
……いや、正確には変形した剣によってだ。
「──けれど惜しかったね。僕に刃を届けるにはその刃はまだ未熟だ」
男の手放した剣は地面へと落下中にスライムへと変形し、その身の一部を変形させて盾の様な形を作ることで一対の刃を防いだのだ。
麻季の刃は液体金属でできている盾によって男を切りつけることを阻まれている。
(ありえない硬度……アタシのブレードでも切れないなんて……!)
「麻季さん……っ!伏せてっ!」
副隊長である狙撃手は獲物を狩る鷹の様に鋭い目付きでスコープを睨み、獲物へと引導を渡す銃弾を放つ。
男の頭部を守るものは何1つない。
銃口から放たれた1発の銃弾は蒼い軌跡を宙に描きながら男の頭部へと飛んでいく──
「無駄だよ」
──しかし盾はぐにょりと全体的に伸びて、男を全体的に覆う繭の様な形へと変形し、その銃弾を防いだ。
「はぁっ!」
麻季はその液体金属でできた繭へと一対の刃を振り下ろす。
ガンガンと金属同士がぶつかり合う音が辺りに響くだけで刃を通すことはできなかった。
そんな時だった。
「っ!」
突然繭の様に変形した液体金属がまるで生物の様に蠢き、表面が波立ち始める。
自分の四方を無数のナイフが包囲しているかの様な嫌な感覚に麻季は思わず男から飛び退いて離れる。
1秒後、その判断は正解だったと知る。
──液体金属の繭の表面から無数の棘が飛び出てきたのだ。
その棘は液体金属とは思えないほどに鋭く、棘というよりは刃に近い形状をしていた。
もし飛び退くのがあと少しでも遅かったならば串刺しになっていただろう。
(なにあれ……あんなこともできるの!?)
自分の身体中を棘によって貫かれる未来を想像し、戦慄する麻季。
その恐怖が怒りによって囚われていた彼女に冷静さを取り戻させた。
その数秒後、無数の棘の生えた繭は崩れる様にして液体に戻る。
(……ダメ元だけど……っ!)
七菜は「どうせ弾かれるだろう」と諦めつつも男へと銃弾を放つ──
「ッ!」
──けれどそんな彼女の予想とは異なる結果となった。
銃弾が男の右肩を撃ち抜いたのだ。鮮やかな赤がコートを伝い、地にポタリポタリと模様を描く。
「……やってくれたね」
男はそれなりに出血をしているはずなのに痛がったり苦しむ様な表情を浮かべずに憎々しげな瞳で七菜を睥睨する。
(通った……?でもなんで……?)
「そんなに死にたいなら君から殺ってあげようかッ!」
液体の様な形状からスライム状に戻った自身の武器に手を伸ばし、再び剣となった液体金属兵装を持つ男。
そして自身に銃弾を当てた七菜へと剣を片手に駆けていく。
「くっ……!」
自身へと駆けてくる男へと銃弾を放ち、邀撃しようとする。
銃弾が軌跡を描き、彼の腹を貫く。
けれど男は自分の身体を銃弾で貫かれることを厭わずに七菜へと接近する。
(こいつ……撃たれてるのに痛がりもせずに……!?)
そしてそのまま七菜へと接近すると男は剣を振り上げる。
「しまっ──」
今からこの場から離れても遅い。
自身に終わりをもたらす剣が振り下ろされかけると同時に七菜は目を閉じる。
「……?」
しかしいつまで経っても終わりは訪れない。
少しずつ目を開けると──
「なっ……」
──剣を持った男がその場に倒れていた。
伏臥位……いわゆるうつ伏せの状態で、背中には右肩から左脇腹、左肩から右脇腹へと交差する様に2本の刀傷が刻まれている。
「……ごめん、七菜。少し冷静さを欠いてたね」
「麻季さんっ!」
──そして倒れている男の背後には一対の刃を構える隊長の姿。
七菜は麻季が自身へと向かっていた男を切り伏せたのだと理解した。
「……そしてこの男も冷静さを欠いて負けた。七菜の一撃を喰らって七菜しか見えてなかったね」
「ふっ……そうだな……」
男は身体の向きを変えて、仰向けになるとそのまま起き上がり、膝を突く。
切られたというのにまだ動ける体力があるとは想定外だった。
「流石学園トップクラスの部隊の隊長だ……君たち以外の部隊が僕を相手していたら敗北していただろうね」
「……そうかもね。あなたはただのテロリストじゃないからね」
麻季は鞘に収めた刀をいつでも抜ける様に柄に手を置いたまま男を睨む。
その双眸は男から反撃や逃走という手段を許さない。
そのまま麻季は男へと言う。
「……聞きたいことがあるんだけど」
「フッ、いいよ。僕に勝利したご褒美だ。なんでも聞くといい」
男は地面に突き刺した剣に縋り、膝を突いたままそう言った。
「なら、聞かせてもらうけど──その液体金属兵装とやらでさっきの銃弾も防げたんじゃないの?」
「『何故防がなかった』と聞きたいんだね。簡単な話さ」
男はそのまま言葉を続ける。
「この液体金属兵装はその名の通り、液体金属でできた武器さ。形状を自在に変えて剣にも盾にもなる。けれど液体金属だけで硬化させたり、形状を操ることはできない」
それもそうだろう。それができたら超能力者だ。
「液体金属を操るためにこれには硬化させるために無数の精密機械を混ぜてある。それで液体の様に柔らかくしたり、金属みたいに硬くしたりしていた訳さ」
けれど──と更に言葉を続ける。
「繭形態みたいに兵装の展開範囲が広いと機械の処理が遅れるんだ。処理中は完全に無力だ。だから『防がなかった』んじゃなくて『防げなかった』のさ」
「液体金属兵装……厄介な相手でしたね、麻季さん」
「うん……さて、次の質問をさせて貰うよ」
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