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兵革の五月[May of Struggle]
Mission1 嘔気横溢
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──五月、春の後半に当たる月だ。
別名を皐月、グレゴリオ暦で1年の5番目の月だ。
「うっ……吐きそう……」
俺たちは今姉さんの運転する車に乗っていた。
俺は彼女の荒い運転でまさに嘔吐寸前だった。
「我慢して!あたしが運転下手なのは知ってるはずよ!」
運転席でハンドルを握る俺の姉、東条仙がそう言った。
目線は前方に固定されていて、その表情に余裕はない。
車が右、左……と激しく揺れ、俺の嘔気を更に煽る。
「知ってるけどさ……どういうわけか前より下手くそになってない?」
今にも爆発寸前の嘔気を抑えつつ俺はそう問うた。
俺は以前彼女の運転する車に乗ったことがある。
けれど以前はここまで酷い運転ではなかった(世間一般で見れば酷い運転ではあったが)。
「しばらく乗ってなかったからね……」
「そういや運転歴は何年なの?仙ちゃん」
助手席で緑茶の入ったペットポトルを一口飲んでから幼馴染の南室拓海がそう彼女に問うた。
「19の時に取ったから……今年で6年目ね」
(6年目でこんなに下手なのかよ……)
上達しないで逆に下手になるとは一体どういうことなのだろうか。
俺は激しい揺れで嘔気を刺激され、若干涙目になりつつそう思った。
「おいおい……大和。大丈夫かよ、顔真っ青だぜ?」
俺の隣に座っている友人、赤城直巳がそう言った。
俺に『顔が真っ青』と言うがそんな彼の顔色は普通だ。
「なんで直巳は平気そうなんだよ……」
「んー……いつもヘリに乗ってるからじゃないか?時々荒い運転もするし、乗り物酔いに対する耐性がついたのかな」
それは羨ましい。その耐性とやらを俺にも分けて欲しい。
──一応言っておくと俺はそこまで乗り物酔いをするタイプではない。どちらかというと乗り物酔いはしない方だ。
けれど彼女の運転は別だ。直巳の様に特殊なタイプでないのならば確実に酔うだろう。
「大和、本当に大丈夫?お水あるけど飲む?」
彼女はそう言ってレジ袋からミネラルウォーターの入ったペットポトルを取り出す。
未開封のものだ。冷えているらしく、ペットポトルの表面には水滴がついている。
「ありがとう拓海姉……もらうよ……」
差し出されたそれを受け取る。
酔っている身体は掌に冷たい水滴が触れただけでも心地よかった。
俺はキャップを開けてよく冷えた水を体内に流し込んだ。
少し酔いが楽になった様な気がした。
「中々強烈な運転だね……これは……」
俺の後ろでそう声がする。
毛先が薄く赤と青に染められた長い黒髪、縞瑪瑙の様に黒い瞳──雪の様に白い肌を持つ少女だ。
そしてまず目に入ったのは左目を隠す黒い眼帯だ。
北見一颯──森さんのルームメイトだという少女だ。今回の旅行で森さんが誘ったらしい。
メッシュにアイパッチとその格好は清楚な森さんとは真反対でロックで今時といった感じだ。
「大丈夫?乗り物酔いには飴もいいって聞くけど……舐める?」
「ああ……ありがたく頂くよ……」
4月の終わり、新たに俺たち家族の一員となった少女、凛華はそんな彼女へと飴を差し出す。
「一颯ちゃんもお水飲む?まだあるよ」
拓海姉は袋からペットボトルを取り出し、俺経由で北見さんへと渡した。
「ああすまない……というか、何故南室先輩も平気なんだい……?」
「えー?結構仙ちゃんのドライブとか付き合わされてるからね。何回も乗っていれば慣れるよ」
(姉さんのドライブに……?しかも何回も……?)
それは申し訳ない。
「う……ところで姉さん、次のパーキングまであとどれくらい?」
「えーっと……?あと……7キロ?ね」
前に固定された視線を無理やりカーナビへとずらし、パーキングエリアまでの距離を確認する姉さん。
その様子は見ていて危なっかしい。
「ななきろ……?」
けれど俺はそれよりも嘔吐寸前で、込み上げてくる嘔気と戦っているので残りの距離に絶望した。
「ちょ……ちょっと、大和……大丈夫……?」
「……じゃないかも」
5月最初の出来事は嘔気との格闘だった。
しかし今の俺たちには知る由もなかった。
この後俺たちを待ち受けている悪意の存在に──
別名を皐月、グレゴリオ暦で1年の5番目の月だ。
「うっ……吐きそう……」
俺たちは今姉さんの運転する車に乗っていた。
俺は彼女の荒い運転でまさに嘔吐寸前だった。
「我慢して!あたしが運転下手なのは知ってるはずよ!」
運転席でハンドルを握る俺の姉、東条仙がそう言った。
目線は前方に固定されていて、その表情に余裕はない。
車が右、左……と激しく揺れ、俺の嘔気を更に煽る。
「知ってるけどさ……どういうわけか前より下手くそになってない?」
今にも爆発寸前の嘔気を抑えつつ俺はそう問うた。
俺は以前彼女の運転する車に乗ったことがある。
けれど以前はここまで酷い運転ではなかった(世間一般で見れば酷い運転ではあったが)。
「しばらく乗ってなかったからね……」
「そういや運転歴は何年なの?仙ちゃん」
助手席で緑茶の入ったペットポトルを一口飲んでから幼馴染の南室拓海がそう彼女に問うた。
「19の時に取ったから……今年で6年目ね」
(6年目でこんなに下手なのかよ……)
上達しないで逆に下手になるとは一体どういうことなのだろうか。
俺は激しい揺れで嘔気を刺激され、若干涙目になりつつそう思った。
「おいおい……大和。大丈夫かよ、顔真っ青だぜ?」
俺の隣に座っている友人、赤城直巳がそう言った。
俺に『顔が真っ青』と言うがそんな彼の顔色は普通だ。
「なんで直巳は平気そうなんだよ……」
「んー……いつもヘリに乗ってるからじゃないか?時々荒い運転もするし、乗り物酔いに対する耐性がついたのかな」
それは羨ましい。その耐性とやらを俺にも分けて欲しい。
──一応言っておくと俺はそこまで乗り物酔いをするタイプではない。どちらかというと乗り物酔いはしない方だ。
けれど彼女の運転は別だ。直巳の様に特殊なタイプでないのならば確実に酔うだろう。
「大和、本当に大丈夫?お水あるけど飲む?」
彼女はそう言ってレジ袋からミネラルウォーターの入ったペットポトルを取り出す。
未開封のものだ。冷えているらしく、ペットポトルの表面には水滴がついている。
「ありがとう拓海姉……もらうよ……」
差し出されたそれを受け取る。
酔っている身体は掌に冷たい水滴が触れただけでも心地よかった。
俺はキャップを開けてよく冷えた水を体内に流し込んだ。
少し酔いが楽になった様な気がした。
「中々強烈な運転だね……これは……」
俺の後ろでそう声がする。
毛先が薄く赤と青に染められた長い黒髪、縞瑪瑙の様に黒い瞳──雪の様に白い肌を持つ少女だ。
そしてまず目に入ったのは左目を隠す黒い眼帯だ。
北見一颯──森さんのルームメイトだという少女だ。今回の旅行で森さんが誘ったらしい。
メッシュにアイパッチとその格好は清楚な森さんとは真反対でロックで今時といった感じだ。
「大丈夫?乗り物酔いには飴もいいって聞くけど……舐める?」
「ああ……ありがたく頂くよ……」
4月の終わり、新たに俺たち家族の一員となった少女、凛華はそんな彼女へと飴を差し出す。
「一颯ちゃんもお水飲む?まだあるよ」
拓海姉は袋からペットボトルを取り出し、俺経由で北見さんへと渡した。
「ああすまない……というか、何故南室先輩も平気なんだい……?」
「えー?結構仙ちゃんのドライブとか付き合わされてるからね。何回も乗っていれば慣れるよ」
(姉さんのドライブに……?しかも何回も……?)
それは申し訳ない。
「う……ところで姉さん、次のパーキングまであとどれくらい?」
「えーっと……?あと……7キロ?ね」
前に固定された視線を無理やりカーナビへとずらし、パーキングエリアまでの距離を確認する姉さん。
その様子は見ていて危なっかしい。
「ななきろ……?」
けれど俺はそれよりも嘔吐寸前で、込み上げてくる嘔気と戦っているので残りの距離に絶望した。
「ちょ……ちょっと、大和……大丈夫……?」
「……じゃないかも」
5月最初の出来事は嘔気との格闘だった。
しかし今の俺たちには知る由もなかった。
この後俺たちを待ち受けている悪意の存在に──
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