ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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兵革の五月[May of Struggle]

Mission14 反撃開始③

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「速水沙々……!」
「それに志熊しぐまつかさも……!」

彼らの姿を見た瞬間に俺たちは戦闘態勢に入る。
GRの隊長クラスが2人、しかも男の方は前回のミッションで藍川先輩と七菜さんを苦戦させた人間だ。

「そこを退いてくれ。今構っている余裕はないんだ」
「退けだぁ?退くわけねぇだろ。頼まれた仕事なンだから」

そう言って彼女は自身の左掌を虚空に向かって振るう。
すると掌から黒いなにかが母胎から生まれ出る胎児の様に素早く出てきた。マチェットだ。
彼女は自身の掌から現れたそれを握ると構える。

「あれは……」
「便利なモンだろ?武器をしまっておけンだ」

……彼女は人智を超えた神速と言うべき速さで前回俺たちを翻弄した。
その素早さの秘密、それはサイボーグ化という技術だった。
まだ齢15の少女だが彼女は黒の部隊第1部隊隊長を務めている。

「……まぁそれはいい。それで仕事とは?」
「今逃げやがった男の警備。これでもたんまりとカネは貰ってンだ」
「そういうことさ。それと──」

黒のチェスターコートとテンガロンハットを身につけた長身の男が背後に存在するものに触れる。
スライムの様にぶよぶよとしているが金属の様な光沢を持つ黒い塊だ。
微かな動きを繰り返すそれは生命体などではなく、“液体金属兵装リキッドメタル・アームズ”と呼ばれる彼の武器だ。

「──今回は手加減をしない、全力で戦わせてもらう」

彼が触れた瞬間にそれは薄く広がり、彼の全身を包み込んだ。
そしてウニョウニョと動くと1つの形を作った。

「鎧……!?」

それはまるで西洋騎士が身に纏う鎧だった。
彼は液体金属によって覆われた身体を見て「……ふむ」と2回ほど左掌を閉じたり開いたりした。

「……やっぱり慣れないな、この形態は」
「そうか?似合ってるぜ、“黒騎士シュヴァルツリッター”」

ニヤニヤ笑みを浮かべながら彼の異名らしきものを口にした速水沙々に「茶化さないでくれ」とだけ言う志熊司。
彼は右手に持つ剣を構え、俺たちの懐へと飛び込んできた。

「!」

鎧を纏っているとは思えない速度だ。
突然のことに反応できずにこのまま切り殺される、と目を閉じる。
けれど死は訪れない。俺は恐る恐る閉じた目を開ける。

「湖城先生っ!」

死が訪れなかった原因、それは湖城先生が志熊の剣を受け止めていたからだった。
しかも剣を受け止めているものは特殊警棒だった。

「残念だったな、貴様に彼らは殺させない」
「……まさかこの一撃を防ぐなんてね、鎧着用者とは思えないほどの速度……それで不意をつくつもりだったんだけれど……」

2人はしばらく警棒と刃で押し合うが志熊が諦めた様に後ろに大きく飛び退いた。
そして剣を構え直す。
すると──

「……!それは……」

──彼の鎧、そして剣が濃い紫色に輝き始める。
それを見た湖城先生が構え直し、姿勢を低くする。

「チップ所持者か……!」
「正解さ」

紫に輝く自身の武器を一度虚空に振るうと彼はそう答えた。
チップ……“エクセリクシチップ”のことだ。
国内最大手の軍需企業アームズメイカー社の前研究開発部部長が作り出した24個のそれは武器に搭載すると武器使用社の行動原理に応じて武器に力を与える……というものだ。
行動原理を力にするという現代の科学の域を遥かに超えたと言っても過言ではないそれの全容は明らかになっていない。
テロリストである彼が24個のうちの1つを持っているとは……。

「おっと、チップ持ちなのは志熊コイツだけじゃないぜ?」
「まさか……」

隣にいる速水沙々は片手に持っていたマチェットを両手で構えると側面を向ける様にして構える。
すると彼女の得物が深紅に輝き始める。

「ああ。オレもチップを持ってンだ」
「チップ所持者が2人だと……!」

湖城先生が面倒そうな表情を浮かべる。

「……仕方ない。君たち!」
「は、はい!」

彼女は目線を彼らに向けたまま俺たちに言った。

「チップ所持者を相手にするのは危険だ!ここは私が引き受ける!君たちは逃げた奴を追ってくれ!」
〈……柚ちゃん、その心配はいらないよ〉

無線機越しに七菜さんがそう言った。

〈みんなは強いから……きっと勝てる。それよりも柚ちゃんたちはあいつを追いかけて〉
「七菜……判った、お前がそう言うのなら大丈夫なのだろう。君たち、すまないがこの場は君たちに任せた!」
「判りました!」

湖城先生をはじめとした湖城家の面々、そして環さんをはじめとした流城家の面々が一斉に走っていく。
そんな彼らへと駆けていき、マチェットを振るう速水沙々。

「逃がすかよ──」
「──させない」

そんな彼女へと青緑に輝く軌跡を描き、1発の銃弾が飛んでいく。
銃弾の放たれた方向を見るとそこには七菜さんがいた。

「みんなの邪魔は……させないッ!もう二度とこの“安寧”は崩させないッ!」
「どうやら……彼女もチップ持ちみたいだ」
「へぇ……悪くねえ。チップ持ち同士でガチでぶつかり合うの……いっぺんやってみたかったンだよなっ!」

こうして俺たちと2人の戦いが始まる。
果たしてどちらの行動原理おもいが勝利するのだろうか──
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