ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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兵革の五月[May of Struggle]

Mission16 反撃開始⑤

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「判りました。俺たちヴァイオレント・ノクターンはその依頼を引き受けます」

──彼女が思い出すのは両家襲撃の犯人たちを逮捕するという依頼に若き対テロ戦闘員たちが応じたという数時間前のことだ。

「……いいの?これは別に強制じゃないんだよ──」
「はい、判ってます。これは強制ではない」

でも、と続ける。

「ここにいる全員が、湖城先輩と同じ気持ちなんです」
「うん、あいつら全員ボッコボコにしないと気が済まないよ」
「同感。七菜とみんなにこんな思いをさせるなんて……死罪に値するよ」

レイと藍川先輩が腰の刀の柄に手を置いてそう言った。
特に彼女と仲の良い藍川先輩は放っておいたら犯人たちを全員殺してしまいそうだ。
それくらいに彼女の怒りが感じられた。

「みんな……判った、力を貸して」

彼女はそう言って俺に手を差し出す。

「勿論です、湖城先輩」

当然俺は自身の手を伸ばすと彼女の手を握った。

「……ありがとう、みんな。あと、先輩なんてつけなくていいよ。七菜でいい」
「判りました、七菜さん」

俺が早速彼女の名を呼ぶと彼女は口元に微かな笑みを浮かべた。
「──では、早速いいか?」と神崎さんが遠慮気味に手を挙げ、そう言った。

「……先ほどの襲撃犯たちがどの様にして会場を襲撃してきたのかを先ほど分担して調べてみた。私は直前まで異常がなかったのに照明が落ちたことに疑問を持ち、地下電気室を調べに行った」
「ああ……どうだった?」
「配電盤が破壊されていた、なにか道具を使用して壊された様な跡だった」

彼女はノートパソコンのキーボードを片手で叩き、表示された画像を俺たちへと見せる。
そこには黒く焼け焦げた機械の箱が映っていた。

「うわ……酷いな……」
「見た感じシステムを直接攻撃するだけの知能はなさそうなチンパンジーどもだったしな、物理的な破壊しかできないとは……ナンセンスだ」

パソコンを閉じ、そう嘲笑する様に言った。

「千秋、それはチンパンジーに失礼だよ」

レイに窘められて納得した様に「ふむ、それもそうか」と呟く。

「それはそうと、あいつらがどうやって会議室に入ってきたのか……入るために使った道具を持ってきたわ」

姉さんはそう言うと手に持っていたものを俺たちへと投げ渡す。
投げ渡されたものを見て、「え」と驚きの声を上げたのは森さんと渚だった。

「これって……」
「ワイヤーショット!?」

──拳銃の様な形をしているがそれは弾丸ではなく、銛付きのワイヤーを射出し、使用者の立体的な動きを可能とするものだ。
それなりに使われたものなのか表面の塗装が剥がれていたり、錆びていたりする。

「ああそうだ。森さんや西郷さんが使用しているものと同型のものだ」
「それのお陰で7階の会議室から入れたってことね……」

俺も不思議に思っていた。何故奴らは7階の窓から会議室に入ることができたか。
その答えが今持っているものだとは思わなかった。

「何故奴らがこれを持っていたのかは謎だが……おかしな点があるんだ」
「……?どこもおかしな点なんて──」
「──あるんだな、そいつが」

ない様な気がするけど、と言いかけたがそれは後ろにいた人物によって遮られた。
直巳だ。彼は片手をポケットに手を入れたままうろうろと俺たちの周りを歩き始める。

「連中は配電盤を破壊して、ホテル全体を暗くしてから両家の人間たちを襲った。そン時、俺たちは分担して監視カメラを見ていた。だが不審な人物は誰1人として映ってなかった」
「……あれ、それっておかしい様な気が……?」

森さんがなにかに微かに気付いた様に言った。

「……あの人たちは配電盤を壊して、照明が消えたところを襲撃してきた。千秋ちゃん、配電盤があるのは地下電気室だったよね?」
「ああ。その通りだ」
「地下電気室まで行く道に監視カメラがないはずがない……それなのに映らずに配電盤を壊した。それっておかしい気がする」

彼女がそこまで言って俺たち全員は全員が「あ」となった。
推理小説の探偵よろしくすらすらと言葉を紡いだ森さんは最後に「……合ってる、かな?」と上目遣いで神崎さんを見た。
その答えを称賛する様に神崎さんは手を二三叩いた。

「百点満点の解答だ」
「ああ。俺たちは見てたんだ、ちゃんとな。でも映ってなかった」
「彼らに監視カメラを気にして行動する様な知能があるとは思えない。どうやって映らずに地下電気室の配電盤を破壊したか……まぁでも、それはあいつらを倒してからどうやったかを聞き出せばいいわね」

姉さんはそう言った。まさか謎を解かずに犯人たちに直接聞き出そうと言うとは思わなかった。
しかし彼女の言う通りここでそれを考えるのは大して重要なことでもない。

「それなら……早速動くとしよう」
「待って」

閉じていた扉がぎぃっと鈍い音を立てて開き、俺たち全員の意識がそちらに向く。
そこに立っていたのは先ほどの女性だった。

ふみちゃん……」
「……その、ごめんなさい、七菜……あたってしまって……」

流城家の一人である彼女は申し訳なさそうに七菜さんの前まで歩いていき、慎重に頭を下げる。

「……大丈夫。あ、でも一つだけお願いがあるんだけど……」
「ええ、それが七菜のためになるのならばなんでも聞くわ」
「……じゃあ、流城家で動けそうな人間をこの作戦に参加させてくれるかな。あ、勿論強制じゃなくて」
「え……それでいいの?」

贖罪のためにどんなことでも聞くつもりだったがまさか報復に流城家の人間を動かすという願いに彼女は思わずぽかんとした。

「……うん。流城家の人たちもやられた仕返しをしたいでしょ。それに相手も大人数だし、それなら大人数で向かった方がいいでしょ?」
「確かにそうだけど……」
「柚ちゃん、湖城家ウチは何人くらい動かせる?」

身体の向きを変えて、七菜さんは自身の姉に問う。

「……そうだな、七菜と私、蒼くらいだろうか」

彼女は数瞬考えてから答える。
列挙された人物を聞いて、少ないと感じたが年齢や体力を考慮してみるとその三人以外は無理だろう。
そう思っていると再び扉が鈍い音を立てて、開く。

「いや、僕たちも参加させてもらおう」
「ええ。せっかくの和平を台無しにして下さった彼らをぶっちめないと気が済みませんわ」

そう言って入ってきたのは基綱さんと若葉さんだ。
二人とも手に薙刀を握っている。

「二人とも……いいのか?」
「アタシも参加させてもらおうか」

二人の後ろにいた一人の人物もそう言った。
トメさんだ。

「お婆様……大丈夫なのか?」
「これでも破落戸ごろつきの一人や二人を相手にする体力はある。年寄りを嘗めん方がいいぞ」

そううっすらと笑う彼女だが冗談に聞こえなかった。

「なら、これで全員だな──」
「待った。僕もいるよ」

杖を突きながら更に新たな人間がやって来る。

「環……大丈夫なの?」
「怪我ならかすり傷だしね。それに特に問題はないって医者も言ってたしね」
「なら、これで全員だな。それでは本ミッションの内容をもう一度確認してもらう」

湖城先生は一度呼吸をしてから続ける。

「本ミッションは湖城・流城両家を襲撃した人間たちの逮捕だ。連中を逮捕するためならば多少怪我を負わせても構わない。これからそれぞれの役割を言うので各自己の役割を全うする様に。2300フタサンマルマル、ミッション開始だ!」
『了解!』

そうして俺たちと湖城・流城両家の人々による大規模作戦が開始された。
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