ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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兵革の五月[May of Struggle]

Mission23 凛華VS麻季

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二人は同時に得物を構えると相手へと向かわずにその場で相手の目を睨み合った。

「…………」
「…………」

鋭い緊張が走る。戦っているわけでもない俺たちも思わず固唾を呑んだ。
ジリジリと二人は構えた得物の切っ先を相手の目へと向け、迫る。

──相手は手練れだ。踏み込み方を少しでも違えればそれは敗北を意味する。

それを理解している二人は中々踏み出さずに相手の出方を窺っていた。
呼吸、動作、視線……二人は互いに睨み合い、相手の情報を得ようとする。相手の情報を得られればどの様に攻めるのが最適解なのかが判るからだ。

(この子、記憶がないって言ってたけど……それならこの構え方や呼吸の仕方も全て備わっていたものなのかな……?)

藍川先輩は自身に向けられる殺気に似たなにかを肌で感じ取る。

──この子は、下手をすれば自分よりも強いかもしれない。

そう感じた彼女は武器を握り直し、地面を蹴った。

「!」

そして凛華に一気に迫る。
けれど彼女も藍川先輩の肉迫に対してなにもしないわけがない。

「はッ!」

彼女は迫り来る藍川先輩へとサーベルを勢いよく突き出した。
その行動に俺たち全員が目が点になった。

(いきなり刺突……!?受け止めると思ったのに……)

彼女の予想外の行動になにかを企んでいるのではないだろうかという思いを禁じ得ない。
藍川先輩は彼女の刺突をひらりと上半身を逸らして避けると彼女の側面に回り込んだ。

(刺突は悪手だったね。受け止めていれば隙も少なかっただろうに……)

そして右の刃を彼女へと向けて振るった。
凛華はサーベルで刺突したばかりで、故に側面はがら空きだ。

「……っ!」
「貰ったッ!」

藍川先輩は思わず勝利を確信する。
けれど凛華によって確信していた勝利は粉々に砕かれる。
凛華は自らに迫る刃を後ろに大きく仰け反ることで回避した。

「あんなに反れるなんて……」
「身体も柔らかいみたいだね」

凛華は仰け反った体勢から戻ろうとする。
しかし藍川先輩が振るっていない左の刃を彼女へと勢いよく振るった。

「今度こそ──」

──貰った。そう思ったがそうはいかなかった。
凛華は咄嗟にサーベルを構え直すと彼女の刃を受け止める。

「くっ……」

今のは確実に勝ったと思ったが自身の望む勝利ものが訪れないことに藍川先輩は思わずじれったさを感じる。
凛華はそんな彼女を蹴り上げる。

「しまった……!」

──否、正確に言えば蹴り上げたものは彼女の刀だ。
蹴られ、そのままかなりの高さまで飛んだ刀に藍川先輩の意識が一瞬向いた。
刹那ともその時を逃さずに凛華は彼女へと得物を振るう。

「危なかった……!」

けれど彼女は凛華の振るった刃を驚くべきことに左手の指全てを使って受け止めた。
いわゆる白刃取りだ。まさか現実で、しかも片手でそれをやる人間がいるとは思いもしなかった。
そして彼女は空いている右の手で刃を凛華へと振るった。

「……負けました」

──勝負は決まった。
藍川先輩は肩で息を整えながら凛華の肌へと当てる寸前の刃を引き、彼女に蹴り上げられてその後重力に従って落ちてきたもう片方の刃を掴み、鞘に収める。

「ありがとう、いい勝負だったよ」

そう言って彼女は凛華へと右手を差し出す。
凛華はサーベルを収めると差し出された手を握った。

「ありがとうございました、藍川先輩」
「凄いいい腕だったよ。……ねぇ、もしよかったらサイレント・カプリチオうちのぶたいに入らない?」

握手を交わしながらそう提案をする。

「え?」
「アタシの部隊って今四人なんだ。三つ枠があるし、君に入ってくれると嬉しいなって思って」
「藍川先輩、もしかして凛華の実力を見るために戦ったんですか?」

俺の問いに彼女は「そうだよ」と即答する。

「襲撃犯たちを襲撃する時に『多分この子強いだろうな』って思ってたから、アタシの部隊に引き入れようと思って。それで戦って実力を見てみたかったんだ、隊長としてね」
「……麻季さんは自分が仲間にしたいと思った人と一回戦ってみるからね」

七菜さんはそう言った。彼女もサイレント・カプリチオの一員で副隊長だ。ということは藍川先輩と戦ったのだろうか。

「それで……部隊に入ってくれるかな?」
「……勿論強制じゃないよ」
「大和……入っても大丈夫?」

凛華はそう不安そうな瞳を俺へと向ける。
そんな彼女へと俺は「うん」と頷いてみせる。

「凛華がそうしたいなら。凛華が決めていいよ」

俺に彼女の意志を決定する権利はない。彼女は彼女なのだから。
俺の答えに凛華は「ありがとう」と微笑み、先輩に答えた。

「お願いします、隊長」
「うん、よろしくね。凛華ちゃん」

そう言って二人は再び握手を交わす。
それは先ほどの握手ものよりも固い握手だった。
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