ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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兵革の五月[May of Struggle]

Mission34 紅宮篝の過去

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突如何者かに操られているかの様にベアトリクスへと襲いかかった紅宮篝。
それは全員が考えている通り、彼女の意志ではなかった。
ではなにに操られているのか、その答えは彼女の武器にあった。

──ワタシ、紅宮篝はとある神社の神主の一人娘として生まれた。

「おーい、篝。拝殿の掃除に行くぞ」

箒を手に、ワタシの父はそう言った。
父さん──紅宮いさりはこの紅宮神社の神主だ。

「ああ父さん、今行く!」

ワタシは返事をすると立ち上がり、父さんと共に神社の拝殿へと向かう。
神主である父さんと神主の娘であるワタシの日課は神社の掃除から始まる。

「……それにしてもお前もだいぶ大きくなったな。母さんに似てきた」

拝殿の床を箒で掃きながら唐突にそう言った。

「母さん……どんな人だったんだ?」

そういえば聞いたことがなかった。
幼い頃に病気で死んだとしか聞いていない。
ワタシの問いに父さんは手を止め、懐中からなにかを取り出した。

「楚々とした女性ひとだったよ。それと同時に気丈だった……」

彼が懐から取り出したのは一枚の写真だった。
父さんは掃く手を止めて写真に写る一人の女性を見ていた。

「……しかしまさか風邪をこじらせて病没するなんてな。彼女もお前同様に小さい頃は病気がちだったと聞いていたが……」

瞳を母さんからワタシに移すと彼はワタシの頭を撫でた。

「お前も最近じゃ元気になってきたしな、もし私が倒れても強く生きていけるだろう」
「……父さん、悲しいことは……」

言わないでくれ。言い切ったつもりだったが喉の奥でつっかえた。
けれど父さんはワタシの言いたいことを理解した様に頭に乗せた手を肩に回すとそのまま抱き寄せた。

「ああ、すまない。お前を独りにするにはまだ早いな」
「……そう思うんなら朝夕の食事、塩分を少なめにしてくれ」

抱き寄せられたままワタシは父さんに対してそう言った。
……味覚音痴なのか父さんは塩をこれでもかというくらいに料理に投入する。
この間も大さじ一杯でいい料理を「味が薄い」ということで五倍は入れていた。

「う゛……しかしそれでは味が……」
「味と健康、どっちを取るんだ」

詰問調で言うとしおれた青菜の様に萎縮し、噤んでしまった。
こんな会話だろうと神社での出来事は全て宝物だった。
──しかしある日、神社は爆音と共に一瞬のうちに炎に包まれた。
理由は何者かによる自爆テロだった。

「っ!」

神社の拝殿にいたワタシたちは突然炎包まれ、それと同時に天井が崩れ落ちた。
しかしワタシには怪我がなかった。神社を一瞬で炎に包むほどの爆発があったというのにだ。
その理由は簡単だった。

「ぐふ……ッ、篝……」
「父さんッ!」

──それはワタシを覆う様にして父さんが抱いていたからだ。
そのお陰でワタシは無傷だった。
けれど当然爆発を浴びた父さんは無事ではなかった。

「篝……強く生きろ……」

彼はそう言うと口から血を吐き、そのまま命を手放した。
よく見てみると彼の胸には鋭く尖った木が突き刺さっていて、そこからは血潮が滝の如く流れ出ているのだ。

「父さん……っ」

ワタシは泣きつつ、燃え盛る拝殿から脱出する。
ワタシの膂力では父さんを引きずってもせいぜい数センチ動かせる程度だ。
それにこれだけ出血していては助からない。
ぼうぼうと紅に包まれていく拝殿から運び出したかったものの無理だと判断し、ワタシは外に出て、思い切り酸素を取り込んだ。
その時、外に戦闘服やヘルメットに身を包んだ人物が複数人いるのを見た。

「こちらアルファチーム、これより神社に突入します」
〈了解。生存者は保護しろ〉

彼らはどうやら対テロ党の戦闘員である様だった。
彼らが来たのはテロリストによる自爆テロで、神社が焼けたという通報を受けたかららしい。
彼らの役割はテロの鎮圧やテロリストの逮捕、被害者の保護だ。
神社はすぐに彼らによって規制線が張られ、そこにいたワタシは保護された。

「神社に一名生存者が。服装からして神主の娘の様です」
〈そうか。怪我をしている様ならば治療をして、私の所まで連れてきてくれ〉
「了解です。さぁ、治療しに行こう」

ワタシはそのまま対テロ党の戦闘員によって連れられ、治療を受ける。
その時もワタシは泣いていた。理由は当然ワタシの生まれ育った場所でもあり宝でもある神社が焼失したからだ。

「もうすぐ党首様が来るからね」

強い失意にうちひしがれていたワタシはやがて涙も枯れ、魂の抜けた人形の様に虚空を見つめていた。
そんなワタシの前に彼は現れた。

「待たせたな、私が対テロ党の党首だ」

年老いた彼はそう言うがその時のワタシにとってはどうでもよかった。
ワタシのほとんどである神社があんな風になった今、生きていても無駄な時間を過ごすだけだ。
心が軋り、崩れ去ろうとしている時、彼はワタシに言った。

「……この神社、修復したいか」

突然の問いに一瞬逡巡した。
しかしその問いにワタシは当然頷いた。

「この神社をこの様にした狼藉者共……お前自身の手で裁きを与えたいか」

党首はワタシに再び問うた。
今度は彼がなにを言っているのかが幼いワタシには理解できなかった。
裁きを与える……?

「そうだな……奴らの様な連中をお前自身の手で罰を与えたいか、ということだ」

そんなワタシに彼は判りやすく言い換えてくれた。
そしてワタシは理解をした。
それと同時に心の奥底からとある感情がふつふつと暗く、熱く燃え盛り始めたのを感じた。

「どうだ、奴らに裁きを与えるか。我々はそれを可能にする力を持っている」

彼の言っていることを理解したワタシは頷いた。

──それからワタシは対テロ党によって育てられた。

身体を強化するための訓練はとても過酷だったがワタシはあの時燃え盛った感情を頼りに食らい付いていった。
そして訓練漬けの日々を重ねていき、ワタシが15になる時、対テロ党の一部隊を率いる隊長の座に就くこととなった。

「おめでとう、篝」
「流石だ、篝。その年齢としで隊長になるなんてな」
「紅宮隊長、ついていきますよ」

対テロ党の部隊の隊長を任されるのは二十代後半や三十代前半くらいの人間が普通だった。
十代で隊長の座に就いたワタシは数々の対テロ作戦の指揮を任される立場となった。
隊員たちも自分たちよりも若い隊長にも関わらずついてきてくれた。
ワタシが隊長になって一年経った時だった。
対テロ党の司令官に呼ばれ、ワタシは作戦司令室に来ていた。

「ドイツから日本に密入国者がやってきたらしい。奴は紙越町にあるイージス学園にいる。どうだ、奴を捕らえてくれるか」

ワタシは頷いた。

「それと……今回、お前の武器にはエクセリクシチップを再現した偽物のチップ“レプリカチップ”を搭載した」

それを聞いてワタシは驚きを隠せなかった。
エクセリクシチップはアームズメイカーが作り出した24個のチップで、その全容は判っていないはずだ。
全容が明らかにされていないものを再現できるのか、という驚きもあったがそれ以上にワタシは新たな力を得られるという高揚感が勝っていた。

「レプリカ……というだけあって本物に比べたら粗悪品だ。能力を使っても問題はないが、強い行動原理を感じ取るとチップに精神を乗っ取られたかの様な人間が何名か出ている」

──チップに、精神を?

「お前も気を付けて使ってくれ。テロを憎む気持ちは判るが……お前は家族同然の存在だ。お前の身になにかがあっては皆悲しむ」

──ワタシの身?そんなもの、どうでもいい。

テロさえ滅ぼせればこの身が破滅することになっても構わない。
ワタシの存在とテロの根絶……天秤にかけるだけでもくたびれる。

「はい、司令官。テロの掃滅のため……ワタシは戦います」

ワタシはワタシを拾ってくれた対テロ党のために今日も刀を握る。
そして強い行動原理にその身を滅ぼす道を辿ることになる──……
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