ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

文字の大きさ
86 / 92
六月

Mission10 bloody past 2

しおりを挟む
──場面は変わり、大和がメールを受け取った時の体育倉庫内

「クク……」

そこには端末を手に、酷く歪んだ笑みを浮かべる少年がいた。
彼はくるりと振り返ると目の前にいる同級生の男子たちに言った。

「喜べ、アイツが来るみてえだ」
「おお、やったな!」

その報告に全員がわいわいと騒ぐ。
……しかし一人は違った。

「大和クン……」

その一人というのは鶫だった。
彼女は少年たちの足元に座り込んでいた……両手を後ろで縛られた状態で。
その心配そうな呟きを聞き、スマホを持った少年は彼女の目の前にしゃがんだ。

「やったな。お前の従兄、来るってよ」
「卑怯者……」

奥歯を食いしばり、罵りの言葉を吐き出して、怒りを込めて睥睨した。
しかしそれは彼を怒らせる材料にはならず、少年は鼻で笑うと「おお怖い怖い」と笑いながら言うだけだった。

「それにしても前々からアイツ、気に食わねえと思ってたんだよな」
「ちょーっと頭がいいからってな、タゴサク風情が」

目の前で従兄がそしられているが今の鶫は睨むことくらいしか許されていなかった。
立ち上がろうにも手首を縛られた状態では立つのは困難だった。
自由を封じられた彼女は耳を塞ぐこともできずに好き勝手に言う言葉を聞くしかない。

「気に入らねえ奴はボコる、ってのがいつもの俺たちのやり方だけどよ……」
「ああ。アイツは強え、癪だがよ。だからこうして人質を取った」

──その中学は有名な進学校だった。

そして彼らはその進学校でも珍しい不良だった。
落ちこぼれた彼らは成績の優秀な生徒たちを自分たちと同じ水底へと引きずり込もうとしていたのだ。
そして東条大和、彼もその一人にされてしまった。

「……へぇ、だから私を連れて来たんだ」

鶫は自分の連れて来られた意味を知る。
彼女は餌だ、大和をここにおびき寄せるための。

「ああ。アイツと違ってお前は女だしな、楽に捕まえられたぜ。こうすりゃアイツも大人しく殴られてくれンだろ」
「ハハ、きったねえァ、山下!」
「きたねえ?戦略家の間違いだろ」

性根同様に汚らしい笑い声が庫内に反響する。
そして足元にいる鶫を見下ろして言った。

「アイツをボコり終えたらみんなでコイツをヤろうぜ」
「おっ、いいねェ!」
「……だ」

少女は微かな声量で呟いた。
それに少年らの声は少しずつ静まっていく。

「あ?」
「なんか言ったか、鶫チャン?」

その問いに対し、先ほどやられた様に鼻で笑い返す。
そして見下す様な視線を向け、言った。

「正面切ってじゃ勝てないから私を捕まえたんだ」
「なんだと……?」

その挑発にリーダー格の少年、山下は鶫の胸倉を掴む。
いきなりぐいっと服を引っ張られ一瞬怯むものの更に口撃を与える。

「情けないね、男なのに。性根が腐ってるよ」

嘲笑する様な口調で更に彼らを小馬鹿にする。

「テメ……ッ!」

それに対し、少年は怒りを隠すことなく両手を首に回した。
そして目を充血させながら言った。

「なにテメーもバカにしてンだ!あァ!?」
「あ……が……ッ」
「女だからって優しくすると思うンじゃねえぞ!」

両手に更に力を込める。
それと同時に鶫の細い首は締まっていき、身体は酸素を求める様になる……つまりは息苦しくなる。

「ふんッ」
「ぐぅ……っ」

首から手を離すと再び胸倉を掴み、持ち上げると同時に投げる。
彼女の身体は近くに置かれていた跳び箱にぶつかり、背中に鈍い熱を与える。

「調子乗りやがって、このアマ!」
「はぁ……はぁ……」

肺の奥まで吸うことを許された酸素を思い切り吸って息を整える。
しかしそんな僅かな時さえも許可してくれない少年は言った。 

「安心しろよ、アイツをボコったらお前も可愛がってやるから」
「……ってか、アイツが来るまでに死んでなけりゃなにしてもいんじゃね?」

下卑た笑みを浮かべ、一人がそう提案をする。
それに賛成するとでも言うかの様にリーダー格の少年は懐中からナイフを取り出して笑ってみせた。

「……そーいうワケだ。可愛い顔に傷を付けられたくなきゃ俺たちの言うことを聞けよ」
「…………」

流石に刃を顔に向けられては下手に口を開くこともできない。
両手と口の権利を奪われた鶫は跳び箱に背を預けた。

「そーそー、最初ッからそう大人しくしてりゃいいンだよ」

大人しくなった鶫から離れると山下は倉庫の扉へと身体を向ける。
そして彼女に向けていたナイフをしまった。

「来いよ、東条……お前もドン底に引きずり落としてやるからよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

Amor et odium

佐藤絹恵(サトウ.キヌエ)
ファンタジー
時代は中世ヨーロッパ中期 人々はキリスト教の神を信仰し 神を軸(じく)に生活を送っていた 聖書に書かれている事は 神の御言葉であり絶対 …しかし… 人々は知らない 神が既に人間に興味が無い事を そして…悪魔と呼ばれる我々が 人間を見守っている事を知らない 近頃 人間の神の信仰が薄れ 聖職者は腐敗し 好き勝手し始めていた 結果…民が餌食の的に… ・ ・ ・ 流石に 卑劣な人間の行いに看過出来ぬ 人間界に干渉させてもらうぞ

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...