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第9章 届けたい言葉
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夏休みの終わりが近づく、8月の最後の週。
蝉の声も少し静かになって、
夕方の風が、秋の気配を含みはじめていた。
学校で補習のあと、
ユウトは掲示板の前に立っていた。
右手には、小さな白いハンカチ。
タグには、しっかりとこう書かれている。
S. Haruka
「……やっぱり、返したい。ちゃんと、本人に」
そんな願いが届いたのか、
ふと前を見ると、彼女の姿があった。
「鈴本さんだ…」
俺は、心臓が跳ねるのを感じた。
「……あ、あの!」
思わず、声が出た。
鈴本さんが振り向く。
目が、合う。
「……あれ?大庭先輩?」
その瞬間、俺の中に積もっていた言葉が、波のように押し寄せる。
だけど、口から出てきたのは、たったひとことだった。
「これ、落とし物……たぶん、ハルカ……さんの、だよね」
名前を呼んだ。
初めて、下の名前で。
ハルカは、少し驚いた顔をして、それから静かにハンカチを受け取った。
「……ありがとうございます。すみません、わざわざ」
まだ、敬語だった。
でも、それが少しだけ、優しく聞こえた。
俺は、緊張で足が震えそうになるのを隠しながら、深く息を吸った。
「俺……ずっと、言いたかったことがあるんだ」
ハルカが、小さく首をかしげる。
「この夏、何度も会えないかって探した。
でも、今日こうして会えたことが……すごく嬉しくて」
「……先輩?」
「俺……君のこと、好きなんだ」
「会えなくても、忘れられなくて。今もずっと」
沈黙。
校舎の陰に、夕日が落ちていく。
ハルカは、驚いた顔のまま、何も言わなかった。
でも――
彼女の指が、ハンカチをぎゅっと握っていた。
その小さな動きに、ユウトは一筋の希望を見た。
そして、ハルカがそっと口を開く。
「……あの、こんな私なんかに……ありがとうございます」
まだ敬語だった。
でも、その声は震えていた。
目が潤んでいた。
きっと、言葉じゃなく、想いは届いていた。
「また……どこかで、話せたら、嬉しいです」
そう言って、彼女は小さく会釈して、歩き出した。
俺は、何も言わなかった。
でも――
その背中を、ただただ大事に見送った。
目に見えない糸が、静かに繋がれた気がした。
そして俺は、心の中で呟いた。
「届けたかった言葉は……やっと言えた」
蝉の声も少し静かになって、
夕方の風が、秋の気配を含みはじめていた。
学校で補習のあと、
ユウトは掲示板の前に立っていた。
右手には、小さな白いハンカチ。
タグには、しっかりとこう書かれている。
S. Haruka
「……やっぱり、返したい。ちゃんと、本人に」
そんな願いが届いたのか、
ふと前を見ると、彼女の姿があった。
「鈴本さんだ…」
俺は、心臓が跳ねるのを感じた。
「……あ、あの!」
思わず、声が出た。
鈴本さんが振り向く。
目が、合う。
「……あれ?大庭先輩?」
その瞬間、俺の中に積もっていた言葉が、波のように押し寄せる。
だけど、口から出てきたのは、たったひとことだった。
「これ、落とし物……たぶん、ハルカ……さんの、だよね」
名前を呼んだ。
初めて、下の名前で。
ハルカは、少し驚いた顔をして、それから静かにハンカチを受け取った。
「……ありがとうございます。すみません、わざわざ」
まだ、敬語だった。
でも、それが少しだけ、優しく聞こえた。
俺は、緊張で足が震えそうになるのを隠しながら、深く息を吸った。
「俺……ずっと、言いたかったことがあるんだ」
ハルカが、小さく首をかしげる。
「この夏、何度も会えないかって探した。
でも、今日こうして会えたことが……すごく嬉しくて」
「……先輩?」
「俺……君のこと、好きなんだ」
「会えなくても、忘れられなくて。今もずっと」
沈黙。
校舎の陰に、夕日が落ちていく。
ハルカは、驚いた顔のまま、何も言わなかった。
でも――
彼女の指が、ハンカチをぎゅっと握っていた。
その小さな動きに、ユウトは一筋の希望を見た。
そして、ハルカがそっと口を開く。
「……あの、こんな私なんかに……ありがとうございます」
まだ敬語だった。
でも、その声は震えていた。
目が潤んでいた。
きっと、言葉じゃなく、想いは届いていた。
「また……どこかで、話せたら、嬉しいです」
そう言って、彼女は小さく会釈して、歩き出した。
俺は、何も言わなかった。
でも――
その背中を、ただただ大事に見送った。
目に見えない糸が、静かに繋がれた気がした。
そして俺は、心の中で呟いた。
「届けたかった言葉は……やっと言えた」
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