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ハデス様冒険者になる

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眩い太陽がその者達に大いなる恵みを与える…
寒さが和らぎ、暖かい風も混じっている
こんな空間にいれば心が洗われていくだろう


ハデス「なんて思わないです!!眩しい!!目が焼ける!!」

ケルベロス「キャゥゥン…」

異世界に来てからずっと曇りや雪だった為に太陽を浴びていなかったハデス達は
起きて早々何百年ぶりの太陽に晒され
もがき苦しんでいた


ハデス「目が辛い!!!冥界にずっといたから太陽なんて…1、2、3、400年ぶりぐらいなんだよ!眼球が飛び出そうだ!くそ!アポロン!もっと優しく照らせよ!!」

ケルベロス「キャン!!」

そうもだえ苦しみながら愚痴を言っていたが
昨夜練った作戦を思い出しハデスは我にかえる

ハデス「あ、そうだ鎧も脱いだし、ケルベロスも小さくしたし、街に行かないと…」

ケルベロス「キャン!」

ようやく今日の目的を思い出したハデスにケルベロスは喜びを伝えるように吠えた

元の体とは違う可愛い声にハデスはニヤけるが、いかんいかんと、街の方を見る

神の御業チカラを使い街の中を覗くと流石に昨日の騒動から一夜明けているので騒いでそうな人は居ない


ハデス「よし、行くか!ケルベロスよ!今日から俺の名前はプルートゥ・ハデスだ!他の者の前ではプルートゥとなることにする!」

ケルベロス「キャィン?」

今後ハデスは稀に呼ばれる別名プルートゥという名前とし、正体を隠すという
それに疑問を投げかけたケルベロスだったが

すぐさまその返答は帰ってきた

ハデス「ふむ、昨日は高らかに名乗ってしまったからな、名前は隠しておかないと…一応顔も見られたが…髭も剃ったし血色も健康的にしたから滅多なことが無い限りバレんだろう」

ケルベロス「キャウ!」

ハデスの説明に納得したのかケルベロスは可愛く吠える

ハデス「よし!行こう!」

ハデスとケルベロスは昨日のリベンジと言わんばかりに意気込んで街に入っていった



ガヤガヤと街が騒がしい
特別なことではなく市場だからだ

ハデス達は昨日落としてしまった材料以外に残っていた獣の角と爪や尻尾などを売れるところを探した

しかし、市場でそのようなモノを扱っている店は見当たらず色んな店に聞いても教える代わりに商品を買えという…
もちろん手持ちの金はゼロなんだから買えるわけがない
商魂逞しい街だ…としみじみハデスは思っていたがそんなことよりこれでは何も出来ないと途方に暮れていた

ハデス「これ、駄目じゃないか?獣の素材とか買い取る店、全然ないぞ?…これは酒場とか集会所とかそういう人の集まる所で情報収集したほうがいいかもな…何も売りつけて来ない人が居ればの話だが…」

ケルベロス「キュゥ」

ハデスとケルベロスは前途多難だ…と思いながらも酒場を探し、夕方になるまで探し歩きようやく一軒の酒場らしき建物を見つけた

ハデス「ここだろ!ハァ、さすがに!ハァ、広い街が良いとは言ったがかなり広すぎた!先に行くには村だったかな!ハァ」

息も絶え絶えに最初に入るのは街だと決めた自分を呪いたいと思うハデスだったが
そんなことよりも情報収集だと思い建物の扉を開けた

ギィィっと古びた木の扉独特の音をたて中に入るとそこでは酒や料理などを嗜む人達で溢れかえっていた

鎧を着た奴らもかなり居るようでそいつらは何やら掲示板のような所に集まっている

ハデス「ふむ、どうするか…とりあえず酒場?のようだが受付のようなものもあるな…文字は…読めん…言葉は神の御業チカラでどうにかなるが…文字はなぁ掲示板の張り紙も何を書いているかわからん」

そうやって入口で立ち止まり悩んでいると
受付らしきところから小柄な少女がこちらに
駆け足で近づいてきた

?「いらっしゃいませ!イシュガルギルド兼メナスの酒場へようこそ!本日はどのような御用向きで?」

少女はハデスに近づいて来るやいなや元気いっぱいに話しかけてきた

ハデスはその勢いに圧倒され少し身を引きながら小さな声で質問を投げかける

ハデス「えっと…君は?」

ミント「あ、申し遅れました!ワタシはココイシュガルギルドの受付嬢にしてメナスの酒場の看板娘!!ミントと申します!!」

ハデス「ミント!?(何という偶然か…)」

元気いっぱいで可愛らしいポーズを取りながら自己紹介した少女はミントと名乗りその名に驚いたハデスはさらに身を引いた

ミント「?どうかなさいましたか?」

もちろんミントには理由はわからないので
不思議そうな顔でハデスの顔を覗き込む

ハデス「いや、すまない私の知り合いにもミントという名前の子が…というかなったというかまぁ、居たんだ…あ、そんな話は置いといて…獣の素材を売りたいんだが売り場所がわからなくてな…半日は歩き回った…金も無いし困っていたんだ」

ハデスは知り合いの話を途中で切り上げ今日の成り行きをミントに説明した

ミント「あぁなるほど!確かにお金無い時に市場で情報収集は難しいですね!みんなお金儲けばかり考えてますから!そうですね!じゃー私がお教えしましょう!もちろんタダです!」

渡りに船とはこの事かとハデスは心の中で歓喜した

しかし

ミント「ただし!」

ハデス「うぉっ!なんだ?」
ビクッとなるほどミントは大きな声で条件を出してきた

ミント「旅人さんは今お腹空いてますね!?空いてるんですよね?空いてるでしょ?空いてるって言ってください!」

何らかの三段活用…いや、四段活用を使われた気がするが

ハデスはその勢いに負けて首を縦に降った

ミント「ホントですか!じゃー教える代わりに素材を売ったお金でここのギルドに登録とウチの酒場で晩御飯を食べると約束してください!」

ハデス「んー?それは結局タダでは無いのではなかろうか」

言葉巧みに操られている気がするハデスはミントに疑問を投げかける


ミント「何をおっしゃいますか!「どこで素材を売るのか」という情報に対してお金は一切発生してないのでタダに決まってるじゃないですか!私が交換条件として出してるのはお約束していただく事だけですよ?」

ミントの屁理屈もとい交渉を聞いていると頭が痛くなってきたハデスだったが
背に腹は替えられぬと思い返事をする

ハデス「わかったその条件を飲もう素材を売れる所を教えてくれ(これはただの口約束だ素材売却所に行ったあとまた考えれば良いな…それにしてもまわりがニヤニヤしてるな)」

ギルド内もとい酒場内の冒険者や客がハデスを見ながらニヤニヤしている事に気付いたハデスだったがとりあえず話を進めたい一心で無視する事にした

ミント「わかりましたお教えしましょう!それは……………ココです!」

ハデス「…………………ん?……………ん??」

ミントの答えに対してハデスは理解できなかった
そしてしばらく固まってから息を吹き返したように叫ぶ

ハデス「詐欺だ!!!」

ミント「違います!」

叫んだハデスに対して間髪入れずに否定で返したミントとのやり取りを見て
酒場内のほぼ全員がドッと大笑いしだした
全員がわかっていたのだ
ここが素材買い取りをしている唯一の店であると、ハデスは聞かなくてもいい事を聞いた上にさらに約束を取り付けられてしまった

ハデス「クッソなんて巧妙な!他の店に行こうにも情報も無い!金もない!ココで素材を売らないと何も出来ない!でもここで売っても結局ギルドに登録&晩飯代を引かれていくら残るかわからない!!なんて巧妙で卑劣なんだ!」


ミント「フフフ私に話しかけられたのが運のツキですよ旅人さん!」

ハデスは膝から崩れ落ちて土下座のようになっていたが、ミントに追い打ちをかけられてさらに落ち込んでいた

ミント「まぁ大丈夫ですよ旅人さん!悪いようにはしませんから!」

そう言われたハデスは少し涙目の顔だけをミントに向け小さくわかった…と答えた



しばらくして

ドンっと受付台の上にパンパンに金貨が入った革の袋を差し出されたハデスは目を丸くした

ハデス「こ、これは?」

ミント「ふふん!良い買い物させていただきました!超希少な白のユニコーンの角5本で金貨80枚!ホワイトウルフの爪60本で金貨15枚!ホワイトウルフの尻尾3本で金貨6枚!そしてギルド登録に銀貨50枚とウチの高級ディナー銀貨50枚を差し引いてしめて金貨100枚ピッタリです!お納めください!」

ミントが高らかに宣言すると
酒場の客達が騒ぎ出した

客A「おいおい金貨100枚って豪華な家が3軒は建つぞ…」
客B「馬鹿言うな城が建つぞ!」
客C「20年は遊んで暮らせるな…」

酒場のあちこちから物騒な声が聞こえると思いながらハデスは冷や汗を流していた

ハデス「あの間違いないですか?ホントに?ただの獣の素材だよ?」

ミントの計算ミスじゃないかと疑り質問を投げかけるハデスだったがミントは体全身を受付台から乗り出させ反論してくる

ミント「ただの獣なわけ無いじゃないですか!ユニコーン自体が稀にしか発見されないのに10年に1度寒い時期の1日しか姿を表さないと言われている白ユニコーンの角を5本も持ってきて、さらにAランク冒険者4人がかりでも仕留めきれないホワイトウルフの素材を3頭分なんて超超超超超レアですから!」

ハデス「あ、あそう…」

ミントの早口にたじろぎながら返事をする
ハデスだったがふと思い出したかのように
質問を返す

ハデス「そういうことならいいんだけど…お金大丈夫なのか?そんなに払って」

ミント「チーチッチ!」

ハデスの質問に対してミントは人差し指を振りながら煽ってくる

ミント「舐めてもらっては困ります!ウチはこの街唯一のギルドであり唯一の酒場ですよ!?蓄えなんてこの10倍はあります!それぐらいのお金なら一年で稼げちゃいますよ!」

ミントは無い胸を張りながら
偉そうに豪語する

ハデス「10倍…1年…確かにこんなでかい街に酒場ここだけならかなり儲かるか、ギルドとやらがどういう仕事をしているか知らないが…ところで、俺のツレ懐柔するのやめてもらえる?」

ハデスは自分の足でこの街を散々歩き回ったからか、妙に腑に落ちたと同時にこの酒場に入ってからずっとミントに擦り寄り撫でられ懐いているケルベロスに目をやり、連れ戻そうとした

ミント「あーこのワンちゃん可愛いですねぇちっちゃくて毛もフワッフワで一生撫で回したい、というか飼います」

ハデス「さらっと怖いこと言うな俺の大事な家族だ」

ミントがケルベロスを撫で回し自分のもののように扱っている事が気に食わずハデスはケルベロスをベリッとミントから引き剥がした

ミント「あぁー私のワンちゃん!」

ハデス「君のじゃない!お前も名残惜しそうにするな!」

ケルベロス「キュゥン…」

ミントから奪い返されたケルベロスは情けない鳴き声を上げながらハデスを見るがハデスは険しい顔をしていたので大人しくハデスの腕の中に顔をうずめた

ミント「ちぇー」
ハデス「ちぇーじゃない」

ミントは悔しそうにしたかと思うとすぐさままた体を受付台から乗り出させて

ハデスに近づいた

ミント「そんなことより!ギルドについてご存じないと!!?」

ハデス「そんな事とはなんだそんな事とは…まぁギルドなんてものとは無縁の…田舎…そう、田舎から来たからな」

ハデスはミントの圧の強い質問に対してすでに忘れかけていた予め作っていた田舎の青年という設定を持ち出しその場を凌ぐ


ミント「なるほど!わかりました!では冒険者登録の前に詳しいお話をしますね!」

それからしばらくハデスはギルドについて説明を聞いた

ギルドというのは困っている人達や国がギルドに依頼クエストを出しそれを冒険者たちに斡旋するという場所らしい

冒険者は所謂、雇兵や何でも屋のようなもので、素材採取、護衛、物探し、環境調査、モンスター討伐など、様々な依頼クエストをこなしていくらしい

ただし、冒険者にも依頼クエストにもランクというものが存在し冒険者ランクに応じた依頼クエストしか受けることが出来ないらしい

例外的に4人以上でパーティを組む場合に限り過半数以上が依頼クエストランクを受けれる冒険者ランクであれば自分の冒険者ランクが低くても受注することが可能であるとのことだ

冒険者ランクを上げるには現状の冒険者ランクに応じた依頼クエストを10件以上成功させるか、上位ランクの冒険者パーティと共に自分のランクより上の依頼クエストを2件以上クリアすることで上げられる

ハデス「なるほど…だが、ギルドが的確な依頼クエストランクをちゃんと付けれているのか?」

一通り説明を聞いたあとにハデスはミントに質問を投げかける

ミント「んーそうですねー基本的には的確ではあるですけど…状況によっては依頼クエストランクの見直しもありますね」

ハデス「ほぅ例えば?」

ミント「例えば…比較的簡単なホーンラビット5体討伐ってDランクの依頼クエストだったとしても、ホーンラビットの生息地に強いモンスターが共存してたり、ホーンラビット自体が突然変異で強くなってたりして依頼クエスト失敗が連続すると依頼クエストランクが上がったりしますね」

ハデス「なるほどな、大体わかったありがとう」

ハデスはミントの丁寧な説明を聞いて素直に感謝した

ミント「いえいえ、これもお仕事ですからね!では説明も終わりましたし!ちゃちゃっと登録しちゃいましょう!お腹も減ってるでしょう?」

ハデス「ん?あぁ、そうだな(俺は特に飯は食わなくても大丈夫だがケルベロスがなぁ)」

ミントの言葉に返事はしたがハデスは普通の人間ではないので食事を必要としないため歪な返事になってしまった

ケルベロスは冥界に居た時は亡者を食べていたが異世界に来てから普通に食事を取っている

そんな事を考えているとミントが受付台の下から1枚の紙を出してきた

ミント「ではここに名前と職業と年齢を書いてくださいね!」

ハデスはそう言われると冷や汗をかいて顔を伏せた

ハデス「(マズイ!異界の文字がかけない!どうする!?それに職業ってなんだ?冒険者じゃ駄目なのか?年齢って俺46億歳超えてんぞ!)」

ミント「?どうかなさいました?」

ハデス「いや、その…」

文字が書けないというのも恥ずかしいし書く内容もごまかせるかという心配からハデスはテンパってしまった

するとミントは見透かしたかのように話してくる

ミント「ふふっもしかして文字書けなかったりします?」

ハデス「(なん…だと?読心術でも使えるのかこの子は?くっ屈辱的だ!)」

ハデスのテンパり様はピークに達していたがそんなものお構いなしにミントは続ける

ミント「たまにいらっしゃるんです、人里離れた所からやってきた人は文字が書けなかったり話が出来なかったり、男の人だとプライドが邪魔して言い出せない人ばかりなんですよね!でも大丈夫です!代筆しますから!」

満面の笑みでハデスの心の内をすべて見透かしさらには解決法も用意していたミントにハデスは空いた口が塞がらなかった

しかしそれでは話が進まないのでしぶしぶミントに頭を下げ代筆を頼んだ

ハデス「…すまない代筆を頼む…」

ミント「かしこまりました!ではお名前と職業と年齢を教えてくださいね!あ、職業というのは冒険者になったあと剣士や魔法使い、弓兵や重戦士などといった役職のことですからね!それに年齢は人里離れた所の出身だと歳を数えてなかったりするので自分でこのくらいかなぁというのでも良いですよ!」

ハデス「はい…」

本当に何もかも見透かされていて泣きそうになるハデスだったが少しずつ答えていった


ハデス「名前はハ…いや、プルートゥ…職業は重戦士、年齢は数えていないが…多分25ぐらいだろう…」

ミント「なるほどなるほど…プルートゥさん…意外と歳いってますね…ふむふむ確かにガタイも良くて背も高い重戦士はピッタリでしょう」

ハデス「そうか………今ナチュラル悪口入らなかったか?」

ミントの独り言のような言葉に違和感を感じたハデスは少し聞いてみたが答えが返ってくることは無かった


ミント「はい!ではこれで登録完了です!多分プルートゥさんはAランク以上の実力でしょうがギルドの決まりで最低ランクのDランクからスタートになります!これからもよろしくお願いしますね!プルートゥさん!では高級ディナーを準備します!」

冒険者登録が終わったことを伝え、すぐさまミントは裏に入っていった

後から聞いた話だが冒険者ランクには
6段階あるらしく最初はDランクからで次いでC、B、A、S、SSとなっているらしい
SSランクは国に1人のレベルで居て、Sランクは街に1人居るか居ないかのレベルらしい


そもそもAランク以上の依頼クエストが出回ることが滅多にないから絶対数が少ないらしい

Aランクに上がってもひたすらBランクの依頼クエストをこなすイメージだ


そんなこんなで色んな事を終えて
テーブルで料理を待っていたハデスに声をかけてきた男が居た

?「おいあんた」

ケルベロスも何故か警戒しているなと思いながら声のした方を見ると

ハデスは一瞬で冷や汗だらけになった
振り向いた先にいたのは赤い鎧の青年ルイだった

ハデス「あ、あ、あなたは?」

ルイ「俺はルイ、この街では赤の騎士なんて呼ばれてる、俺のことはいいんだ、そんなことよりもあんた、さっき聞いてたが重戦士になるだって?」

ハデス「え、まぁはい」

さっきの話を聞かれていたのもアレだが、重戦士だとまずいのだろうか…とハデスは思いさらに冷や汗を増しながら何食わぬ顔で返答する

ルイ「ホワイトウルフを、それも3匹仕留めたってのに重戦士だぁ?舐めてんのか!」

ハデス「えぇ…」

何故か文句をつけられて困惑するハデスだったがルイは止まらず続ける

ルイ「ホワイトウルフは俺も仕留めようとしたことはあったがあんなもん普通の人間一人じゃ絶対に仕留められねぇスピードだ!囲って罠を張ってAランク冒険者5人以上で仕留めるモンスターだぞ!それを一人で仕留めるスピードを持ってんのに重戦士だと!?舐めてる以外ねぇだろ!」

ハデスは矢継ぎ早に言われた事を聞きながら
こう思った

ハデス「(この青年…ルイ君か、人間にしてはかなり早かった、そのルイ君が仕留められないスピードのモンスターを仕留めたとなると確かに重戦士ではないかもしれんが…)」

?「ルイそのへんにしておけ、絡みすぎだ」

ハデスが詰め寄られて困っているところにルイの後ろから助け舟が来た

蒼い鎧をまとった青年ブラウである

ルイ「ブラウ…」

ブラウ「すみません、こいつ昨日から酒を飲み過ぎてて、普段はマシなんですが…僕はブラウえーっと」

ハデス「プルートゥだ」

ルイの後ろから助け舟を出してきたブラウはルイをかばいつつ、謝罪もして自己紹介と握手を求めてきたので、ハデスは自己紹介と共に手を差し出した

ブラウ「プルートゥさん今日はもう僕ら帰りますんで失礼しました」

そういうとブラウはルイの手を引いて帰ろうとする

しかしルイは話足りないのかまだ何かブツブツ言っている

ルイ「おい!プルートゥとか言ったか!気をつけろよ!この街はもう安全じゃないぞ!あんな声だけで鎧粉々にする化物は襲ってくるわ、三つ首の巨大なモンスターは来るわ、盗賊団が潜伏してるわで散々なんだ!成金自慢してたらすーぐに一文無しになっちまうぞ!」


と、酔った感じで吐き捨てて酒場を後にしていくルイとブラウをハデスは黙って見送り…

姿が見えなくなった瞬間に
テーブルに突っ伏した


ハデス「ブハァァァぁ…やばかったぁ…バレたかと思ったぁ!!」

ミント「何がバレたかと思ったんですか?」

ハデス「ふぁぁぁぁ!!!!???」
突っ伏して叫んだ直後にミントが後ろから料理を運び声をかけてきたせいで、ハデスは変な声を出し飛び起きた

ミント「ふふふ、プルートゥさんは面白い人ですね、ルイさんに絡まれてたんですか?」

ハデス「なんだ知ってるのか?」

ミント「もちろん!」

多分ハデスとルイのやり取りを見ていたであろうミントはルイとブラウについて話始めた

ミント「あの2人はこの街に5人しかいないAランク冒険者で赤の騎士ルイ、蒼の騎士ブラウと呼ばれていて二人でパーティを組んで依頼クエストをこなしてます、二人でいることがほとんどなので二人のパーティの事を話題にするときは皆、赤蒼の二騎士ツインナイトなんて呼んでますね」

楽しそうに話すミントとは逆にハデスは少し引いていた

ハデス「(赤蒼の二騎士ツインナイト……ダッサ!やばいだろ!ダサすぎる!)」

そうハデスが思っていると
ミントが続けて話し出す

ミント「ルイさんは「ダサすぎる!なんだそれ!」と言って恥ずかしがっていましたけどね」

ハデス「(よかった!俺正常なセンスだ!多分!)そうか…あぁそれよりご飯ありがとういただくよ、値段のわりにはとは思うが…かなり美味しそうだな」

ミント「ふふっ一言余計ですよ?」

ルイの話は基本的にはあまりしたくなかったので(正体がバレそうで心臓に悪いから)早々に切り上げ明らかに支払った金額はボッタクリだったであろう料理を食べ始める

だが、余計な一言は今後控えるとしようミントの笑顔が怖すぎる

そう思ったハデスの隣ではすでにケルベロスが料理に貪りついていた

ハデス「お前…やっぱり腹減ってたんだな…」

確かに量的にはぼったくられてるが、味はすこぶるいい料理に舌鼓を打ちながら食べ進めているとミントがまたルイの話をしだした

ミント「ルイさん昨日すっごい強いモンスターと戦ったらしいんですよ!多分魔王軍の幹部クラスの暗黒騎士だろうって言ってましたね!なんでも、攻撃はすべて躱されるし至近距離で声魔法ボイスマジックをぶち当てられて失神したらしいですよ!」

ハデス「ブフォッ!!ぼ、声魔法ボイスマジック?」

ハデスはあのときの事を戦いだとは思っておらず、しかもただの質問を声魔法ボイスマジックだとかいうよくわからんモノにされていて吹き出してしまった

ミント「あぁ、大丈夫ですか?プルートゥさん!…そう!声魔法ボイスマジック!声と共に魔力を押し当てる攻撃魔法の一種です!使える人なんてほとんどいませんよ!守衛さんもそれをまともに受けてたんですけど体は無傷で鎧だけ粉々になっちゃったらしいですねぇ音に耐性がなんとかってルイさんは言ってましたね」

ミントはハデスの吹き出したモノを嫌な顔1つせずに拭きながら
テンションを上げてハデスに説明する

ハデス「(なるほどな…ってわかるか!なんだよ魔力って込めてないよ!魔の力なんて!名前聞いただけ!自己紹介しただけ!…んー神の御業チカラを使う時に出てくる気みたいなものが魔力ってことなのかねぇ…)ふーん、というかルイの話好きなんだな、いや、ルイ自体が好きなのか?」

説明されても全然わからないし思考が追いつかなくて焦っていたハデスだったが、気づかれるのを避けるために興味の無いふりをした上で、恋バナに無理やりつなげた

ミント「全然興味ないですね!いや、恋愛とかには興味ありますけど同い年の男の子なんてガキンチョですよ!ガキンチョ!!恋人にするなら包容力があってぇ力が強くてぇお店を任せられる人じゃないと!」

ハデス「(同い年!?ルイ君は20歳そこそこだと思っていたが…ミントも同い年!?嘘だろ?ミントなんて12歳とかそのあたりにしか見えないが?)そ、そうか…」

ミントがルイと同い年というのが全然信じられず動揺を隠せないハデスに対してまたミントが怖い笑みを浮かべこちらを見ている

ミント「プルートゥさん?何か失礼な事考えてません?」

ハデス「いいいい、いや!?そんな事はないさ!はははっ馬鹿を言うんじゃないよ!はははっ!おお、料理は美味しかったよ!こいつも満腹で寝てしまった!はっはっはっ!じゃっ!」

動揺と焦りとテンパりで変なキャラになってしまったハデスは爆速で料理を食べきって寝てしまったケルベロスを抱えてその場を去ろうとする

ミント「ふふふっプルートゥさんはホントに面白い人ですね、でもこんな時間に宿を探しても多分泊めてくれませんよ?」

ミントの言葉にハデスは足を止め、振り返る

ハデス「そ、そうなのか?」
恐る恐るミントに質問するハデスだったがミントは気にせず返答する

ミント「まぁ冒険者もたくさんいる街ですし、すでに部屋は満席ではないでしょうか?なので冒険者の方達は夜通し依頼クエストに出るか、ここで飲み明かすか、路上で寝てますね…最近は物騒なのでオススメしませんけど!」

ハデス「そ、そうか…どうしようか…(物騒とか多分全然平気だけどとりあえず…ベッドで寝たい!この3日間ずっと野宿だったんだもの!ケルベロスも寝かしてやりたい!)」

ミントの話を話半分で聞いてとにかくベッドで寝たいハデスはどうすればいいかケルベロスを抱えながら…さらには頬ずりしながら悩んだ

そんな事はお構い無くミントは提案してくる

ミント「ご心配なく!このギルドは2階から3階が高級宿舎となっていて「お金」さえあればお泊りいただけますよ!まだ部屋は余ってます!」

ミントの提案にハデスは嫌な顔しかできなかった

そして恐る恐る聞いてみる

ハデス「いくらだ…」

ミント「ふふふっプルートゥさんは1泊で銀貨10枚!ワンちゃんは銀貨5枚!しめて銀貨15枚!割引は無しです!」

ハデス「くっ!やはりそうきたか…仕方ないか…」

異世界の宿泊の相場がいまいちわからないがハデスはこれがぼったくられていることだけは理解できた

ミント「あ、ワンちゃんは私の部屋で寝るならタダでも…」

ハデス「断る!」

ミントが恐ろしそうな提案を言い切る前にハデスはテーブルに銀貨15枚を叩きつけ
ケルベロスを抱えもらった鍵を持って階段を上がっていった

その時小さな声でミントが毎度ありーと言っているのが聞こえてハデスはさらに腹を立てた

そしてついた自室は
確かに高級そうな部屋だった
貴族か王族かが寝るのではないかと思うほどに豪華なつくりで
ベッドが部屋の3割を占めている

ハデス「これは…銀貨15枚は安いのではないだろうか…ミントに悪いことをしたかな…」

と、少し怒鳴ったことを後悔していたハデスは気を緩めていた事もあり背後に近づく気配に気付かなかった


ミント「そんなことないですよ?」

と、ハデスの後ろから声がくる

ハデス「っ!?!」

ミント「反応が面白いですねホントにプルートゥさんは!」

振り向いた先にはミントが満面の笑みで立っていた

ハデス「お、脅かすな!なんどもなんども!気配を消すな!怖い!……で、そんなことないとはどういうことだ?」

日に2度も驚かされて内心心臓がバクバクしているが、ハデスは心を落ち着かせミントの言葉の意図を探った

ミント「んーそぅですね確かに銀貨15枚は他の宿であればかなりの高額ですが、この部屋を借りるには少し足りません。でも、契約金としては妥当です!この部屋を1年間プルートゥさんの部屋として使ってもらって結構です!」

ミントの言葉は説明を聞いてもよくわからなかった

ハデス「ちょっとわからないな、1泊銀貨15枚で足りないのになんで1年間使っていいんだ」

ミント「それはもうすでにもらってるからです!」

ハデス「??」

ハデスはさらにわからなくなったがミントは話を続けた

ミント「プルートゥさんから買い取った素材は実は金貨100枚じゃききませんその倍ぐらいはあります!ごめんなさい!でもプルートゥさんにはここにいてほしいのです!このギルドの中に入ってきた時から私はプルートゥさんが持っていた素材の価値を理解してました。」

ミントの話を途中で遮ろうとも思ったハデスだったがあまりにも真剣な顔で話すものだからつい聞き入ってしまっていた

ミント「こんな貴重な素材を単独で採取できる冒険者なんてSSランクでもそうはいません…今この街は危険でいっぱいです。なので、プルートゥさんのその実力を見込んで、このイシュガルの街の専属冒険者になってほしくて…勝手ではありますがこの部屋1年分の宿代を引いた金額でお支払しました…そして、銀貨15枚というのはここの部屋を継続して借り続けるという契約料金です!」


真剣な顔で話すミントに聞き入ってしまっていたが…よく聞いて、理解してもただの宿泊の押し売りと厄介ごとの押し付けだった

ハデス「アホなの?」

ミント「てへっ?」



ミントとのやり取りに疲れたハデスは
ミントを部屋からつまみ出し

ベッドに寝転がった

そして、ミントの話を思い返す

ハデス「…金云々はこの際どうでもよくて…城が立つほどの金を今持ってるんだからな…それよりもこの街が危険か…ルイと俺とのやり取りを抜きにしても、魔王軍やら盗賊団やらキナ臭いことに変わりはないか…当分の間なにをするか決めてないし…ここをしばらく拠点にするか…」


そんな独り言をベッドでしているうちに眠気が襲ってきてハデスは眠りに落ちた

そしてその部屋の外では
ミントが扉に背を付けハデスの声を聞いていた

ミント「ありがとうございます……ハデス様…」




一方その頃冥界では

ペルセポネ「うぅハデス様に悪い虫が近づいている気がす…ハ…デ…スさま…」

昨日よりさらに増えた書類の山に埋もれ今にも事切れそうなペルセポネが居た

ミノス「ペルセポネ様?ペルセポネ様!あぁ、お労しやペルセポネ様……ハデス様!カムバーーーーーーーーック!!」

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