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痛みのワケ②
しおりを挟む【side サツキ】
嫌な夢を見た。
あの日から、俺はアオと関係を持ち続けている。
狂っているのはわかっている。
でも、保っていられなかった。
自分が自分であるために。
死神であるために。
何も聞かずに受け入れてくれるアオに、甘えた。
アオとの関係を持つと、少し痛みが、苦しみが、癒えた気がした。
でもそれが、エスカレートしていることも、わかっていた。
アオを、手放したくなかった。
アオを、ずっとココに置いておきたかった。
そのタガが完全に外れたのは、1週間前。
アオが、知らない奴の服を着て、知らない奴の携帯番号を持っていたのを見た時。
アオが離れていくような気がした。
アオが離れていく、俺を置いて。
この前アオが見ていた、似顔絵の束。
その、1番下にある絵を取り出す。夢に出てきた、初めて命を終わりにした、子どもの絵。
この子の元気な姿なんて、知らない。
死ぬ直前の、顔しか知らない。
俺の頭ん中に描くこの子ども。
あの子はこんなふうに、笑っていたんだろうか。
なぜそれを絵に描きたかったのかわからない。
懺悔でもないし忘れたくなかったわけでもない。
でもその絵を描くことがなにか、俺にとって意味あることになるんじゃないかと思った。
その意味はまだ、見出せないでいる。
アオは、あの男のところにいるんだろうか。
少しだけ頼りなさげな奴なのに、やけに威勢だけいい奴。
手を、見つめる。
アオが、振り払った手。
あれが真意なのか、ただ痛みが走ったからなのかは、わからない。
でも振り払われた瞬間俺のカラダに走ったのは、初めて子どもの命を終わらせた時に感じた感情と、似ていた。
孤独、哀しみ、絶望。
そんなような言葉が一気に押し寄せてくるような、感覚。
その時、部屋の呼び鈴が鳴った。
まさかと思いながら。
少しだけ期待をしながら。
ドアを開けた。
「なんで……なんで来たん……」
そこには、アオが立っていた。
しかも、息を切らして。
上目遣いで、俺を見上げて。
「サツキさんが……痛いんじゃないかと思って……」
抑えきれなかった。
歪んだ、狂った関係。
止められなかった。
「サツキさんが……痛いんじゃないかと思って……」
言い終わるか終わらないか。
俺はアオの腕を握り部屋に引き込んだ。
「いっ……」
思わずビクンと跳ねるアオを俺は、強く、強く力の限り、抱きしめた。
「アオ……なにされたん?」
「なんも……されてへんよ?」
「見して?」
「……」
「アイツに触られたとこ、見して?」
止められない、独占欲。
どうしようもない、歪んだ感情。
逃げてくれ。
もう、来ないでくれ。
どこかでそう思っている自分もいて。
でもそれを、許せない自分もいて。
目の前に、白い肌に痣だらけのアオのカラダが露わになる。
「これ、見られたん?」
「腕の傷のところだけっすよ」
「……なんや綺麗にされとるな……」
真っ赤に腫れ上がっていたアオの腕。
何をされたかは知らないが、ガーゼが当ててある。
「アオ……アイツは、優しかった?」
ピクリとアオの肩が、動いた。
「どういう……意味?」
「俺とは、違って優しかった?」
「……サツキさんは、優しいと思うよ」
「アオ……?」
「優しいから、痛いんだよ……サツキさん」
何を言ってるんだと思った。
俺も狂ってるけど、アオも十分狂ってる。
「サツキさん……ごめんなさい……」
なんでアオが、謝るんだろう。
なんでアオは、戻ってきたんだろう。
あの男のところに、逃げることもできたのに。
狂ってる。
でも、抑えられない。
アオを強く抱きしめて。
アオを動けぬように縛り上げて。
痛みと刺激を、与え続けた。
ハカハカいう息は、アオの生きる音。
食いしばる歯と、歪む顔は、共有した痛み。
それに、救いを求める俺は、最低だ。
「アオ……ごめ……ん……」
「サツキ……さん?」
「ごめ……ん……でも、……俺はアオを、離せない……」
アオ、ごめん……
もう、逃げてくれ。
心と裏腹の言葉に、涙が溢れる。
人前で泣いたのなんて、いつぶりだろう。
少しだけ目を見開いて。
アオは俺の頭をキュッと抱きしめた。
小さい身体で、細い腕で、こんなイカつい俺を抱きしめて、俺の傷を癒す。
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