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救いたい命①
しおりを挟む久しぶりに、ローブを羽織り斧を手に持つ。
怪我をしてローブや斧の紛失報告をして以来の、死神の仕事。
「長く休んだなぁ~」
陽が落ちる。
25階の部屋から、落ちていく太陽を眺める。
昨日サツキさんの部屋から自室に戻って、ケイからの仕事のメールを受け取った。
『休んだんだから頑張れよ~コスプレもグレードアップしといたで』なんて軽い文面が添えてあった。確かに少し、ローブは通気性が良くなり軽くなったような気がする。
そして今日の対象は、随分と若い男だった。
「17歳……若いなぁー……」
俺は少しだけ赤みが消えかかった空を、眺めた。
カラダが、痛い。
蓮に治療してもらった場所。
ガーゼは、サツキさんに剥ぎ取られた。
とりあえず家にあったデカイ絆創膏を貼って、仕事に出る。
「飛べるかな……」
飛ぶにも結構体力がいる。
カラダ中が、痛い。
痛くて、痛くて。
蓮の顔が、浮かぶ。
まだ2回しか会ったことがない、説教ばかりしてくるお節介野郎。
「また怒られそうやな」
浮かんだ蓮の顔はやはり説教をしていて、俺は苦笑いをした。そして、ひとりで笑ってしまった自分自身の気持ち悪さに、身震いをした。
バルコニーに出て、高く空に飛び上がる。
向かう先は、GPSで確認した。
あの公園の近く。
意外とあの公園が抜け道になっていることを知った。着地には気をつけなければ。
公園脇にある建物の屋上を目指す。
やはり人間と同じ目線の着地は、危険。
超高速で、鳥のように飛びながら。
でもその眼下にいる人は、やけにはっきりと見える。
陽が落ち始めて。
薄暗くなって。
まだ、忙しく働く人。
家路を急ぐ人。
夕飯の支度をしながら、誰かの帰りを待つ人。
今日の対象は、どんな人だろうか。
ローブの力を最大限に使って、ふわりと降り立つ。
今日は、成功。
しかし着地の瞬間、ぐらりとふらついた。
それは、カラダに力を入れた時に、全身が筋肉痛のように痛むから。
「あっぶねぇ……」
また転けたら洒落にならない。
ケイにはきっと笑われるだろうし、蓮にはまた怒られるだろう。蓮には……会うこともないかもしれないけれど。そしてサツキさんは、どうするだろう。
時計を見て、割とその時間が近いことを知り、指定の場所を目指す。今日は、室外。ローブの力を発揮して、姿は極力、見せないように。
その場所は普通の商店街。
開くも狭くもない、舗装された道路と、その脇には昔ながらの商店が並んでいる。商店の屋根の上に、降り立ち対象を探す。
「このGPSもうちょい正確にならへんかなぁ……目的地に到着しましたって、目的地やなくて対象を見つけて欲しいわ……目的地も割と曖昧やし」
新人の頃苦労したのは、この場所の特定と対象探し。それだけで死亡予定時刻2時間を超えそうになる時もあって、デビューしたての頃は先輩や友人たちと助け合いながら仕事をしたもんだ。
キョロキョロと、あたりを見渡す。
すると突如、目の前で人が倒れた。
「あ」
あの人か……?と目を凝らす。
んー?……17歳にしては少し老けているような。
「え、大丈夫ですか?」
「どうした?」
「救急車……?」
倒れた人の周りがザワザワと騒めきはじめて、人が集まってきて。でもあの倒れた人はやはり、違う気がする……。
じっと、対象を探す。
周りに集まる人。ジロジロ見ながら、行き交う人。
「どこやねん……」
眉間に皺を寄せる。
あたりをキョロキョロ見渡していたら、「大丈夫ですか!?」と、聞き覚えのある声が、飛び込んできた。
「え、まじ……」
それは、なんの嫌がらせか、なんの縁か。
蓮が目の前の店から飛んできて。
倒れた人に駆け寄っていた。
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