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運命論②
しおりを挟む【side アオ】
蓮に、会いたいと思った。
蓮の顔が頭から離れなくて、今、蓮はどんな顔をしているのか。
そんなことを考えていたら、ただひたすら、蓮に会いたくなった。
「アオ、俺さぁ……」
泣き出すんじゃないかと思った。
そのくらい、悲しい目をしていた。
でも口にした言葉は、泣き言ではなかった。
「アオは……神様っていると思う?」
「は?」
狭い蓮の部屋。
ベッドとローテーブルだけで、部屋がもういっぱいで。俺と蓮は、ベッドに座り向かい合った。
「神様って、残酷だよな」
「……」
「なんも悪いことしてない、ただ一生懸命生きとるだけやのに。助けてくれたってええやん……」
「……」
ギュッと握った拳から、悲しみを感じた。
キュッと噛んだ唇から、怒りを感じた。
「神様がいるかは知らねぇけど……俺は、人には運命があると思っとるから」
「……」
「変えられん運命は、受け入れるしかないと思っとる」
「……お前のその感じは……なんやねん……」
蓮の視線。
キツい、鋭い視線が俺に向けられる。
「これも、運命なんか?」
蓮は俺の額にそっと、手を当てた。
ガツンと窓に打ち付けて、少し青く変色した俺の額。
蓮の手は、俺には触れない。
「……痛いん?」
「別に……平気」
「触んで?」
そう言って、蓮はそっと、俺の髪に触れた。
額ではなく、その横の髪に、触れた。
「こんなの……運命でもなんでもないやろ……」
その手が、俺の首筋に触れた。
「なんなん……これ……」
キツく、俺の首を押さえつけたサツキさんの手。
大きくて、長い指がギリギリと食い込んだ場所を、蓮がなぞる。
「なんなん……」
蓮の目が、真っ赤に染まる。
「こんなこと……アオに言ってもしゃーないねんけど……」
グズっと鼻をすすり蓮は、続ける。
「運命なんて、クソや」
蓮の手が、震えている。
俺の首に触れている蓮の手が、震えている。
「オレの仕事は、なんやねん。運命があるなら、それを変えてやるのが俺の仕事や」
じゃあ俺の仕事はなんだ。
蓮の言葉を聞きながら、自分に問う。
「それでも、変えられんもんがある」
「運命のせいにしてるだけやろ……」
「その時は決まってんだよ……誰のせいでもない」
「それを変えられるとしたらそれは誰だよ」
「……なに言ってんの……?」
言ってることがメチャクチャだ。
なんの話をしているんだ。
運命の話?俺のこの傷の話?
神に助けてくれと言ってたじゃないか。
運命を変えられるとしたら、誰だ。
「俺が変えてやる」
蓮の手が、俺の頬を覆う。
「変えられねぇ運命でも、俺が変えてやる。こんな、痛いのに痛くねぇって言うアオの運命ってなんだよ……」
アホじゃないかと思った。
そもそも論、運命の定義だよ。
そこから噛み合ってない気がする。
誰の話をしているんだ。
なんの話をしているんだ。
「アオ……お前マジであぶねぇよ……こんなん……普通じゃねぇよ、これが運命って、なに受け入れてんだよ……」
俺のシャツのボタンをひとつ外して、紫色になった胸元を確認して蓮は、唇を噛んだ。そして再び、俺の首筋に、触れた。
「どうせ死ぬなら……笑って死ねよ」
蓮の瞳から、ポタンと涙が頬を伝って、落ちた。
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