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生を願う⑤
しおりを挟む【side アオ】
すすり泣く声が、聞こえる。
俺を呼ぶ声が、聞こえる。
これは、誰だろう。
遠くで、泣いていて。
いや、泣いているのは、俺か?
誰かが俺の手を握っている?
これは、夢か?
なんだ? だれだ……
そこにいるのは、誰だ……
♢
誰かの声が聞こえて、うっすら目を開けた。
「……オッ!ーーオ、アオ!」
耳が先に、反応する。
デカイ声が耳から脳に強烈に入り込んできて、ガンガン響く。
眩しい。
目の前に見えるのは、まんまるの目。
真っ赤な目をして見開いて、ぶつかるんじゃないかってくらい覗き込んでくる。だから、全然焦点が合わなくて。
キュッと手に、圧迫を感じる。
夢で握られているような気がしたのは、実際手を握られていたからか、なんて少しずつ、思考がまわり始めて。事態が、飲み込めてきた。
いや、この状況を理解すればするほど、何が起きているのか、わからなかった。
「れん……?」
「アオ! わかる!? よかった……ごめんな、ごめんな……アオ……」
「ん……」
なんで謝っているのか。
なんで泣いているのか。
そもそもなんで、蓮はここにいるのか。
「なんで……蓮がおるん……」
「知らんけど、連絡来てん……この部屋番号……」
「部屋番号……?」
「それより痛いやろ? 動ける?」
「あぁ……多分ッーーいってぇ……」
カラダを起こそうとして、カラダ中が痺れるような感覚と、ズキズキと痛みが走り顔を歪めた。
「痛いやんな……ごめんな……」
「なんで蓮が謝るん?」
「……アオ……よかった……」
「なにが……?」
「ごめんな、アオ……」
相変わらず自分の言いたいことを思いのままに話す
蓮は、俺の手を握ったままそこに顔を埋めた。蓮の涙が、俺の手にじんわりと滲む。腕に流れて少し、ピリッと傷に痛んで。
そっと、手を伸ばした。
つむじ。
まぁるいつむじが見えて、思わずクスッと笑う。
ツンとつむじを、突いた。
「え、なに!?」
「んや……見えたから……」
「は?」
パッと上げた蓮の顔はぐしゃぐしゃで。
「どんな顔しとるん……」
「だって……」
グズグズと鼻を啜って、その顔を見て思わず、頬が緩む。
「ありがとう……ごめんな……」
謝るのは、俺の方。
巻き込んで、心配かけて、そして泣かせた。
「アオは……悪くない……ごめんて言うなや」
「蓮やって……悪くないやん……」
蓮が、俺の髪に手を当てた。
「アオ……あのさ……」
「なに?」
「痛かったら言うて……」
「……」
「怖かったら、言うて?」
「……うん……?」
蓮の目は、真っ黒の瞳。
真っ直ぐで、嘘がなくて、温かい。
その瞳が、ゆらゆら揺れて、俺を見つめる。
ふわりと俺のカラダを、蓮が包み込んだ。
ゆっくりと、俺のカラダを引き寄せて、そして少しずつ、その腕が俺を抱きしめる。
「痛い?」
「痛く……ない」
「怖くない?」
「……怖ないで……」
「嫌や……ない?」
「うん……」
蓮の優しい声が、カラダに沁み込む気がする。
蓮の温かさに、包まれる気がする。
そして痛みが、消えていく気がする。
「生きとって、よかった……」
生きてた。
俺は、あの時、生きたいと思った?
そんなことを思ったかは、わからない。
でも、蓮に、会いたいと願った。
蓮の、名を呼んだ。
「俺……蓮に、会いたかった……」
「……うん……」
正直な気持ちを、蓮に伝える。
自分の混乱した気持ちの中で、ただひとつ。
確かなこと。
力が入らない。
グッタリとしたカラダ。
力強くて、優しい蓮の温もりに俺は、身を預けた。
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