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アキ②
しおりを挟む【side サツキ】
アオがボロボロ泣いていて。
手にはかざぐるまを持っていて。
あの絵と、かざぐるま。
それが繋がって。
今まで俺の中にあったモヤモヤした感覚。どうしても噛み合わないパズルのピースが、全て綺麗に、噛み合った気がした。
「アキ……やんな……」
アキ。
あれは、アキ。
俺が、この世界に引き摺り込んでしまった人。
俺が、助けられなかった人。
さっき見た走馬灯のように。
いや、それよりもっと鮮明に、その映像が浮かぶ。
俺とアキは、なんで出会ったんやったか。
そう、俺がまだ現場デビューしたばっかりで。
道に迷ったんやった。
対象の場所がわからへんくて。
焦っていて。
たまたま通りがかったのがアキで。
俺はアキに、対象の家を聞いた。
それは、アキの家の近くだからって、アキが案内してくれて。でも本当に時間がなくて。
アキに礼を言って、別れて。
すぐにローブを羽織って、仕事をした。
そのくらい、時間的余裕がなかった。
ローブの力を使って。
その直後に、アキの足音が真後ろでして。
マズイと思った。
でももう、振り返る余裕もなかった。
その直後に、救急車がきて。
すでに息のない人が、運ばれていった。
俺はただ、存在がバレたんじゃないかって、ドキドキして。ヤバいと思って。
すぐに立ち去ろうとした。
その時後ろから、声がした。
「大丈夫でした?」
その声は、アキだった。
ギクリとして。
冷や汗が一気に吹き出した。
振り返ると穏やかな顔をしたアキがいて。
「大変やったんじゃないですか?」
なにを?と思ったけど。
そうか。俺が訪問して、人が死んだことになるから、それは大変なはずだ。
「はぁ、まぁ……」
夕刻時。
遠くの空から差し込む真っ赤な光が、アキを照らしていて。ぼんやりしたことを答えながら、光の中にいるアキがすごく綺麗で。
それが、俺とアキの出会いだった。
アキはなにも聞かなかった。
「あの家の人はさ……」と、たった今しがた亡くなった人の話とか、そんな話をしたような気がする。あんまり覚えていないのは、赤く染まるアキに見惚れていたからか、それとも、バレたんじゃないかと気が気じゃなかったからか。
もはや俺にはわからないけれど。
そうやってなぜか、俺とアキの関係がはじまって。
アキと、アキの幼馴染の航と俺と。
それから時々アキの弟のアオがくっついてきて。
くだらない話をすることが、楽しかった。
アキが死神になって。
アオもくっついてきて。
アキを死神の世界に引き摺り込んだ俺は、自分から正体をバラした罪、とやらで結構な処分を受けて、現場に戻った。
死神になるとき、全てのモノを、失う。
家族も、友だちも、これまで過ごした、時も。
アキはそんなの微塵も感じさせないで、変わらない態度で俺のところにいた。いつも俺のそばにいて。
「アキは……なんで俺のところにおるん……?」
差し込む夕日で部屋が真っ赤に染まる。
俺の上に跨るアキの額に、汗が滲んで。キラリと光る。
「サツキは……俺を救ったんやで?」
「……俺? いつ?」
「初めて会った日……」
アキは俺の上で、カラダを揺らして。
唇を噛んで漏れる息を抑えながら、言う。
「なんも……上手くいかんかってん……ウチ……親もクソみたいな人やった……から……」
「……」
「借金とか……くッーー女とか……親父そんなんばっかで……ーー」
「……」
「もう嫌やなぁって思っとったら、サツキが……道を聞いて来て……はぁッーー」
「あの……日か……」
「なんやこの世界の、人間やないって思った……だったらそこに、俺も連れてってくれへんかなぁ……って……あの日、思ったんやで……?ーーはぁッ……」
鮮明に思い出せる。
俺の腹の上で揺れるカラダ。
真っ白の肌に、無数の傷跡があった。
あれは、親父にやられたと、いつか話してくれた。
でもその傷も、痛みも、含めて全部アキで。
そんなアキといる時間が俺は好きで。
アキが、本当に、好きだった。
アキと過ごした時間は、穏やかで。
ずっと、続くと思っていた。
永遠にこの時間が。続くと思っていた。
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