月夜の闇に煌めく星〜ゲイビの世界に愛はあるのか〜

はちこ

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サクラ

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同じ頭が並ぶ。
みんな一様に前を向いて、黒板の文字をノートに写す。

教授の声は、講堂に虚しく響き、そして消えていく。

皆、志を持って学んでいるのだろうか。
なぜ、皆ここに集っているのだろう。

ここにいる意味を、ボーッと考えて、答えのでないその思考に、うんざりする。

「ねぇねぇ、なんでそんなに難しそうな顔してるの?」
「え?」

ショートヘアで、アーモンド型の目が綺麗なその女性が、隣から朔良を覗き込んだ。

え、だれ?

パチパチと瞬きをして、その女性の顔をまじまじと見つめ、「いや、別に……」と、朔良は返した。

「ふぅん、なんか、ずーっと眉間にシワ寄ってるよ?」
「そう? え、てゆーか……」
「誰?って思ってるでしょ」
「思ってる」

下唇を噛み、目尻にシワを寄せて笑うその顔は、ただ無邪気に笑う子どものようだった。

「リョウくんと一緒にいたよね。飲み会」
「飲み会? ——あぁ」

先月、リョウに誘われた飲み会を思い返した。飲み会と称して誘われたそれは合コンで、3人の初対面の女子が待っていた。その中にいたような、いなかったような、記憶が、曖昧だった。

「忘れてるー、つまんなそうだったもんね」
「そうだったかな?」
「なんだっけ? 名前……ミツキ?ミツキくん!」
「そう、ミツキ。」
「私の名前わかる? わけないか。サクラだよ」

ピクリとその音に、反応する。
 

そう、俺の名前はミツキ。
それから、もうひとつ。
それは、朔良。

ふたつの名前が、朔良の脳裏に浮かび、そして、消えた。

あれから、あの世界からの連絡はない。
KANからのメールで、DVDの発売日だけ知らせが入った。

『DVDいるなら事務所から持ってっていいよ』

そんな陽気なメールがKANから入り、「持ってくわけねーだろ」と、携帯に向かってつっこんだ。

「どーしたの? ミツキくんてさ、本当ボーッとしてること多いよね」
「考え事してんの」
「ふぅん。気付いてる? 授業、終わってるよ?」

気づけば講堂に人はまばらで、そのまばらな人も、出ていこうと立ち上がっていた。

「あぁ……」

その状況に気づき朔良は、そそくさと支度をして、講堂を出る。

「ちょっと待ってよ、このあと授業?」
「んや、終わり。帰る。」
「えー。ちょっと待ってよー私も帰るー!」

サクラは、ガタガタと音を立てて朔良の後ろを追いかける。

「ミツキくん電車? 駅まで一緒に行こー」

人懐っこいのか、後ろからちょこまか着いてくるサクラを、母親の後ろをついて歩く子犬か小鳥のようだと、感じた。

「リョウくんとはずっと仲良しなの?」
「幼なじみなの!? 大学まで一緒なんて就職先も一緒なんじゃなーい?」
「休みの日も遊んでるの?んなわけないか」

「そう」「別に……」素っ気ない朔良の返事を気にも留めない様子で、サクラはペラペラと喋り続ける。それは、リョウの話がほとんどで、あぁこの子はきっとリョウが好きなんだろうなと、朔良は思考する。

覚えてもいなかった女の子の好きな人には興味はなく、だからといって協力する気もなく、ただ、質問に答えて前を向いて歩いた。

「あっ——」

自分のペースをただ守って、サクラを若干置き去りにして歩いていた朔良が急に足を止めて、その背中にぼふんとサクラがぶつかった。

「え、どーしたの?」


すれ違ったのは、KANと凌空と、そして弦。

撮影なのだろうか。
いや、撮影にしては、少人数。
なんだろうか。


挨拶をすべきか。


背の高い、遠くから見ても明らかになにか違う雰囲気を纏わせ歩く彼らは、何か笑って話しながら、朔良のすぐ横を通り過ぎた。

横をすり抜けるその風に乗って、弦の煙草の香りがほのかに漂う。

その香りに誘われるように、朔良は思わず振り返った。3人はまっすぐその道を歩いて、そして角を曲がる直前、3人が一様に、振り返った。

バチンと視線がぶつかって、思わず朔良は、「うぉっ」と声が漏れた。

「え、どーしたの? 誰か知り合い?」

人が行き交う横浜の街。
3人の視線にサクラが気付くわけもなく。

「いや、なんでもない」

朔良はまた前を向き、歩き始めた。

「ミツキくんて本当に謎な人ぉ」

不思議そうに首を傾げ、そして今度は、横に並ぶ。

「家、どっちの方なの?」
「港北の方」
「へぇ! うち近いのー、みなとみらい」
「え、金持ち?」
「んーいや、そうでもないよ?」

サクラはそう言って、手をひらひらと振り、改札をくぐった。

「つーかみなとみらいなら歩けるんじゃねぇ?」という言葉は呑み込んで、俺はサクラと別れた。


さっきから、スマホがポケットでブルブル震えている。

『おつかれーっす! 彼女?』
『プラベの時は声かけへんよ』
『バレへんように、外では無視やからね』

何通もメールが入り、細かなルールが打ち込まれていく。

「最初に言えって……」 

またスマホに向かって、小さくボヤく。


『彼女じゃありません。外での件、了解です』

片手でパチパチと打って、そう返事した。
ホームボタンを押し、黒くなったその画面に、自分の顔が映る。

なぜ、俺だったのだろう。
中性的な雰囲気を求めていた、とSUUは言っていた。どこにその要素があるのか、自分には分からない。

少し切れ長の目。
弦のような、大きな雰囲気のある瞳に憧れたこともあった。
鼻は高いが、厚めの唇が嫌いだった。
ただ、だからと言ってそれをどうこう思っても仕方なく、これが自分だと、そう思って今日まで生きてきた。

どこに、なにを感じてあの人たちは俺を、スカウトしたのだろうか。 

そんなことを考えながら朔良は、長めの前髪を、触る。
そっとつまんで、くるくると、弄る。

その時パッと、スマホが光った。

『素っ気ないなー秋にイベントやるぞ。リク』

「は?」

考えても分からないその思考をやめようとスマホをしまいかけたその時、KAN経由で連絡先を聞いたのだろうか。凌空がメッセージを送ってきた。


いべんと?


平日の午後の電車に揺られる。
まばらな電車の中で、ポカンと、そのスマホを見つめる。

イベントとはなんだろうか。
誰を対象にしたイベントだろうか。

飛び交うハテナマークをかき消すように、朔良は頭をわしゃわしゃと掻いた。
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