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誰のせい(後編)
しおりを挟む整わない呼吸が、2人の間でぶつかる。
「朔……朔良……大丈夫……?」
先に動きを取り戻したのは櫂で、先ほど自らの手で切ったばかりの朔良の髪を撫でた。
「んんっ……ダメかも……ハハッ……立てない」
ようやく意識を取り戻しつつある朔良は、ふぅーっと大きく息を吐き、そして笑った。
「シャワー浴びようぜ……」
「だから立てないって……」
「俺が支えたるって」
「ちょっと待てって」
強引に腰を抱き引き上げる櫂への抵抗虚しく、朔良は引きずられるように浴室へと連れて行かれた。
雑に拭かれた腹の遺伝子が、皮膚を引っ張り、チリチリとした感覚が走る。
「櫂……手際いいな……」
「なんのだよ?」
「……片付け?」
「いやいや、そのまんまにはしておけないだろ……」
「……ありがと……」
浴槽の縁に腰掛ける。目の前に、シャワーを頭から浴びる櫂のカラダが在る。
なにが起きたのか。
なにをしていたのか。
撮影でもなんでもない。
今、櫂と、SEXをした。
言い訳をするならここが、普段撮影をする事務所であって、そこで仕事仲間である櫂がエロかったから。
流された?
いや、違う。
流されたフリをした。
流されたフリをして、櫂とSEXした。
ちらりと朔良は櫂を見上げた。
鍛え上げられた、夏でもないのに小麦色の肌が、水滴を纏う。血管が隆起する腕が、自らの肌をなぞっている。
「朔ってさぁ……たまに可愛いよな」
「え? わかんねぇ」
「そう? 今も、なんかボーッとして可愛いやん」
にかっと歯を見せ口角を広げた櫂は、朔良の頭にわしゃっと触れ、そしてシャワーを向けた。
髪を伝って湯が落ちる。
ザーザーと流れるその音に、今あった出来事を流してしまいたい。
流された。
流されてやってしまった。
全てこの水音と共に流して、なかったことにして。
そんなふうに、思えたらいいのに。
朔良の心は、まったくの逆で。
起きたコトを心に大切にしまっておきたい気持ちが溢れ、その想いに、戸惑っていた。
「洗ったるよ」
櫂が、泡だらけの手で朔良のカラダをなぞる。
大きな手。
長い指が朔良に触れる。
そっと朔良は、櫂の腕に手を置いた。
「……どした?」
「んー……わかんねぇ……」
「朔……」
「ん?」
「んー……なんでもねぇ……」
水音だけが響く浴室で、静かに響く、それぞれの声。
ぬるい湯が、朔良と櫂の間に流れる。
そこを分け入るように手を伸ばし櫂は、朔良のカラダに豪快に泡を撫で付けた。
わしゃわしゃと音を鳴らして、朔良のカラダに残るアトを泡と共に、全て流した。
・
「俺、明日朝早いんだー先寝るわー」
ラフな部屋着に着替えた櫂は、撮影用の大きなベッドのある部屋のドアを開けた。
「はえぇな! こんな時間に寝れんの?」
「全然寝れる。 朔はまだ起きとんの?」
「んーもーちょっと飲もうかな」
「ふぅん……じゃあ、寝るわ。おやすみー」
「おやすみ」
変わらない、いつもの明るい声で。
いつもの無邪気な顔で。
櫂は「おやすみ」と言って撮影用の部屋に消えた。
パタンとドアが閉まり、視界を遮る。
朔良はドサッとソファに座った。
さらりとソファを撫でる。
先ほどまで、SEXしていた場所。
ふと視線をあげるとダイニングテーブルがあって、もう少し前にはそこで櫂に髪を切ってもらっていたことを思い出す。
同じ日の出来事とは思えないほど、遠い記憶になりつつあり朔良は、苦笑いをした。
櫂に抱く想いに混乱して。
櫂に抱く想いから目を逸らして。
櫂は、特別な人なのだろうか。
朔良はゆっくりと思考した。
初めて、櫂と出会ったあの日。
初めてライブに出演した後に、櫂と出会った。
日本人離れしたスタイルと、誰もが振り返るような整った顔立ち、そこに在るのは飾らない無邪気な子どものような姿。
旅もの撮影で、言いようのない感覚に襲われた。
彼に見惚れている自分。櫂を求める自分。
そんな想いに戸惑って。
未知の世界に、同じ時期に飛び込んだ、同じ歳の人。同じような経験をして、同じような思いをして。
同性の友人として、仕事仲間として、分かり合えることが多く居心地が良かった。
そうだと思っていて。
そうだと思い込もうとしていて。
でも今、そうではないと自覚してしまった自分がいる。
彼との静かな時間が心地よかった。
彼に触れられ、彼に見つめられ。
それに心が高鳴って。
そして、彼を求めた。
その思考に辿り着いたた瞬間、朔良は背筋にビリビリと何かが走ったような感覚に襲われた。
そして、20年間生きてきて初めて得たその感情に、静かに、指先が震えた。
・
パタンと閉めた扉にそっともたれかかる。
全身の力が抜けたような感覚に襲われて、ズズズッと背が擦れストンとその場に、尻をついた。
長い足を折り、長い腕で抱える。
「櫂がエロいから……」
「朔良がエロいから……」
そう言って、お互いのせいにして、行為を進めた。
止めることも、できたはず。
撮影では何度も何度も止めながら、欲と理性を保ちながら、創りあげるから。
「撮影じゃない」と言った。
「じゃぁこれはなに?」と、朔良は聞いた。
「練習だよ」
そう答えるのが、精一杯だった。
拒絶されること。
否定されること。
心のウチを見せてくれた朔良が離れてしまうかもしれないことに、恐怖を感じた。
朔良に抱いた感情は、いつもの、感情なのだろうか。
いつも感じる、恐怖なのだろうか。
近づけば近づくほど、感じる恐怖。
離れていく姿を見たくなくて。
朔良の戸惑う瞳に、朔良の何か言いたそうな唇に、気付かないフリをして、いつも通りの顔をした。
「朔……」
膝に顔を埋め、櫂は小さく、息を吐いた。
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