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櫂朔⑥
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「KANちゃん! KANちゃん就職決まった!」
「うぉおー! まじかぁ! おめでとうー」
「はぁーやっと終わったぁ~」
「別に決まらんかったらココで働けばええんやん、焦ることなかったのに」
「いやいやいや……てあれ? 弦くんいたんすか?」
「いたよ、今日撮影~」
櫂が辞めて、櫂のいない事務所はその穴を埋めるかのように、精力的に作品づくりに取り組んだ。
固定カップリングをすることなく、作品に合わせカップルをつくり、丁寧に作品を作った。
「今日誰と?」
「聖也」
「おー最近会ってないなぁ、元気?」
「今シャワー中や」
テーブルに差し入れのケーキを置き、朔良は椅子に座った。バタバタ準備するスタッフ。
「俺の撮影、次だれ?」
「朔ちゃん次は碧生やな」
「また碧生かー」
「またってなんや」
「いや、別に、久々に弦くんと撮りたいなぁ」
「つーか、なに座っとるん? 撮影見て行くん?」
「あー。そーしよっかなぁ」
始まる撮影を、隣の部屋からそっと覗く。
弦の演じる、浮世離れした正体のわからない謎の男性と恋に落ちる不思議な物語。少しずつ溺れていく快感と、奇妙な雰囲気を出す、その表現は難しい。
弦は珍しく、気怠さよりも優しさを前面に出し、長い髪を掻き上げて覗かせる歯は、嬉しそうにキラリと光っていた。
・
「兄やん、さすがだわ」
「そう?」
撮影が終わり、共に弦の店へ向かった。
弦はカウンターに立ち、朔良は座り酒を飲む。
ステージには若いバンドがジャズを演奏しており、フロアには客が数組入っている。
「お客さん入ってるんすね」
「ちょっとずつ増えてきたわ」
店にはバイトもいて、そのバイトもまた音楽家を目指していた後輩だという。
「聖也さぁ……あいつ大丈夫すかね?」
「なにが?」
「なんか、もうちょっとできるだろって思った」
「あー……まぁなぁ、表現が弱いところはあったな」
「言いに行こうかと思いましたよ」
「いや、十分言ってただろお前」
「止まった時だけっすよ? 止めたろうかと思った」
「ははっ……求めるレベル高えな、スタッフか!」
笑って、何かを切る手元に視線を移す弦。
まな板を叩くナイフの音が、トントンと静かに鳴り、遠くに鳴るジャズと混ざり合う。
カランと氷の音を立てて酒を飲む朔良の喉元に、弦はちらりと視線をやる。
「いや別に普通でしょ。だってさぁ、金払って買ってもらうんすよ? 中途半端なもんはさ……」
酒を流し込みながら、朔良はブツブツと話し続ける。
その姿に、弦はふっと、息を吐いた。
「まだ1年も経ってない奴だから、これからだろ。……おい朔良、飲みすぎんなよ?」
眉を下げて笑って、窘める。
水を出し、そしてあえて、口にする。
「櫂……どうしてるかな」
その言葉に朔良は一切、表情を変えなかった。
「さぁ……あいつが、幸せならいいんじゃないすか」
そう言って朔良は、カラカラと、グラスを回した。
その、グラスの底に視線を落とした朔良の心が櫂を求めていることは、明らかだった。
事務所にいて、ふとした瞬間に、一瞬、一瞬だけ、宙に向けられる朔良の視線。おそらく無意識にそれは、いつも当たり前に隣にいた櫂に、向けられた視線。
当然そこに、櫂はいなくて、朔良は表情ひとつ変えずに、会話に戻ってくる。
せめて、怒りをぶつけてくれればいい。
せめて、弱音のひとつでも吐き出してくれればいい。
櫂が事務所を出てから朔良は、一切それを表に出さない。
それは朔良の、強さであり弱さ。
「でも俺、ほんとに兄やん好きなんすよ。凌空くんとさ。カッコよくてさぁ……」
僅かに頬を染めている程度の朔良は、完全に酔っていて、カウンターで誉め殺しタイムに突入している。これは、誰かにヘルプを求めなくては、朔良の相手ばかりもしていられない。
「あ、KANちゃん? 凌空といんの? 朔良迎えにきて。酔っ払いだわ」
電話をかけ、朔良のもとへ戻る。
「朔良、もうすぐKANちゃん来るから、送ってもらえよ」
「えぇー大丈夫なのに」
「大丈夫じゃねぇだろ……お前、無理すんなよ」
「別に、無理してないよ」
「いつでもここ来ていいからな」
「優しい~……惚れそう」
「お前が惚れてんのは俺じゃねぇだろ」
「……へ?」
パチパチと瞬きをして、弦の顔を見てそして、朔良はまた、何事もなかったかのように酒を飲んだ。
「俺さぁ……変なのかな……」
「……変じゃねぇよ」
朔良がなにを言おうとしているのか。
弦はそれが、なんとなくわかって、静かに、答えた。
「もともとは違ったけど、でも、そういう気質はあったんだと思う。じゃなきゃ、できねぇよ」
「……」
少し声のトーンを落として、弦は話す。
朔良は黙って、少しずつ溶けて小さくなる氷を見つめる。少しずつ角がおちて、丸くなる氷。
店のライトに照らされ、オレンジに光る。
「それって……普通のこと?」
「さぁ……普通って、なんだろうな?」
「あそこでは、普通に思えるけど……」
「あそこを出たら、普通じゃねぇのか?」
「まぁ。普通では、ないと思われるんじゃない?」
「それが嫌なのか?」
「嫌じゃない。でもなんか、わかんねぇブレーキみたいなのが……かかる」
朔良は長い前髪を、掻き上げた。
高い鼻が、影を作り、その表情を綺麗に見せる。
「例えば、それが普通じゃなかったとしてさ。俺たちのいるあの世界では普通だよ。KANだってそうなんだよ。お前が、どこの場所にいて、なにを基準に考えるか、それによって違うんじゃねぇの?」
「……」
「みんなに理解してもらおうなんて、無理な話だよ。どんな事に対しても。それでも、誰と一緒にいたいか、誰にわかって欲しいのか、それが大事なんじゃねぇの?」
眉間にシワを寄せ、氷を見つめたまま朔良は唇を噛んだ。グラスを持つ指先が、赤く染まっている。
「弦くん……俺さ……」
「うん?」
「俺……忘れらんねぇよ……櫂が……櫂がさぁ……」
「うん……」
「櫂が忘れらんねぇんだよ……」
真っ赤に染まった目に浮かぶ涙は、決して溢れない。
それでも唇を噛み、その瞼を大きく開いて耐えるその顔は、朔良の精一杯の、心の叫びだと思った。
「うぉおー! まじかぁ! おめでとうー」
「はぁーやっと終わったぁ~」
「別に決まらんかったらココで働けばええんやん、焦ることなかったのに」
「いやいやいや……てあれ? 弦くんいたんすか?」
「いたよ、今日撮影~」
櫂が辞めて、櫂のいない事務所はその穴を埋めるかのように、精力的に作品づくりに取り組んだ。
固定カップリングをすることなく、作品に合わせカップルをつくり、丁寧に作品を作った。
「今日誰と?」
「聖也」
「おー最近会ってないなぁ、元気?」
「今シャワー中や」
テーブルに差し入れのケーキを置き、朔良は椅子に座った。バタバタ準備するスタッフ。
「俺の撮影、次だれ?」
「朔ちゃん次は碧生やな」
「また碧生かー」
「またってなんや」
「いや、別に、久々に弦くんと撮りたいなぁ」
「つーか、なに座っとるん? 撮影見て行くん?」
「あー。そーしよっかなぁ」
始まる撮影を、隣の部屋からそっと覗く。
弦の演じる、浮世離れした正体のわからない謎の男性と恋に落ちる不思議な物語。少しずつ溺れていく快感と、奇妙な雰囲気を出す、その表現は難しい。
弦は珍しく、気怠さよりも優しさを前面に出し、長い髪を掻き上げて覗かせる歯は、嬉しそうにキラリと光っていた。
・
「兄やん、さすがだわ」
「そう?」
撮影が終わり、共に弦の店へ向かった。
弦はカウンターに立ち、朔良は座り酒を飲む。
ステージには若いバンドがジャズを演奏しており、フロアには客が数組入っている。
「お客さん入ってるんすね」
「ちょっとずつ増えてきたわ」
店にはバイトもいて、そのバイトもまた音楽家を目指していた後輩だという。
「聖也さぁ……あいつ大丈夫すかね?」
「なにが?」
「なんか、もうちょっとできるだろって思った」
「あー……まぁなぁ、表現が弱いところはあったな」
「言いに行こうかと思いましたよ」
「いや、十分言ってただろお前」
「止まった時だけっすよ? 止めたろうかと思った」
「ははっ……求めるレベル高えな、スタッフか!」
笑って、何かを切る手元に視線を移す弦。
まな板を叩くナイフの音が、トントンと静かに鳴り、遠くに鳴るジャズと混ざり合う。
カランと氷の音を立てて酒を飲む朔良の喉元に、弦はちらりと視線をやる。
「いや別に普通でしょ。だってさぁ、金払って買ってもらうんすよ? 中途半端なもんはさ……」
酒を流し込みながら、朔良はブツブツと話し続ける。
その姿に、弦はふっと、息を吐いた。
「まだ1年も経ってない奴だから、これからだろ。……おい朔良、飲みすぎんなよ?」
眉を下げて笑って、窘める。
水を出し、そしてあえて、口にする。
「櫂……どうしてるかな」
その言葉に朔良は一切、表情を変えなかった。
「さぁ……あいつが、幸せならいいんじゃないすか」
そう言って朔良は、カラカラと、グラスを回した。
その、グラスの底に視線を落とした朔良の心が櫂を求めていることは、明らかだった。
事務所にいて、ふとした瞬間に、一瞬、一瞬だけ、宙に向けられる朔良の視線。おそらく無意識にそれは、いつも当たり前に隣にいた櫂に、向けられた視線。
当然そこに、櫂はいなくて、朔良は表情ひとつ変えずに、会話に戻ってくる。
せめて、怒りをぶつけてくれればいい。
せめて、弱音のひとつでも吐き出してくれればいい。
櫂が事務所を出てから朔良は、一切それを表に出さない。
それは朔良の、強さであり弱さ。
「でも俺、ほんとに兄やん好きなんすよ。凌空くんとさ。カッコよくてさぁ……」
僅かに頬を染めている程度の朔良は、完全に酔っていて、カウンターで誉め殺しタイムに突入している。これは、誰かにヘルプを求めなくては、朔良の相手ばかりもしていられない。
「あ、KANちゃん? 凌空といんの? 朔良迎えにきて。酔っ払いだわ」
電話をかけ、朔良のもとへ戻る。
「朔良、もうすぐKANちゃん来るから、送ってもらえよ」
「えぇー大丈夫なのに」
「大丈夫じゃねぇだろ……お前、無理すんなよ」
「別に、無理してないよ」
「いつでもここ来ていいからな」
「優しい~……惚れそう」
「お前が惚れてんのは俺じゃねぇだろ」
「……へ?」
パチパチと瞬きをして、弦の顔を見てそして、朔良はまた、何事もなかったかのように酒を飲んだ。
「俺さぁ……変なのかな……」
「……変じゃねぇよ」
朔良がなにを言おうとしているのか。
弦はそれが、なんとなくわかって、静かに、答えた。
「もともとは違ったけど、でも、そういう気質はあったんだと思う。じゃなきゃ、できねぇよ」
「……」
少し声のトーンを落として、弦は話す。
朔良は黙って、少しずつ溶けて小さくなる氷を見つめる。少しずつ角がおちて、丸くなる氷。
店のライトに照らされ、オレンジに光る。
「それって……普通のこと?」
「さぁ……普通って、なんだろうな?」
「あそこでは、普通に思えるけど……」
「あそこを出たら、普通じゃねぇのか?」
「まぁ。普通では、ないと思われるんじゃない?」
「それが嫌なのか?」
「嫌じゃない。でもなんか、わかんねぇブレーキみたいなのが……かかる」
朔良は長い前髪を、掻き上げた。
高い鼻が、影を作り、その表情を綺麗に見せる。
「例えば、それが普通じゃなかったとしてさ。俺たちのいるあの世界では普通だよ。KANだってそうなんだよ。お前が、どこの場所にいて、なにを基準に考えるか、それによって違うんじゃねぇの?」
「……」
「みんなに理解してもらおうなんて、無理な話だよ。どんな事に対しても。それでも、誰と一緒にいたいか、誰にわかって欲しいのか、それが大事なんじゃねぇの?」
眉間にシワを寄せ、氷を見つめたまま朔良は唇を噛んだ。グラスを持つ指先が、赤く染まっている。
「弦くん……俺さ……」
「うん?」
「俺……忘れらんねぇよ……櫂が……櫂がさぁ……」
「うん……」
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