月夜の闇に煌めく星〜ゲイビの世界に愛はあるのか〜

はちこ

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道③

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思い返すと、あっという間の日々だった。

朔良はあの日、「俺も頑張るわ」と言って、そして、「じゃぁな」と軽く手を振った。

いや、振っていなかったか、振っていたか、もはや記憶が曖昧だ。


「頑張る」と言った朔良に恥じないように。
あんな辞め方をした以上、頑張らなくては。

ただその思いで、必死にこの数年間を過ごした。

ちゃんと美容師になって、店で働かせてもらって、異例の速さでスタイリストとなり、指名の客も少しずつ増えた。

頑張って、頑張って頑張って、走り続けてきた。

でも、思いがけず再会したあの日からなぜか、前に進んでいない気がする。

朔良となら、笑って一緒に歩いていけると思っていた。
朔良となら、どんな困難も一緒に乗り越えていけると思っていた。

なのに今、そうではない現状が、歯痒くて、もどかしくて、そして、情けない。


櫂は、開いた雑誌をバサリと枕元に置き、窓を開けた。何度も見た景色。この部屋から見るのは、月の光。

薄い雲がかかりぼんやりと光る月は、今日も静かに、街を照らす。

この街のどこかにいる朔良は、どこでなにを、想っているのだろう。

考えても答えが出ないその思考。
櫂は先ほど放り投げたDVDを手に取った。







「え、お前ら再会後やってないの?」
「う……ん……」
「なんで? なんでなん?」
「んーーだって……外で会う事多くてさ、お互い仕事もあって、じゃぁなーって……」
「お前らどんだけ不器用なんだよ」
「今どき高校生でももうちょっと……」
「はぁーー……」

客が掃けた店。
もうすぐ閉まるその店に残るのは、自分たちだけ。
途端にオープンになる会話。

フロアのテーブル席に、弦も座り酒の席を囲んだ。

「櫂さー、モデル復活せぇへんかなぁ……」
「は……?」
「ほら、朔ちゃんが言ってたOB会? ふたりが完全にデキてたら、言いにくいけど、そんな感じなら櫂朔復活できんかなぁ……」

KANの突然の発言に、場が静まった。

「えっと……」
「KANちゃんなに言ってんの?」

凌空と弦がポカンとした顔でKANをまじまじと見つめる。

「さっき絡みなしでも無理みたいに言ってなかった?」
「え、朔良そこ?」
「へ?」
「お前ら今デキてない認定されてたけど」
「あ……」
「いやいやちゃうで! そーやないけど!」

凌空のツッコミに、KANが慌てて大袈裟に手を振る。それを睨みつける朔良は、頬を綻ばせもう1度聞いた。

「え、てゆーか、無理じゃないの?」
「いや、無理ではないで。でもほら、前例はないやん、普通はないって話で」
「いや……あのさ、えっと……一夜限りの復活って、ありなの?」

一連の流れを聞いていた弦が、じっとKANを見つめた。

「弦……ちゃん?」

隣で凌空が、小さく呟く。
その呟きは、弦の心を知っていて、その言葉の意味を理解していて、それでいて、思わず出てしまった凌空の心だと、朔良は思った。

志半ばで、引退しなくてはならなかった弦。
誰よりも、あの場所を大切にしていた弦。
そして、ファンを大切に想っていた、弦。

きっと、その最後の、最後の区切りを弦は、つけたかったのではないか。

「絡みは……あってもなくてもいい」

朔良は、ガタンと立ち上がった。

「でも、やっぱり俺はあのメンバーで集まりたい。オフショみたいな枠でもいい。どんどん引退していくのを見送ってきた。その度にファンがすげぇ悲しんでる。仕方ないことだけど、でもあんなに応援してくれた人たちだから……」

なぜか、声が震えた。
そしてなぜか、視界が霞んだ。

霞んだ視界の向こうには、凌空と、弦と、KANがの顔が見える。

「だから、俺がいるうちにそれを見せてあげたい。それに、俺がまた、あの時のメンバーで……仕事がしたい」

なぜか溢れる涙が、止められなかった。

「よく言ったじゃねぇか朔良……」
「んなこと言われたらさぁー、でも俺弦ちゃん以外嫌なんだけど」
「絡む気ぃ満々やん」
「ここ売るの完全プライベートセックスじゃんありなの?」
「プライベート売るなやー」
「櫂朔だってそうじゃん」
「櫂朔はプライベートないからええねん」
「おい朔良言われてるぞ」

誰も触れない、止まらない涙が照れ臭くて、でもやはりこの空気が好きで、朔良はゴクゴクと、酒を流し込んだ。

その時、キィッと音を立てて、店の扉が開いた。
そこに立っていたのは、櫂だった。
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