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庶子平
四
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「旦那!こっちだよ!」
着地すると同時に、物陰から己を呼ばわる声がした。
「丁か」
家屋の影に隠れる丁は、此方へと手招きをする。
「連中は?」
利星は身を低くし、摺り足で彼の元へ。
「見なよ」
言われて影から顔を出す。すると、武装した兵士達が、眼を光らせて、負郭をうろついている。
「あの石頭が。これでは負郭の皆が脅えてしまうではないか」
再び家屋の影に身を潜め、悪態をつく。
「どうする?旦那」
心配そうに顔を覗き込む、丁の頭をわしゃわしゃと撫ぜてやる。
「そうだな…」
大人しくお縄に付けば、その後には果てのない苦行が待っている。想像するだけで、利星は吐き気をもよおした。
「丁。何とか連中の眼を掻い潜って、公宮に戻りたい。できるか?」
丁は唯一、自分の素性を明かした少年だった。彼は口が堅く、何より己の耳目として一番の働きをしてくれる。
丁は鼻の下を指でこすり、にししと笑ってみせた。
「任せてよ。おいらいっぱい抜け道知ってるからさ。そんなの朝飯前だよ」
「流石、丁の兄貴だ。頼りになるぜ」
利星は丁の小さな背をぽんと叩いた。
「しっかりついてきてよ。旦那」
「おう」
身を屈めたまま駆ける、丁の後を追う。喧噪が徐々に遠ざかっていく。
(また俺の勝ちだな。秦開)
悔しさに顔を歪ませる師の様子を想像して、利星はくつくつと笑った。
着地すると同時に、物陰から己を呼ばわる声がした。
「丁か」
家屋の影に隠れる丁は、此方へと手招きをする。
「連中は?」
利星は身を低くし、摺り足で彼の元へ。
「見なよ」
言われて影から顔を出す。すると、武装した兵士達が、眼を光らせて、負郭をうろついている。
「あの石頭が。これでは負郭の皆が脅えてしまうではないか」
再び家屋の影に身を潜め、悪態をつく。
「どうする?旦那」
心配そうに顔を覗き込む、丁の頭をわしゃわしゃと撫ぜてやる。
「そうだな…」
大人しくお縄に付けば、その後には果てのない苦行が待っている。想像するだけで、利星は吐き気をもよおした。
「丁。何とか連中の眼を掻い潜って、公宮に戻りたい。できるか?」
丁は唯一、自分の素性を明かした少年だった。彼は口が堅く、何より己の耳目として一番の働きをしてくれる。
丁は鼻の下を指でこすり、にししと笑ってみせた。
「任せてよ。おいらいっぱい抜け道知ってるからさ。そんなの朝飯前だよ」
「流石、丁の兄貴だ。頼りになるぜ」
利星は丁の小さな背をぽんと叩いた。
「しっかりついてきてよ。旦那」
「おう」
身を屈めたまま駆ける、丁の後を追う。喧噪が徐々に遠ざかっていく。
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