瓦礫の国の王~破燕~

松井暁彦

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庶子平

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「旦那!こっちだよ!」
 着地すると同時に、物陰から己を呼ばわる声がした。

「丁か」
 家屋の影に隠れる丁は、此方へと手招きをする。

「連中は?」
 利星は身を低くし、摺り足で彼の元へ。

「見なよ」
 言われて影から顔を出す。すると、武装した兵士達が、眼を光らせて、負郭をうろついている。

「あの石頭が。これでは負郭の皆が脅えてしまうではないか」
 再び家屋の影に身を潜め、悪態をつく。

「どうする?旦那」
 心配そうに顔を覗き込む、丁の頭をわしゃわしゃと撫ぜてやる。

「そうだな…」
 大人しくお縄に付けば、その後には果てのない苦行が待っている。想像するだけで、利星は吐き気をもよおした。

「丁。何とか連中の眼を掻い潜って、公宮に戻りたい。できるか?」
 丁は唯一、自分の素性を明かした少年だった。彼は口が堅く、何より己の耳目じもくとして一番の働きをしてくれる。
 
 丁は鼻の下を指でこすり、にししと笑ってみせた。

「任せてよ。おいらいっぱい抜け道知ってるからさ。そんなの朝飯前だよ」

「流石、丁の兄貴だ。頼りになるぜ」
 利星は丁の小さな背をぽんと叩いた。

「しっかりついてきてよ。旦那」

「おう」
 身を屈めたまま駆ける、丁の後を追う。喧噪が徐々に遠ざかっていく。

(また俺の勝ちだな。秦開しんかい
 悔しさに顔を歪ませる師の様子を想像して、利星はくつくつと笑った。
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