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田斉
九
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地下を這う、秘密の隠し通路を田単一行は抜けた。這い出たのは、後宮にある一室である。室内には、闇が凝っていたが、夜光虫にように、ちらちらと光点が幾つかあった。
「寵姫達の衣が保管されている」
言った姜施の声量はなるたけ抑えられている。
「なるほど」
得心した。あの光点は金の刺繍である。
「しかし驚いたな。郊外にある妓楼の地下に、後宮へと続く隠し通路が存在したとは」
「俺達の父祖である、桓公の代に造られたものだ。王族はいつ命を刺客に狙わるか分からない立場にあるから。こういう抜け道は、幾つか必要だったのだろう。王権が変わり、長らく忘れ去られていたものだが」
「そうか。今の斉王が、この隠し通路を知っていれば、入り口や出口に見張りの者を立てるはずだものな」
「うるさい!喋ってないで、さっさと行くわよ」
姜音の平手打ちが、田単の頭頂部を見舞った。
「分かったよ」
田単は唇を尖らせ、姜施に続いて、半引きの戸をすり抜けた。
回廊の角の先。龕灯を暈したように、明かりがちらついている。
「宦官か」
姜施が呟く。
「仕方ない。一人ずつ片付けるか。田単、お前は此処で待機していろ」
「待ってくれ。僕も戦える」
「黙って従いなさい。私達は幼い頃より、闇での動きを仕込まれているの」
姜施が眼力で訴える。
「分かったよ」
「まぁ、任せなさい」
姜音は軽快に、田単の肩を叩いて、回廊に飛び出した。田単は蹲り、独り静寂に耳を傾けた。音一つ立たなかった。やがて、涼しい顔をした二人が戻ってきた。
「終わったぞ」
宦官や宿直の兵は、悉く気を失っていた。
「ここだ」
黄金の大扉。北斗七星が描かれ、瞬く星の一つ一つに軟玉が填め込まれている。
扉の奥から、獣のような男の唸り声と、女の嬌声が聞こえる。
「うっ」
姜音は嫌悪感を剥き出しにしている。
「行こうか」
田単は昏倒している、宿直の兵を一瞥して、戸を押した。鈍い音を立てて、扉が開かれる。
「寵姫達の衣が保管されている」
言った姜施の声量はなるたけ抑えられている。
「なるほど」
得心した。あの光点は金の刺繍である。
「しかし驚いたな。郊外にある妓楼の地下に、後宮へと続く隠し通路が存在したとは」
「俺達の父祖である、桓公の代に造られたものだ。王族はいつ命を刺客に狙わるか分からない立場にあるから。こういう抜け道は、幾つか必要だったのだろう。王権が変わり、長らく忘れ去られていたものだが」
「そうか。今の斉王が、この隠し通路を知っていれば、入り口や出口に見張りの者を立てるはずだものな」
「うるさい!喋ってないで、さっさと行くわよ」
姜音の平手打ちが、田単の頭頂部を見舞った。
「分かったよ」
田単は唇を尖らせ、姜施に続いて、半引きの戸をすり抜けた。
回廊の角の先。龕灯を暈したように、明かりがちらついている。
「宦官か」
姜施が呟く。
「仕方ない。一人ずつ片付けるか。田単、お前は此処で待機していろ」
「待ってくれ。僕も戦える」
「黙って従いなさい。私達は幼い頃より、闇での動きを仕込まれているの」
姜施が眼力で訴える。
「分かったよ」
「まぁ、任せなさい」
姜音は軽快に、田単の肩を叩いて、回廊に飛び出した。田単は蹲り、独り静寂に耳を傾けた。音一つ立たなかった。やがて、涼しい顔をした二人が戻ってきた。
「終わったぞ」
宦官や宿直の兵は、悉く気を失っていた。
「ここだ」
黄金の大扉。北斗七星が描かれ、瞬く星の一つ一つに軟玉が填め込まれている。
扉の奥から、獣のような男の唸り声と、女の嬌声が聞こえる。
「うっ」
姜音は嫌悪感を剥き出しにしている。
「行こうか」
田単は昏倒している、宿直の兵を一瞥して、戸を押した。鈍い音を立てて、扉が開かれる。
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