216 / 336
澱み
十一
しおりを挟む
「わ、私ですか?」
口は乾き切っている。上官の白起を見遣ると「構わん」と軽く返した。
心を奮い立たせる。
「わ、私なら軍を二手に分けます」
誰も口を挟まないので続ける。
「私は総帥殿麾下の天狼隊の速さを知っています。その気になれば、一日に二百里を駆けることも可能かと。故に此度は天狼隊の疾風の如き速さを生かしてはどうでしょうか?」
「というと?」
魏冄が訊く。
「まず天狼隊一万を本隊から分離させ南へ迂回させます。距離として七百里ですが、一日に二百里を駆けることが可能な天狼隊ならば、多く見積もっても四日の行程でしょう。本隊が直線距離の五百里を進んだとしても、一日にせいぜい七十里が関の山。此方と同様に、敵方も七日か八日は到着に要すると目算することでしょう」
「なるほど。殿が率いる天狼隊は南へ迂回させた所で結果本隊より先行した形となる」
義父の王齕が相槌を打つ。
「無謀な策だ。君はあろうことか十二万の大軍を廉頗対策の為に囮にしようとしている。廉頗が十二万を越える兵を埋伏しているとは思えないが、それでも数日は廉頗軍に足止めを食らうことになるだろう。その間、天狼隊は孤立無援の情況に陥る。少なく見積もっても四日間も天狼隊はたったの一万で三十万もの大軍を相手にしなくてはならない。不可能だ」
公孫胡易が鼻を鳴らしたその時。
「面白い」
総大将白起が不敵な笑みを浮かべながら呟いた。
「えっ?」
公孫胡易が眼を丸くする。
「廉頗との肚の探り合いだ。ならば、俺達は奴の思考の先を行かなくてはならん。奴とて俺がたったの一万を率いて、三十万の大軍にぶつかるとは思ってはおらん」
「総帥殿!正気ですか!?」
「どうだ?宰相殿」
白起は杖の先に手を重ね、瞼を閉じる魏冄を見遣る。
「わしは常勝将軍白起を信じる」
「決まりだな」
にやりと笑い、白起は王翦の髪をくしゃくしゃと撫ぜる。
「面白味のある男だよ。お前は」
緊張が一気に解け、変わって歓喜が突き上げてくる。
「王齕。王騎。胡傷。李莞。これは総力戦だ。全員今すぐ鞍を用意しろ!久しぶりに皆で駆けるとしよう」
「御意‼」
王翦は提案した策は、死が限りなく近いものだ。だが、古参の将達の表情には嬉々としたものが滲み出ていた。
口は乾き切っている。上官の白起を見遣ると「構わん」と軽く返した。
心を奮い立たせる。
「わ、私なら軍を二手に分けます」
誰も口を挟まないので続ける。
「私は総帥殿麾下の天狼隊の速さを知っています。その気になれば、一日に二百里を駆けることも可能かと。故に此度は天狼隊の疾風の如き速さを生かしてはどうでしょうか?」
「というと?」
魏冄が訊く。
「まず天狼隊一万を本隊から分離させ南へ迂回させます。距離として七百里ですが、一日に二百里を駆けることが可能な天狼隊ならば、多く見積もっても四日の行程でしょう。本隊が直線距離の五百里を進んだとしても、一日にせいぜい七十里が関の山。此方と同様に、敵方も七日か八日は到着に要すると目算することでしょう」
「なるほど。殿が率いる天狼隊は南へ迂回させた所で結果本隊より先行した形となる」
義父の王齕が相槌を打つ。
「無謀な策だ。君はあろうことか十二万の大軍を廉頗対策の為に囮にしようとしている。廉頗が十二万を越える兵を埋伏しているとは思えないが、それでも数日は廉頗軍に足止めを食らうことになるだろう。その間、天狼隊は孤立無援の情況に陥る。少なく見積もっても四日間も天狼隊はたったの一万で三十万もの大軍を相手にしなくてはならない。不可能だ」
公孫胡易が鼻を鳴らしたその時。
「面白い」
総大将白起が不敵な笑みを浮かべながら呟いた。
「えっ?」
公孫胡易が眼を丸くする。
「廉頗との肚の探り合いだ。ならば、俺達は奴の思考の先を行かなくてはならん。奴とて俺がたったの一万を率いて、三十万の大軍にぶつかるとは思ってはおらん」
「総帥殿!正気ですか!?」
「どうだ?宰相殿」
白起は杖の先に手を重ね、瞼を閉じる魏冄を見遣る。
「わしは常勝将軍白起を信じる」
「決まりだな」
にやりと笑い、白起は王翦の髪をくしゃくしゃと撫ぜる。
「面白味のある男だよ。お前は」
緊張が一気に解け、変わって歓喜が突き上げてくる。
「王齕。王騎。胡傷。李莞。これは総力戦だ。全員今すぐ鞍を用意しろ!久しぶりに皆で駆けるとしよう」
「御意‼」
王翦は提案した策は、死が限りなく近いものだ。だが、古参の将達の表情には嬉々としたものが滲み出ていた。
0
あなたにおすすめの小説
十二輝の忍神 ーシノビガミ― 第一部
陵月夜白(りょうづきやしろ)
歴史・時代
天明三年――浅間山が火を噴いた。
神の怒りに触れたかのように、黒い灰は空を塞ぎ、郷も田畑も人の営みも、容赦なく呑み込んでいく。噴火と飢饉が藩を蝕み、救いを求める声の裏で、名もなき影が蠢いた。灰の夜を踏むのは、血も温もりも失った“黒屍人”。誰が、何のために――。
その災厄に呼応するように、忍びの郷に封じられていた「十二輝の干支の珠」が、ひとつ、またひとつと眠りから解かれる。
珠は器を選び、器は力に喰われ、力は人を裏返す。
伊賀と甲賀の長い因縁、奪われる珠、引き裂かれる同胞。
そして、灰の国で拾い集められていく十二の輝きが揃う時、世界の秩序そのものが――動き出す。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
マルチバース豊臣家の人々
かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月
後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。
ーーこんなはずちゃうやろ?
それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。
果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?
そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?
戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~
川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる
…はずだった。
まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか?
敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。
文治系藩主は頼りなし?
暴れん坊藩主がまさかの活躍?
参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。
更新は週5~6予定です。
※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる