白狼 白起伝

松井暁彦

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影王

 七

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「やっちまった」
 二人は全身痣だらけで息絶える、范雎を見下ろす。

「どうする?兄貴」
 二人は兄弟だった。愚鈍であるが腕っ節の強さが買われ、宰相直々の警護役として仕えている。二人には徳がまるでない。だから、平然と拷問など汚いこともやってのける。

「仕方ない。魏斉様に御報せしなくては」
 言った兄の方は、手に持った鞭を無造作に放り投げた。

「お叱りを受けるのは嫌だな」
 弟が子供のように、べそをかく。

「俺だって嫌だ。それでも死んだことを隠しておけば、もっと酷い仕置きを受けることになるかもしれない」
 弟が涙目で潮垂れる。兄が主の元へ駆け、一刻ほどして戻ってくる。

「何てことなかったぜ。魏斉の旦那は酒に酔って機嫌が良かった」
 須賈の館では、魏斉を含めた高官達数人で宴が催されている。この陰鬱な倉の中にも、宴の喧噪が風に乗って運ばれてくる。

「いいな。宴には女も飯もたらふく用意されてるんだろうな」
 弟がむくれて言う。

「まぁそう言うな。旦那様がいつものように残りものを寄越してくださるさ」

「ああ。期待するとしよう。で、こいつの死体はどうする?」

すのこで躰を巻いて、かわやの横に放っておけだとさ」

「埋めないのか?」

「こいつは売国奴だ。旦那様は死体を辱めようってお考えなのさ」

「まぁ、仕方ないわな」

「さぁ運び出すぞ」
 二人はせっせと范雎の死体に簀を巻き、主に命じられた通りに厠の傍に放置した。
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