バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤

文字の大きさ
170 / 198
最終章・転生勇者編

第156話 再燃

しおりを挟む
 眼前に迫ってくる暴食の魔剣ベルゼブブ
 もはや避ける気にもならず、自分の死をただ何もせずに待った。

(所詮……おれはこの程度だったのか)

 絶望に駆られる意識で、その少女に喰い殺されようとしたときだった。
 ユウシの前に、一人の男が現れた。

「――そこまでだよ、アリスちゃん」

 少女の剛腕から振り下ろされた暴食の魔剣ベルゼブブの鋸歯。ユウシのステータスを喰らい相当なパワーアップをしていたはずだが、それを大小二本の刀と細腕で軽々と受け止めたのである。

(なんだ……誰だコイツは!?)

 驚愕の表情を浮かべながら、ユウシはその男を見やった。
 和柄の羽織。自分と同じくらいの歳だろうか?
 己では到底受け止めきれるかわからないパワーをあんなに簡単に止めるなんて……。
 困惑するユウシであったが、さらにもう一人の男がアリスの背後に立っているのが見えた。

「やれやれ。最大解放は私の目の届く範囲で使用しなさいと言ったでしょうに」

 紳士服を着た銀髪の男性はため息を吐きつつそう言った。
 その男はナイフを取り出すと、アリスのうなじに先端を突き付けた。
 ほんの一瞬だけ触れると一滴の血が流れ、刀身に付着させる。

「――夢への堕天フォールンダウン

 一言発した言葉。それに呼応してナイフが黒く光ると、アリスの瞳が虚ろを浮かべた。

「……あ、ああ…………――」

 アリスはそのまま瞼を閉じて意識を手放した。
 気を失ったことで最大解放が解除されると、元の可愛らしい少女へと姿を戻すのだった。
 倒れるアリスを銀髪の男が受け止めたところで、ユウシは口を開いた。

「なにを……したんだ?」

 突如として意識を失ったアリス。あれほど凶悪だった少女が一瞬で眠りに着いたのだ。当然の疑問だった。

「アリスさんの最大解放は強力です。けれど、その後の副作用が少々やっかいでね。
 こうして眠らせなければ地獄のような苦しみを丸一日味わうことになるのですよ。」

 そこでユウシはアリスの最大解放について説明を受ける。

 アリスの最大解放『終之晩餐クイノコスコトナカレ』は、発動終了後に、極度のとなるのである。
 強烈な空腹に、目の前にあるもの全てが食料に見え、あれこれかまわずに食い尽くそうとする。
 しかし、何を口にしても嘔吐症状が発症するため、全てを吐き出してしまい腹は満たされないのである。
 怪物じみた食欲を誇るアリス・ワンダーランドにとって、これほどの苦痛は無く、かつて使用した際にはアンブレラが本気を出して止めにかかったほどだ。

「そのときに、たまたま近くに仕事で来ていたのでね。私が傲慢の魔剣ルシファーを使って強制的に眠らせたのです。どんなにお腹が減っていても、眠っていれば暴れませんからね」
傲慢の魔剣ルシファーだと? まさか――」

 ユウシは、その人物たちの正体を理解したのだった。

「申し遅れました。私はレオン・フェルマー。Sランク冒険者をしています」
「ついでに、僕はムサシ・ミヤモト。同じくSランクだよ」



 ***



「貴方たちがレストランから出たあと、アリスさんが苦しみに藻掻き暴れる姿が視えました。
 間に合ってよかったですよ、ホントに。」

 眠ったアリスをおぶりながらレオンは話した。
 レオンの最大解放『六感覚醒シックスセンス』は、本来30秒以内の未来を視ることのできる能力であるが、24時間スキルの使用が出来なくなることを代償とすることで、1か月以内に起こる未来を視ることが可能となる。
 そこでレオンはアリスの戦闘の結果を未来視。すると自らの力で身を滅ぼすアリスの姿を確認し、急いで駆け付けたとのことだった。
 かろうじてアリスが苦しむ前に間に合ったので、二人も安堵の表情を浮かべていた。
 アリスのすやすやと眠る顔を見ていると、レオンは思い出したようにユウシへ告げる。

「私も現在最大解放のデメリット時間です。なので、残念ながら貴方とは戦えませんのでご了承ください」
「な、なんでそれを知ってるんだ!?」
「レストランでお話していたではありませんか」

 そこでユウシはレオンが『貴方たちがレストランが出たあと』と言ったのを思い出した。
 だが、それでは腑に落ちない点があった。
 先ほどは絶望に駆られ正気ではなかったため気付かなかったが、ユウシなら強者の雰囲気にすぐに気づけたはずだったからだ。

「バカな。アンタたちほどの強者が近くにいて、おれが気付かないわけが――」

 それを切り出そうとしたとき、ムサシが遮った。

「あぁ。それはハザードの能力だよ」
「ハザード? 魔王ハザード=ダイヤモンドか?」

 その問いにムサシは頷き肯定する。

「ハザードの技の一つさ。気配断絶アイドル・ストップ
 一般人には魔王の気配は強すぎるから、普段から発動しているんだよ」

 ムサシの話によれば、ハザードは店に入って来たユウシらにいち早く気付き、その場にいた自分以外の3人にもこの能力を発動していたとのこと。
 完全に一般人と同じような気配になったことで、誰もムサシたちには気付けなかったのである。

「ハザードも永い時間を生きているからね。色んな技を覚えて人間の街に行ったり来たりしている内に、人間に情が沸いたと言っていたよ」

 それはハザードが、自らに挑んできた者以外を殺さない理由であった。
 戦う相手には全力で。敵対しないのであれば何もしない。
 ただ、天災や魔王による理不尽な殺戮が行われたときには人間に手を貸していたようである。
 と、そんないい話をしていたとき。
 唐突にムサシはブッ込んだ。

「――ところで、僕と戦わないの?」
「え?」
「レストランの時に全部聞いてたから知っているよ。強くなるためにSランクと戦ってるんだろ?
 そのSランクが目の前にいる。けどレオンさんは万全じゃない。
 となれば、僕と戦うのが自然な流れだろ?」
「あ――」

 そのとき、ユウシは不思議だった。
 自分が、戦うことに対して何も思えなかったことに。
 そしてその理由は自分でも気が付いており、ムサシに暴かれた。

「もしかして、アリスちゃんに心を折られたのかな?」
「………………」
「図星か。情けないね」

 ムサシは興味を無くしたのか失望の眼差しでユウシを見下した。

「魔王討伐のために努力して。けれどそれは使われず。
 何とか目標を見出したのに、5つも歳が下の女の子に心を折られる。
 ……ねぇ、君ってさ――」

 ユウシの耳元で、それは囁かれた。

「――何のために生きてるの?」

 その言葉は、ユウシの心を目覚めさせるのには十分であった。

(なんのために、だと?)

 内側から燃えていくのを感じた。
 自然と怒りがこみ上げ、こめかみに血管が浮かび、剣を握る手に力が入る。

「決まってるだろ――」

 怒りと悔しさが爆発的なエネルギーを生み、それがレベルアップの切っ掛けとなった。
 黄金のオーラが身を包み、その力を再び一段階上昇させる。

「魔王を……ブッ殺すためだよ……ッ!」

 その力強い瞳に、ムサシはニヤリと口角を上げた。

「いーね。そう来なくっちゃ」

 静かに抜刀した憤怒の魔剣サタンは、勇者の怒りに呼応するかのように黒く光を放つのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

異世界での異生活

なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

処理中です...