バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

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最終章・転生勇者編

第166話 それぞれの思い

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 タローとユウシが激闘を繰り広げている真っ最中、少し離れた場所。
 険しい崖路に似つかわしくない紳士服で登るレオンは、ある人物と落ち合った。

「状況はどうなっていますか?」

 レオンが言葉をかけた青年は、タローから視線を動かすことなく淡々と話す。

「どうもこうも……タローくんが圧倒してるよ」

 腰の刀に左肘をつきながら戦いを見守っていた青年――ムサシは面白そうに見ていた。
 レオンも目を向けると、ちょうどタローがユウシを地面にめり込ませた場面であった。
 無様な勇者の姿に「ハハ、ざまぁ」と破顔するムサシ。

「ムサシくん、それでは転生者が可哀想ですよ」
「いいじゃんいいじゃん! ……それに、僕だって少しはキレてんだぜ?」

 途端、ムサシは真顔に戻った。
 ユウシによる魔王タイラントの殺害は、ムサシにとって許しがたい事なのである。
 勝手に絶望して、自暴自棄になって起こした、ユウシの暴挙。
 ムサシは、この出来事を自分の過去に重ねていた。
 転移前、父と殺し合いをしたあの日。
 その原因は、母の死に絶望した父親の自暴自棄による暴挙であった。

「絶望するならすればいい。けれど、それは人を傷つける理由にならないよ」
「……それが人のさがなのでしょうね。辛いから、苦しいから、それを他人に押し付けて逃れようとする」
「押し付けられた方は……少なくとも僕は、いい迷惑でしかなかったですよ」
「ムサシくん……」
「――ま、そんなこと言ってても、戦うのはタローくんですがね」

 重くなった空気を壊すように、少々大きな声で言った。
 大事な仲間を失ったのはタローであり、この戦いは彼のものだ。
 この戦いの結末は他の誰にも決める権利はない。
 レオンもそれを理解しているから「そうですね」と頷いた。
 と、レオンは次にについて尋ねた。

「ところで、結界は大丈夫ですか?」
「あぁ、魔王城でハザードとアルバートが施しているよ」

 ムサシが指さしたタイラントの魔王城。
 目には見えないが、モンスターがタローとユウシの対決を邪魔しない特殊なバイアが張られている。
 これは、タローが以前頼んだことの一つである。
 レオンには、ユウシへの言伝を。
 ムサシには、戦いの邪魔が入らないようにしてくれと依頼していたのだ。
 本当ならムサシがここら一体のモンスターを狩りつくすつもりでいたのだが、そこはハザードとアルバートが一肌脱いだ。
 アルバートの罠魔法にハザードの威圧を乗せ、結界として展開することでモンスターの侵入を防いでいるのである。
 ちなみに、その際ハザードはムサシにこんなことを言っていた。

『効率が悪いってのもあるが……万が一のときに備えて、な』

 ハザードの言葉の真意は、ムサシは理解している。
 万が一、タローが負けた場合。
 そのときは、ムサシがユウシを殺すと決めていた。
 タローには言っていない。きっと望まないだろうから。
 それでも、タローが死ぬよりはずっといい。

(友達を失うくらいなら、嫌われたほうがマシさ)

 そんな思いで、ユウシはこの戦いを見届けている。
 もちろん、レオンも同じ気持ちだ。
 いつでも加勢できるように最大解放も使用可能にしてある。

 が、実際のところ心配はしていない。
 万が一に備えているが、おそらく必要ないのだ。


 ***


 その頃、アリスは珍しく食事に手を付けずに窓の外ばかり見ていた。
 タマコのことは耳に入っており、タローがユウシと戦っていることも知っている。
 アンブレラもそれをわかっているからか、アリスに何も言わなかった。
 アリスはタマコを恋のライバルだと思っているし、蹴落としたいとも思っている。
 それでも、同じ人を好きなった者同士、好感は抱いていた。

「どっちが勝つかしらね」

 アンブレラは独り言のように零した。
 アリスは「……そんなのきまってるよ」と反応する。

「うふふ、そうね」
「……うん、王子ならぜったいに――」


 ***


「転生者くんも気の毒ッスね」
「相手があの男だからね」

 ランとジードはユウシを哀れに思っていた。
 よりにもよって、タローの使い魔を殺したことを。
 自分たちだってユウシのやったことは許せないし、何ならタロー同様戦いたい気分だ。
 負けるのが目に見えているので出来ないが……。

「ま、あの人なら大丈夫っしょ」
「うん、彼なら大丈夫さ」


 ***


「マリアを殺した転生者め……ブチ殺してやりたいところだ!」
「落ち着けってクロス」
「これが落ち着けるくぁッ! おのれクソ転生者めが!」

 怒り狂うクロスをめんどくさそうに宥めるアキラ。
 マリアの訃報を聞いたときから、クロスはずっとこの調子だった。
 アキラもキレそうになったが、クロスがそれ以上に怒り狂ったので逆に冷めてしまった。
 ただ、こんなになっても冷静ではあるようで、ユウシに敵わぬと理解して、無理に攻めには行かなかった。

「ぜぇぜぇ……まぁいい。今回は適した者に任せるとしよう」
「あぁ、アイツなら何とかするだろ」


 ***


 タイタンの病室には、タマコの手を握るエリスとシャルルがいた。

「マリア、タローちゃんはあなたが起きるって信じてるわよ」
「タロー様なら、きっと大丈夫です。だからマリア様――」

 Sランク冒険者も魔王も、みんな一様に同じ気持ちであった。

 タローは負けない。負けるはずがない、と。――

 でも、エリスは一つだけ心配だった。
 病室を出ていくときの、タローの目。
 これまでにないほど、怒りがこもっていたように見えたのだ。
 きっとタローは決意したのだ。
 転生者を殺す、と。
 だが、エリスはそんなことをさせたくなかった。
 タローは、度を超えた怠け者で、何をやるにしてもやる気が無くて。
 それでも、困っている人を放っておけなくて、なんやかんやで助けてしまう。
 それがタローなのだ。それが――タマコの惚れた男なのだ。

「マリア、タローちゃんは復讐に囚われている。超えてはいけない一線を超えようとしているの!
 きっとあたし達の誰の言葉も効かない……あなたにしか、あなたじゃないとタローちゃんは止められない!
 お願いマリア、タローちゃんを人殺しにさせないで!」

 それは切実な願いを込めた叫びであった。

 ――その言葉が、トリガーとなったのかはわからない。
 ――けれど、想いというのは不思議な力を持っていて、それはときに奇跡を起こすのである。
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