バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

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最終章・転生勇者編

第165話 攻撃したのは

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 テニスラケットのように振られた魔剣。
 巻き起こった風圧は、大砲が直撃したと錯覚するほどの威力となり、ユウシの腹部を強烈に叩いた。
 衝撃は腹から瞬く間に全身へと広がり、口内は鉄の味でいっぱいとなる。
 さらに、乱れる呼吸を整えているときに告げられた殺害予告。
 ユウシの背に冷たいものが全速力で走った。

(マズい……勝てる気がしない)

 心の中で大声を上げる弱気ネガティブに思わず屈しそうになる。
 だが、それを悟られせまいと、無理やり笑みで隠して立ち上がった。

「殺されてたまるか……逆に、おれがお前を殺してやるよ!」

 タローに指を指し、負けじと息まく。
 しかしこのとき、ユウシの頭の中では何かが引っかかっていた。
 何というか、初めてあった気がしないような――。

(なんだ、この違和感は……おれは、コイツと戦ったことがあるのか?)

 デジャブのような現象に頭を悩ませる。
 何も思い出せないままでいると、ユウシは諦めて戦いに集中することにした。
 先ほどの一撃を受けてわかったことがある。

 ――正攻法では勝てない。

 真正面から挑んでも、謎の超パワーですべて破壊されてしまう。
 このまま戦っても勝機は生まれないだろう。
 と、いうわけで。ここは他人の力を借りることにした。

(魔王から借りるのは癪だがな)

 ユウシは一つため息をつくと、魔法を発動させた。
 周囲に激しい雷が巻き起こり、電撃を身体に帯びていく。

 ――人間の強みは、学習すること。そして、学んだことを応用できることである。

全能の雷霆ゼウス・ディザスター!」

 その状態は、魔王ジードの技――青龍之雷せいりゅうのいかづちまといに酷似していた。
 ユウシはそこへ、剣にも雷を纏わせる。

「――いくぞ」

 小さな宣言の後、身を低くかがめ前傾姿勢に入る。
 対するタローも、危険を感じたのか魔剣を両手で構えた。
 ――瞬間、稲妻が横切る。

「――ッ!」

 遅れてやってきた一陣の風が、タローの髪を揺らす。
 タローが振り向くと、そこには剣を振り終わったユウシの姿があった。
 さらに遅れること数秒、今度は頬に熱さを感じた。

「………………?」

 触れてみると、指には血が付着していた。
 よく見ればユウシの剣先にも薄く血が付いている。
 眉をひそめるタロー。
 振り向いたユウシの表情には微笑が浮かんでいた。

「なんとなく、お前のことが理解できたぞ」

 その言葉は嘘ではなかった。
 ユウシのスピードはタローを遥かに凌駕している。なのにタローは簡単に見切っていた。
 それはタローの動体視力が神レベルのものというのもあるのだが、それ以上に大きく働いている作用がある。
 タローは野生の勘が鋭く、わずかな殺気や敵意に反応しているのだ。
 初撃は直接攻撃をしようとしたが、タローは自分への殺気を本能的に感じ取り、ユウシが詰める前に攻撃を撃った。
 人間離れした感覚には舌を巻く。が、逆に言えば本人に感じ取れないということ。
 その証拠に、ユウシの二撃目はタローに直接あてるものではなく、意識を別に向けていた。
 掠る程度の威力しか出なかったが、タローは躱せなかった。
 意識を別に向けて戦うのは難しい。
 けれど、勇者としての天才性は、すでにコツを掴んでいた。
 次は、命に届く――。

「次で仕舞いだ」
「……あっそ」

 ユウシの勝利宣言に、タローは気にせず魔剣を構える。
 その態度が気に入らず声を荒げた。

「強がるのもいい加減にしろ!」

 もう一度、ユウシは同じく猛スピードで突貫する。

 ――だが、ユウシは一つだけミスをしていた。
 殺気や敵意に反応しているのは当たっていたのだが、問題はその前。
 タローの異常なまでの動体視力は、一度見ただけで目が慣れてしまう。
 つまり――同じスピードは二度と通じないのである。

「――へぶんずッッ!!?」

 刹那、脳天に凄まじい衝撃が襲い掛かった。
 その正体を、レベルが上がったことで強化された動体視力は捉えていた。
 黒い紐状の物体。それはタローの手元と繋がっている。
 よく見れば得物の魔剣がない。

(武器を変えた――いや、形状が変わったのか)

 思い返せば最初はぬいぐるみの格好だった。
 いや、それはどうでもいい。
 大事なのは、この頭部の衝撃が初めてではないことだ。
 そう……初めてではないのだ。

(そうか、あの時の――)

 点と点が繋がっていく。
 頭部の痛み、何より全細胞の一つ一つが覚えていた。

(あの一撃は――)

 てっきり魔王タイラント=マリア=コバルトに受けたとばかり思っていた、あの一撃の正体は――。

(アレ、お前だったんかい!)

 地面に上半身をめり込ませながら、ユウシは自らの勘違いに気付いたのである。
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