バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

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最終章・転生勇者編

第171話 娘と父

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(――……ここは)

 目を開けた先に待っていたのは、真っ暗な道だった。
 どこまでも続く闇の向こうには、小さな光があるのが見える。
 なぜ自分がここにいるのかと思ったが、それはすぐに理解できた。

(そうか……私は――)

 思い起こされるのは、勇者に斬られた記憶。
 痛みも感触も思い出すと、思わず斬られた箇所を手で触った。
 けれど血は出ておらず、傷痕すらどこにもない状態。
 そのとき、(あぁそうか)と納得がいった。

 自分は死んだのだ、と――。

 となれば、あの光の向こうに何があるのかも想像がつく。
 死者が辿り着く先は2か所。
 天国か地獄かのどちらかしかないのだから。

 別に後悔はない。
 一人の子供の命を守ったのだから、英雄的行動と言えよう。
 だから、後悔はない。
 ……でも、一つだけ――心残りがあった。

(どうせ死ぬんだったら……気持ちくらい伝えておくべきだったのぅ……)

 自嘲するように笑みを零した。
 全ては自分が日和ひよっていたせいであり、誰を責めれられるというわけでもない。
 関係を壊したくないというのもあったし、あれはあれで正解だったと思うことにしていたが……。
 いざ死んでみると、正解だったのかに疑問を抱いた。
 しかし、それは後の祭り。
 死んだのなら、もう考えても意味がない。

「……行くか」

 コツ……コツ……。ゆっくりと、一歩を踏み出していく。
 願わくば、もう一度タローの顔が見たかった。
 もしかしたらギリギリで蘇生するのでは、という淡い期待があり、ゆっくりと歩いているが、どうやら奇跡はなさそうである。
 光が、もう近い。

「タロー……――」

 悲しそうな、泣きそうな表情のまま、タマコは光の中へ進もうと一歩を踏み出す――。
 と、そのときだ。

「――ッ!?」

 直後、前方を塞ぐように壁が出現した。
 そしてその壁には見覚えがあった。
 一度は恨み、拒んだ力――父の、青い炎だった。
 戸惑うタマコに、炎は徐々に形を帯びていくと、一人の男性へと姿を変えた。
 青い髪に、コバルトブルーの瞳。高身長の体躯を青いタキシードに包んだ、端正な顔立ちの男は口を開く。

「――まだ、諦めなくてもいいよ……マリア」

 タマコは、目の前の男と面識はない。
 だが、その男の正体がわかった。

「……父、さま?」

 タマコの問いかけに、男は頷いた。
 目の前にいるのは、紛れもないタマコの父――フレイである。

「ずっと、見守っていたんだ。
 ――マリアの中で、ずっとね」
「わ、私の中?」

 戸惑うタマコに、フレイは簡素に教えた。

 そもそも、フェニックスという種族はこの世に一体しか存在しない。
 稀少と言われる所以はそのせいだ。
 では、子供はどうなるのかと言うと、実は子供にはフェニックスの力は宿らない。
 青い炎は、なのだ。
 フェニックスは不死鳥とも言われるほど生命力が強いモンスターであるが、死なないわけではない。
 精神を蝕む呪いであったり、自ら心臓を抜き取るなどすれば、普通の生物同様に死ぬことがある。
 フェニックスはそうやって何らかの死が発生すると、魂だけで世界を漂い、次の世代へと力を継承するのである。
 そして、継承に必要な条件は『遺伝子』。つまり血縁関係である。

「わたしが死んだ直後、魂はマリアへと受け継がれた。
 そして、先代フェニックスは受け継いだ子を見守り、また次の世代に継がれるまで子供を守るのだよ。
 だからわたしは、マリアの中でずっと見守り、時には助けた」

 フレイの助けた、という言葉にタマコは覚えがあった。
 魔剣争奪戦でのアンブレラ戦において、まるでタマコを助けるように発動したフェニックスの炎。
 あのとき自分に発動する意思は無かった。
 父の話が本当なら、タマコを守ったのはフレイの意思ということになる。

(そうか……母は、嘘をついていなかったんだな)

 アンブレラのブレスが迫る中で、思い起こされたあの言葉。

 "あなたが困ったとき、きっとお父さんはあなたを助けてくれる――"

 確かに、父はタマコを助けていたのである。

「そうか……そう、か……」

 タマコは父が守っていたことを理解すると、大粒の涙を流した。
 父は、自分たちを見捨てていなかったのだ。
 恨んだ父は、優しい父親だった。
 その事実が何よりもうれしかったのである。
 泣いているタマコを、フレイは優しく抱き寄せた。

「ごめんよマリア。ずっと、辛い思いをさせたね」
「私も、ごめん。ずっと恨んでて……ごめん……ッ」

 フレイは嗚咽が収まるまで、ずっとマリアを抱きしめた。
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