バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

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最終章・転生勇者編

第172話 大好きなあなたへ

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 フェニックスは死ぬと、能力が継承されるのと同時に、いしきが自分の子へ宿る。
 継承後は、子の守護霊的存在として見守り、時には手助けを担う
 そして、子が次の子へと継承するのを見届けると、魂は成仏し天へと逝くのである。
 長命種のため世代交代が起きることは少ないが、フェニックスの魂はこうして循環を繰り返し、長きに渡り種を守ってきたのだ。


 ***


 父との和解後、タマコは憑き物が晴れたようにスッキリとした顔をしていた。
 せっかく会えたのだから、団欒を楽しみたいところであるが、タマコはどうしても気になることを訊いた。

「父さま、さっき言ってた『諦めなくてもいい』とは……?」
「そのままの意味だよ。マリア、君はまだ死ななくてもいんだ」
「ッ……生き返れる……のか?」

 タマコの問いにフレイは頷く。
 フレイは手に青い炎を灯すと、それをタマコへと向けた。

「君の命のともしびはすでに消えている。
 だが、フェニックスの炎は精神に作用する特殊な能力がある。
 これなら、もう一度命に火を灯すことができるだろう……ただし――」

 フレイは一瞬だけ目を瞑ると、意を決するようにタマコへ告げた。

「フェニックスの力は――君の中から消える」
「ッ!」

 フレイの言葉に、タマコは絶句した。
 なぜならそれは、他ならぬ父との別れを意味しているのだから。
 タマコは受け入れられず、何度も首を横に振った。

「ダメじゃ! ずっと……ずっと見守っていて欲しいのに!
 ……やっと、こうして仲良く話せて、いるのに――」

 涙を流しながら訴える。
 子供が親へ我儘を言うのは、おかしなことではなく、むしろ当然だ。
 だが、幼少の頃より母に気を使わせまいと我儘一つ言ってこなかったタマコの思いは爆発。
 家族と一緒にいたい、その思いが溢れたのだ。
 本来ならフレイも、娘と一緒にいたかった。
 けど――フレイは柔和な笑みを浮かべ、タマコの意思に反した。

「マリア、わたしは既に死んだ存在だ。本来なら、こうして会うことも無い。
 君は、君の人生を歩んでいいんだ」

 タマコの頬を優しくなで、親指で涙を拭う。

「もうマリアの近くで守ってあげることはできない。
 けど、少し距離が遠くなるだけさ。
 これからもずっと、マリアを空の上から見守るよ。」
「父さま……」
「さぁ、もう時間もない。元の世界へ帰るんだ」

 フレイが手を翳すと、タマコの体が青い炎に覆われた。
 熱さは無い。
 感じたのは――優しい温かさだ。
 徐々に体が透明になり、現実世界へと引き戻されていく。
 と、フレイはタマコが消える前に言葉を残した。

「マリア、君はもうフェニックスの力を使えなくなる。フェニックスという種は、これで途絶えることになるだろう。
 ――でも、わたしは後悔していない。
 我が子の命が助かるのなら、種が滅ぶことなど些細な事だ。
 生命いのちあるものに、必ずおわりは訪れる。それは不死鳥《フェニックス》であれ、同じことさ」

 最期の父の言葉に、タマコは涙が止まらなかった。
 だから最後に、タマコもフレイに別れの言葉を告げる。

「父さま! 私……父さまの子で良かった! 母さまの子供で良かった!
 私を生んでくれてありがとう!
 私を守ってくれてありがとう!
 私は……父さまと母さまのこと、ずっとずっとずっと――大好きだから!」

 タマコは大粒の涙を流していた。けれど、とても笑っていた。
 その言葉は最後の言葉となり、フレイの前からタマコは消えた。
 いや、戻ったと言ったほうが正しいか。

「大好き、か……本当に、いい娘を持ったものだ……」

 フレイの目じりから、雫が一滴伝った。
 ずっと、父として何もしてやれなかった日々。
 せめてもの償いとして、娘の命を守ろうと誓った。
 一生恨まれても仕方がないと思っていた。
 でも、それでも……あの子は『大好きだ』と言ったのだ。
 親として、これほど嬉しいことはない。

「さて、わたしもそろそろ逝くとするか」

 もう、傍で守ることはできない。
 けれど、何も心配はしていなかった。

「これからは、マリアを君に託すよ――タローくん」

 静かに呟くと、フレイは後ろを振り向く。
 娘と離れて寂しいと思う反面、愛した女性と一緒にいられることは嬉しかった。

「マリアを一緒に見守っていこう――アンナ」

 光の先にいる妻の元へ、フレイは歩き出すのだった。


 ***


 魂の火が灯るのを感じる。
 寒さ凍てつく世界に、暖かさが生まれた。
 硬直していた肉体が、もう一度躍動していく。
 あとは肉体へ、精神こころが帰るのみだ。
 と、そのとき――タマコの耳に声が響いた。

 "――助けてくれよ……タマコ……"

(ッ……タロー!)

 声の主をすぐに理解できた。
 愛する男性ひとの声を間違えるはずがない。
 しかも、それは助けを求める叫びだ。

(待っていてくれ――すぐに向かう!)

 その叫びが、意識を急速に覚醒させていく。
 血は熱く滾り、魂が燃える。

 そして、心臓は大きく鼓動を高ならせるのだった。


 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・


 タマコの手を握っていたエリスとシャルル。
 彼女らは、タマコの大きな変化に驚いていた。

「マリア!」
「マリア様!」

 手に温かさが戻っていく。
 脈が徐々に徐々に速くなると、タマコの鼓動が耳に届いた。
 するとタマコが突然、ガバッ! と起き上がった。

「「うわッ!」」

 驚愕で思わず声が出ると、二人とも呆然としたまま動かなくなる。
 タマコはゆっくりと瞼を開くと、コバルトブルーの瞳はエリスとシャルル――ではなく、別の方向を向いていた。

「――あっちか」

 タマコは小さく呟くと、病室の壁を破壊して、向いていた方向へと猛スピードで飛んでいった。

 タローのいる、タイラントの魔王城へと――。
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