バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

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最終章・転生勇者編

第175話 必殺技Part3

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「こ、これは……?」
「いったいどうなってるんだ……」

 セイバー、マーティ、マホ、キララが意識を取り戻すと、まず目に入ったのは激しい戦闘シーンであった。
 ユウシとタローが戦っているのは気絶前と同じ。しかし、その顔つきと内容はまるで別人だった。
 怒りの相貌を浮かべていたタローは、現在死んだような目で魔剣を振るっている。
 そして、先ほど防戦一方だったユウシは、彼女らも見たことがない白金プラチナのオーラを纏っており、タローと互角に渡り合っていた。
 あまりの変貌ぶりに驚愕を超えて唖然としていると、背後に降り立つ者が一人。

「ここにいたら巻き込まれる、さっさと遠くへ避難するぞ」

 4人を見おろすように覗き込んだ者の正体は、タマコであった。
 死んだと思っていた魔王が眼前に現れたことでハッとして我に返る4人。
 マホは「い、生きていたのか!?」と思わず口を開いた。
 タマコは「まぁ色々あってな……」と言葉を濁す。
 固まる女性たちを前に、タマコはパンッ! と一つ手を鳴らした。

「ボーっとしている暇があるなら動け! ここにいれば死ぬぞ!」
「「「「は、はい!」」」」

 命令口調で大声を上げたタマコに、思わず従ってしまった。
 4人はユウシを心配しつつも、巻き込まれぬよう場所を離れる。
 彼女たちが離れたのを確認すると、タマコはタローへ無音警告サイレント・サイレンを発動。
 脳内に声を送った。

<タロー、死なない程度にブッ殺すのじゃぞ>

 その声が届いた時、タローは口元には薄っすらと笑みを浮かべた。
 そして、「了解」とでもいうように。タマコへと拳を突き出すのだった。


 ***


 ヒーローは暴走フォームになると強くなる。
 そんでもって、制御したときよりも暴走していたときのほうが強かったように見える。
 だからタローも怒りで暴走しているときの方が強くて、怒りが収まった今は弱体化したんじゃないだろうかと、ユウシはそんな淡い期待を寄せていた。
 もちろん期待だったので、淡く儚くその願いは潰えることとなったのだが。

「クッソ、強すぎるんだよお前!」

 大声で愚痴を零すユウシは、刃に風を纏わせ強力な斬撃を放った。

「そりゃ悪かった、な!」

 タローは怠惰の魔剣ベルフェゴールを棍棒から団扇へ形状変化させると、風の斬撃に扇ぎだした。
「まさか……」というユウシの予感は的中。
 暴風の斬撃は、タローの団扇で押し返され霧散した。
 勇者の剣で強化された一撃を団扇の羽ばたきで消されるという屈辱に、ユウシは激しく動揺する。

(マジで……マジでヤバい! こんなのどうやって勝てばいいんだ!?)

 炎は魔力でかき消され、氷漬けにしても脱出された。
 岩で押しつぶそうとも馬鹿力で破壊され、風で斬撃を放っても無力化される。
 電撃で身体能力を強化しても見切られ、追いつかれた。
 全属性魔法を扱えると言っても、ユウシの魔法のバリエーションはそこまで多くなく、その中でもタローに通用するものとなると更に限定される。
 打つ手を考えれば考えるほど、打つ手が無くなっていくという絶望的状況が、ユウシを精神的に追い詰めていった。
 けれど、ユウシは絶望しなかった。

(まだだ、まだ諦めないぞ!)

 最大解放に必要なのはスキルの熟練度と強力な身体能力。
 そして、精神の成長。
 ユウシは仲間のために諦めず、死に抗ったことで最大解放に至ったのである。
 自暴自棄となっていたときとは比べ物にならぬほど精神は成長しているのだ。
 この程度で絶望するほど弱くはない。

(――ッ!? ついに来たか!)

 互いに攻撃の手を緩めず、激化していく戦況の中、ユウシを襲ったのは一瞬の脱力感だった。
 今まで味わったことのない感覚であったが、本能が察した。

 ――最大解放の、限界タイムアップが近い……ッ!

 直感で、残り1分にも満たない間に確実に来る時間制限を感じた瞬間、思考するより早く体が実行した。
 タローを力の限り押し、自分も後ろへと高速で後退し距離をとる。
 そして、全身に纏っていた白金プラチナのオーラと、全ての魔力を"勇者の剣"へと集めた。
 白金プラチナのオーラにより、一層輝きを増した剣は、耐久力が上昇。
 全魔力が纏われても許容量をオーバーすることなく、威力を高めていった。
 さらに、"勇者の盾"で溢れた魔力を吸収し、それを放出し剣へと還元。繰り返すことで余すことなく、全ての魔力とオーラを剣へと集約させた。

「タロー……これが、おれの最強で、最後の攻撃だ……ッ!」

 ユウシが剣を天に向けると、天候は荒れ狂い、地面は怯えるように震え始める。
 直撃すれば、どんな生物も消滅する可能性を秘めた、まさに必殺に相応しいと言える技だ。
 吹き荒れる雨風の中、タローは怠惰の魔剣ベルフェゴールの形状を変化させた。
 その形は――拡声器だった。
 タローは口に当てると、遠くにいるタマコへ向けて口を開いた。

 《タマコー! 新しい必殺技を考えてきたから、見ててくれッ!》

 大声でそれだけ言うと、タローはユウシへと向き直る。
 タマコは色んな意味でギョッとしていたが、今回ばかりはタローを信じた。

「――さぁ、いくぞプー」
「(`・ω・´)」
(訳:今度こそOK貰いましょうね!)
「あぁ――そうだな!」

 タローのイメージに沿って、プーは形状を変化させる。
 その形状になったとき、タローは懐かしさが込み上げてきた。

「見せてやるよ勇者。
 ――これが俺の、積み上げてきた成果だッ!」

 タローが手に持っていたのは――"斧"だった。
 めんどくさくて何もしていなかった自分が、唯一続けていた薪割り。
 棍棒よりも扱いなれた手つきで、タローは斧となった怠惰の魔剣ベルフェゴールを振り上げた。
 魔力を纏わせると、斧刃が漆黒に染まっていく。
 オーラが荒々しく迸るユウシの剣とは違い、タローの斧は静かに魔力をとどめている。

「タロー、お前の技――真正面から打ち破ってやる!」
「いつでも来いよ――勇者ッ!」

 両者、一瞬の睨み合いの末、互いの必殺は放たれた。

天聖の勇者アポカリプス・ブレイバー!」

 ユウシが剣を振るうと、特大の魔力とオーラが穿たれた。
 炎、氷、水、風、地、雷、光、闇、etc……全ての属性の魔力と白金プラチナのオーラ。
 勇者のすべてを乗せた、最高の一撃。

 対するタローは、身体にしみ込んだ動きで、斧を振り下ろす。
 薪を割るように振られたその一撃の名は――

「――怠惰の暴君タイラント・スロウス

 振られた瞬間――支配したのは静寂だった。
 ほんの一瞬の間であったが、確かにそこには静寂があったのだ。

 そして思い出したかのように、世界は再び動き出した。
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