降る雪は沈む蒼の心を優しく包む〜冴えない根暗な陰キャぼっちの成り上がりリア充化プロジェクト〜

朔月カイト

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第一章 蒼と雪の出会い

1.欺瞞に満ちた紛い物

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 花弁を失ってぽつぽつと寂しげに左右に立ち並ぶ葉桜が、泣き出してしまう程に青々しく瑞々しい新芽を、嘆くようにさわさわと吹く風に揺らしている。

 四月末から五月の初めにかけてのGW期間の、その前半が終わって中日となった。

 道行く生徒達は、「だるい」だの「しんどい」だのと、聞いているこっちの気が滅入りそうな言葉を吐きながら、憂鬱そうに重い足を前へと進めている。

 本質的には相容れない彼らの中に混じり、桜並木の間を抜けて、通っている私立青黎せいれい高校へと向かった。

 暫くして、出来れば遠慮したい目的地である学校の校舎が、そのいとわしい姿を覗かせた。

 青黎高校の校舎は三階建てで、今年で創立十周年記念と、まだ歴史の浅い学校ではあるが、その分校舎は未だに新しさをそこかしこに残している。
 普段の授業が行われる教室棟と、特定の授業や活動が行われる特別棟とが、二階の渡り廊下で繋がり、それらで囲まれた中に、休み時間に生徒らが思い思いに過ごす緑豊かな中庭がある。
 生徒数は、各学年百六十人程で中規模。
 偏差値は、平均よりやや上と、一応ここら辺の地域では進学校として名が通っている。

 この春に二年生となった俺は、A~E組まである中のB組だ。

 校門を潜り、昇降口でスニーカーから上履きに履き替えて階段を上り、二階にあるB組のドアを開けた。

 すると、いつもなら挨拶するどころか視線も合わせずにスルーされる俺に、そのぱっちりとした丸い瞳を輝かせながら向けてくる女子がいた。

「あーっ、緋本君だ! おはよーっ!」

 教室の後ろで屯していた彼女が、大きな声で挨拶しながら、俺の元に、その栗色のロングヘアを揺らしながら駆け寄ってくる。

「昨日は助けてくれてありがとね!」

 この元気が溢れ返っている天真爛漫な女子の名前は、白鳥姫歌しらとりひめか
 うちのクラスだけでなく、学校のアイドルみたいな存在であり、そうなるのも頷ける愛嬌のある可愛らしい顔と、ボリュームがありつつも引き締まった身体つきをしている。
 自分の容姿をひけらかす事なく明るく振る舞うため、カーストの上下に関わらず、皆から好かれている印象だ。
 昨日チャラ男達に絡まれていた時はおどおどと萎縮していたが、これが本来の彼女の姿である事は、普段の言動からも知っている。

「おい、なんであの陰キャぼっちが白鳥さんに声掛けられてるんだ?」
「分からんけど、なんか親しげだな」
「助けられたみたいな事言ってたぞ。ラノベ主人公かよ、生意気な。俺達のアイドルを奪うな」
「処す?」

 周りのクラスメイトの男子達が、好き勝手に言い合う。
 全部聞こえてるからな。
 それと最後のやつ物騒すぎるだろ。
 君に俺を裁く権利はない。

「ねぇ、皆に紹介したいから、こっちにきて」

 ぶすっと顔を顰めて挨拶も返さないでいると、その白鳥に不躾に腕を握られた。

「ほら、いこっ!」

 余りの突飛な行動に絶句する俺は、半ば唖然としながら、強引な白鳥に引き摺られるようにして、教室の後ろでこちらに視線を向けているグループの元へと連れていかれた。

「皆紹介するね! 彼が昨日私をナンパから助けてくれた緋本君だよ!」

 そう言う白鳥を含めたここに集う七名が、このクラスでカースト上位に位置する一軍グループと呼ばれているやつらだ。

「あはは。姫、クラスメイトなんだから、わざわざ紹介しなくても、名前くらい知ってるよ」

 そう快活に笑うのは、このグループのリーダー的存在である来栖理人くるすりひと
 やや長めでセンタパートにしたミディアムヘア。
 爽やかな容姿と言動で、サッカー部のレギュラーとスポーツマンでもあり、女子からの人気がすこぶる高い。
 俺からすれば、ただのいけ好かないやつでしかないが。
 やっかみというわけじゃなく、ただ単に合わないというだけだ。

「緋本だっけ? ナンパから女の子を助けるなんて、まるで漫画の主人公みたいだな! よろしくやろうぜ!」

 そう暑苦しく話しかけてくるのが、朝倉大翔あさくらひろと
 ツンツンとしたベリーショートで、バスケ部に入っていて、身長が百八十センチ以上あり体格がいい。
 陽キャ代表みたいに騒がしいので、こいつも苦手だ。
 出来れば一生近づきたくはない手合いだな。

「姫、あんた考えなしに行動するのは止めなさいっていつも言っているでしょう」

 そう窘めるのは、白鳥のお目付け役、七海涼葉ななみすずは
 肩の辺りで切り揃えたミディアムボブで、物事をはっきり言い芯が強くブレない性格で、クラスの女子達からは、クールな姉貴分として慕われている。
 定期考査では不動の一位。
 見た目もいいから所謂いわゆる才色兼備ってやつだな。
 こいつの事はこれくらいでいいだろう。
 あまり好んで語りたくはない。

「何せ姫だから、しかたないね」

 そう達観したように穏やかな口調で言うのが、鳴宮湊なるみやみなと
 髪型は、涼やかにサイドを刈り上げたマッシュショート。
 けれどこいつは、見た目は好青年風だが、その腹の中は真っ黒で、かなりの曲者であると俺の直感が教えている。

「暴漢達に一人で立ち向かうなんて凄いよね。中々出来る事じゃないよ。ラブコメの主人公みたい」

 そう手放しに褒めるのは、橘萌莉たちばなもえり
 ショートカット気味の癖っ毛で、陸上部に所属している。
 小柄で人懐っこい小動物みたいな女子だ。
 来栖に好意を寄せている事は誰が見ても明らかなのだが、中々告白する勇気が出せずにいるらしい。
 まぁ、俺にはどうでもいいことだが。

「ねぇ、怜愛れいあも凄いって思うでしょ?」

 白鳥が、それまで傍の自席に座り、無言でスマホの画面に視線を落としていた、このグループの最後の一人に水を向けた。

「⋯⋯ん? 何か言った?」

 その雪代怜愛ゆきしろれいあが、徐ろに顔を上げて、興味なさげに聞き返す。
 黒髪ロングの姫カットで、白いニーハイソックスがトレードマークの女子。
 いつも休み時間中は、スマホを眺めていて、このグループの傍にはいるものの、その会話に自分からは一切加わろうとしない。
 その周囲に媚びない孤高を貫くスタイルにより、生徒達からは、『雪氷の美姫せっぴょうのびき』なんて呼ばれたりもしているとか。

 実益を兼ねた人間観察は得意な方だという自負があるが、正直彼女の事だけはよくわからない。
 皆はクールで格好いいだなんて言って持て囃しているが、本当にそうなのか、それともただ他人への関心が薄いだけなのか⋯⋯。

 どちらにせよミステリアスで、カースト上位と最底辺という違いはあれど、性質としては、しんしんと降る雪のように密やかであり、陰な俺寄りの存在だと言えるだろう。

「もう。怜愛はいつもそうなんだから」

 素気なく返された白鳥が、頬を膨らませて不満を示す。

「ほっとけよ。興味ないんだろ」

 朝倉がさらりと受け流す。

「ホント、マイペースだよね、怜愛は。そこが魅力でもあるんだけど」

 透かした顔で分かってる感を出す鳴宮が続けると、橘が脱線しかけた会話を軌道修正した。

「それより緋本君だよ。いつも自分の席で本を読んでるから内気な性格だと思っていたけど、度胸がある一面も持っていたんだね。意外だったよ。ギャップがあるキャラって惹かれる」

「姫もよかったな。弟君も乱暴されそうになって、既の所で阻止してもらったんだろ?」

 来栖が慮るようにして言い、白鳥がにこにことしながら頷く。

「うん。私震えて何も出来なかったんだ。だから緋本君にはホント感謝しかないよ」
「でも知り合いが困ってるなら助けに入るのって人として当然の行為じゃない? それをそこまで持ち上げるのはどうかと思うわよ。褒められるためにそうしたわけじゃないだろうし。それに姫に近づきたいっていう下心があったのかもしれないしね」

 さっきから不機嫌そうな顔をしている七海が、苛立たしげに早口で言い放った。

「涼、どうしたの? そんな言い方いつもの涼らしくないよ」

 白鳥が怪訝に眉を顰める。

「その気があるなら、助けた後にすぐに別れるような真似はしないだろ? 緋本は純粋な善意で行動したんだと俺は思うよ」

 来栖が自分の主張を述べて七海の意見を否定した。

「そうだよ涼。穿った見方で彼の事を貶めるのはよくない」

 鳴宮が賛同し、七海に苦言を呈する。

「そうだぜ。素直に認めてやれよ。ところで、その緋本だけど、これから俺達のグループに加わるって事でいいんだよな? それなら先ずはその鬱陶しい前髪をどうにかしろよ。目が隠れてると印象が暗くなるぞ」

 言いながら、俺の長い前髪へと手を伸ばす。

「やめてくれ」

 俺はその手を払いのけると、グループへの誘いを無下に突っぱねた。

「へらへらと愛想笑いでやりすごそうとする上辺だけの付き合いなんて、ただの欺瞞ぎまんに満ちた紛い物だ。君達がそれに縋るのは自由だが、俺には必要ない」

 冷たく突き放す言葉を向けられ、白鳥がその顔を俯かせながら、スカートの裾をぎゅっと耐えるように握り締める。

「おい、何だよそれ。俺達とは付き合いたくないにしても、そこまで言う事ないだろ」

 カチンと来たようにして俺に詰め寄ろうとする朝倉。

 それを鳴宮がやんわりと身振りと言葉で制した。

「まぁまぁ。落ち着いて大翔。彼と僕達は水と油って事だよ。相容れないんだから、これまで通り距離を置いていた方がお互いの為さ」
「そういう事だ。今後俺には関わろうとしないでくれ」

 そう念押しして、くるりと踵を返す。

「あ⋯⋯」

 白鳥はまだ何か言いたそうだったが、俺はそれを無視して自席に戻った。

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