降る雪は沈む蒼の心を優しく包む〜冴えない根暗な陰キャぼっちの成り上がりリア充化プロジェクト〜

朔月カイト

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第二章 プロジェクト始動

10.中間考査と結果発表

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 テスト週間中、例の悶絶ものの演技で布石を打った以外、毎日放課後には、雪代と視聴覚室での勉強会を行った。

 彼女の教え方は理解がしやすく、かなり身になったと思える充実感を得られた時間だった。

 それと、たまに会長の樫井さんが様子を伺いにきて、休憩がてら、主に俺のWeb上での投稿作についての会話を交わし結構仲良くなれた。
 雪代に続く俺の友達──あくまで候補ではあるが、得難い貴重な存在だ。
 関わりの浅い他人と接するのは苦手だが、彼女の人柄の良さが、俺の心の壁を少しばかり薄くしてくれたのかもしれない。

 部活組の男子達は違う。
 彼らとは利害の一致で一時的に繋がっただけだ。
 今回の中間考査での結果如何いかんでは、その関係性にも変化があるかもしれないが⋯⋯。


 そしていよいよ中間考査の日がやってきた。

 テストは、月、火、水、木曜日の全四日間で行われ、一日目の今日は、数学Ⅱから始まる。

 テスト開始が迫った朝の教室は、ざわざわと騒がしい。

「この問題解ける? 参考書見てもよく分かんなくて」
「英単語帳から出題してくれない? 確認しておきたいんだ」

 などと最後の追い込みに入る者達や、

「やべぇ、まったくテス勉してないわー」
「だりぃわー。早く帰ってゲームしてー」
「半日で終わるし、帰りに新作コスメ見にいかない?」

 などと中には既に諦めムードの者達も少なくない。


 そうこうしている内に、テスト監督をする担任の美作先生が教室に入ってきた。

「では机の上の教科書やノート、参考書類は鞄の中に仕舞うように。後、携帯の電源はちゃんと切っておけよ」

 教壇に立った美作先生からそう注意を受けた後、前の席からテスト用紙の配布が行われた。

 腕時計を確認する美作先生。

 緊張感の漂う中、

 ──キーンコーンカーンコーン。

 ウエストミンスターの鐘を元にする開始のチャイム音が鳴った。

「では、始め!」

 美作先生の号令とともに、テスト用紙を表にして問題に取り組み、手にしたシャープペンシルを走らせる。

 一問目から、雪代の作った対策プリントに載っていたのと酷似した内容だ。
 他の問題も、ほとんどが似通ったものばかり。
 おかげで詰まる事なくスラスラ解けていく。
 これなら高得点が狙えそうだ。

 対策プリントを渡しておいたあいつらも、ちゃんとそれを使って勉強していれば、赤点は容易に回避出来るに違いない。
 恐るべきは、それを作った雪代だ。
 天はどれだけ彼女に才を与えれば気が済むのか。

 否、才能だけじゃないな。
 彼女は人知れず、血の滲むような努力を重ねているのだろう。
 でなければ、これだけの偉業と呼んでもいい成果は上げられないはずだから。


「残り五分だ。解答欄のズレや名前の書き忘れがないか確認しておけよ」

 美作先生からの声掛けがあり、それらのミスがないかチェックして、問題を最初から見直していると、再びチャイム音が鳴り、

「そこまで。筆記用具を置くように」

 美作先生が終わりの指示を出した。

 クラス中のあちこちで溜息が落ちる。

「では一番後ろの席の者がテスト用紙を回収してくれ」

 その指示に従って回収されたテスト用紙を美作先生が確認した。

「よし。では数学Ⅱのテストはこれで終了になる。次のテストも頑張るように」

 こうして最初のテストが終わった。


 この後、対策プリントを渡したあいつらには、お前を信じてよかったとめちゃくちゃ感謝された。

 ──この調子で最後までいければ、目標をクリアするのも難しくはないかもな。

 そんな明るい兆しが見え始めていた。


   §

 
 特に問題なく全四日間に及ぶ中間考査を終え、その翌日となり、結果発表の日になった。

「いよいよだね。心の準備は出来てる?」

 朝一緒に登校してきた雪代は、いつになく真面目な表情を見せている。

 順位表は朝の早い内に廊下の掲示板に張り出されるため、気の早い生徒はもう見に集まっている事だろう。

「大げさだな。十位以内に入れなかったからって死ぬ訳でもないってのに」

 そこまで深刻に捉えていない俺は、素っ気なく返した。

 他のクラスメイトは、そんな俺達には特に触れようとはしない。
 自分達のグループでの会話を楽しんでいたり、スマホを弄っていたりしている。

 最近はこの二人で一緒にいる事が多いので、クラスメイト達も次第に俺達の関係を噂するのを忘れ、スルーするようになってきた。
 彼らには、それよりも楽しい事がたくさんある。
 ファッション、バラエティ、テレビドラマ、映画に、ラノベや漫画、アニメなんかのサブカル、エトセトラ。
 親しくもない男女の関係を邪推する事なんかにリソースを割いてかかずらうよりは、そちらにかまけていた方がよっぽど生産的だろう。

「モチベーションが低いなぁ。何事にも高い意識で臨まないと、これから先に待ち受けている数々のミッションを達成出来ないよ」

 苦言を呈するように鹿爪らしく指摘する。

 こっちは半ば強引にプロジェクトとやらに引き摺り込まれた側だから、文句を言われる筋合いはないと思うんだけどな⋯⋯。
 主体性のない自分が恨めしい。

「さあ、いこう!」

 今にも大海原に乗り出す船長のように威勢よく掛け声を上げる雪代に引き連れられて、教室を出た。

 既に集まっていた生徒達に混じり、掲示板を見る。
 一番上の一位から順に視線を下げていくと、紙の下端近くに俺の名前が記されていた。

「君、やっぱり持ってるね。私は一瞬駄目かと思ったけど、最後にひっくり返すなんて」
「ギリギリの十位じゃあちょっと締まらないけどな」

 二人で順位表を眺めながら感想を言い合う。
 口ではそう言ったが、内心ほっとしていた。
 雪代にあれだけのサポートをしてもらっていて、結果が目標を達成出来ませんでしたじゃあ申し訳が立たないもんな。

「でもミッション的には及第点だったかもしれないけど、前回が二十三位だったなら、成績的には大躍進と言えるからね。ここは素直に喜んでおこうよ」
「だな。こうして自分の努力が結果になって返ってくるのは気分がいい」

 小説を一作書き上げた後にも似た達成感だ。

「という事で、ミッションクリアのお祝いと振り返りミーティングを兼ねて、今日の放課後は二人で打ち上げにいくよ」
「構わないけど、カラオケは嫌だぞ」

 これだけは言っておかねば。

「もしかして救えない程に音痴なの?」

 憐れむような目になる雪代。

「それは知らない。そもそも人前で歌った経験がほとんどないからな」
「じゃあなんで嫌なの? 私、悠果姉さんとよく一緒にいくけど、カラオケで好きな曲歌うと楽しいし、ストレス発散にもなるよ」
「俺はあの同調圧力を感じさせる空気感が嫌いなだけだ。『皆で一つになって楽しもう!』みたいな」
「カラオケいった事ないんだよね? なんでそんな事まで知ってるの?」
「小説で得た知識を元にシミュレートしてみた」

 したり顔で答えた。

「無駄に優秀なスキルだね⋯⋯」

 呆れたように呟く。

「今後のミッションでは人前で歌う事も想定に入れてるんだけどな⋯⋯まぁいいや。そういう事なら適当にファミレスか喫茶店にでもいこう」

 二人でそんな会話をしていると、対策プリントを渡した部活組がやってきた。

「緋本、お前十位なんて凄ぇじゃねぇか! 実力を隠してたってのは本当だったんだな!」
「お前のおかげで赤点は楽々回避だぜ!」
「これでインターハイにも出場する事が出来るよ。ありがとな!」
「次の期末考査の時も頼りにさせてもらうからな!」

 次々と賑やかに称賛や喜びに感謝の言葉を告げると、部活組は教室に戻っていった。

「よかったね。皆喜んでた」

 と雪代が微笑む。

「次の期末考査でも頼らせてもらうなんていう図々しいお願いまでされたけどな。まぁあの対策プリントを作ったのは雪代だから、俺がとやかく言えた義理じゃないけど」
「それでも彼らとの交渉をしたのは緋本君だよ。それは事実でしょ?」
「まぁそうだな」

 否定は出来ないので、やや曖昧にだが頷く。

「とにかく第一ミッション達成おめでとう!」

 朗らかな声で祝福された。嬉しい気持ちが込み上げてくる。

「ありがとな。次のミッションもこの調子でやり遂げてみせるよ」


   §


「それでどう? 今回の第一ミッションの達成で、何か変化は感じた?」

 学校帰りに立ち寄った、青黎生御用達の駅近くにあるエリーズ珈琲の店内──。

 そこでは、『ワルツ・フォー・デビー』(ジャズピアニストのビル・エヴァンスが、1961年にヴィレッジ・ヴァンガードで行ったライブを収録したアルバムのナンバー)が、耳に煩くならない程度に流されている。

 そんな中、俺と向き合って座っている怜愛が、チョコレートケーキをフォークで切り分け口に持っていきながら尋ねた。

「部活組との信頼関係は築けたと思うけど、正直言って、それ以外は何も。順位表には名前が載りはしたけど、それで誰かに話しかけられたのは部活組だけだったし。興味があるのは勉強に関して意識が高い連中だけなんじゃないか?」

 定番のたっぷりタマゴサンドを齧りつつ答える。
 ゴロッとした白身の食感が楽しいし、マヨネーズと卵黄のコクが濃厚だ。

「うーん、そっかぁ⋯⋯やっぱり九位程度じゃインパクトにかけるのかもね」

 少しばかり落胆したように言う。

「そもそもの存在感が薄いっていうのがその最たる要因だと思うけどな」

 身も蓋もない。けれど、厳然とした事実だ。

「まぁ少なからず成果はあったんだし、これからじわじわ認められて好感度は上がっていくはずだよ」

 雪代がポジティブな捉え方をする。

「そうだな。今回の件で、友達を作るって事に対するハードルは少しだけ下がったかもしれない」
「いい傾向だね。これで少しは自信がついたんじゃない? 栄光のリア充の王──略してリア王に至るための片鱗みたいなものを感じてさ」
「どっかで聞いたような異名だな。ラノベにそういうのなかったか? ねーじゅさんじゃない時の君って、センスが死んでない?」

 プロ作家モードから日常モードへとでも切り替わるんだろうか。

「いつだって創作の神が降りてくるなんて思ったら大間違いだよ。インスピレーションが湧くのは、決まって限界を超えた時なんだから」

 不満げに反駁はんばくした。

「俺はリラックスしてる時が一番いいアイデアが浮かぶけど」
「まぁ各人各様って事だよ。それよりそのリア充キングになるために必要な事は?」
「言い直してさらにチープさが増した」

 取り合わずにその安っぽさだけを指摘する

「下手な突っ込み入れてないで早く質問に答える!」

 手にしたフォークを俺の眼前に突きつけながら命じた。
 単純に怖い。

 俺が身を竦めて何も答えられずにいると、カウントダウンが始まった。

「⋯⋯5、4、3、2、1、0、はい、タイムアウト! 罰ゲームとしてこのミルクレープは私がいただきます」

 そう宣告すると、雪代は無慈悲にも俺の注文したミルクレープにフォークを突き立てて奪いとった。

「ああっ! 楽しみにとっておいたのに······」

 俺の嘆き悲しむ声が痛切に店内に響く。

「私の繊細なハートを傷つけた報いです。とくと罰を受けなさい」

 と無慈悲な裁判官のように。

「⋯⋯これ、俺のミッション達成を祝う打ち上げじゃなかったのか?」

 ふと疑問が浮かぶ。納得がいかない。

「あ、今ダイエット中だったんだっけ。でも甘い物は別腹だよね」
「俺の扱いの雑さよ」
「ん、おいしー」

 雪代は俺から奪ったミルクレープの味を、顔を綻ばせながらひとしきり堪能して、続けた。

「で、さっきの問いの答えは、もちろん新たなミッションを達成する事なんだけど、緋本君は、次の第二ミッションはどんな内容だと思う?」
「もう五月も終わりに近づいてるしな。次のイベントと言うと、確か六月の初めの頃に林間学校が開催される予定なんだっけ?」
「そう、それ。という訳で、次の第二ミッションでは、舞台を林間学校に変えてお届けします。未知の獰猛な生物、主人公達を襲う危機、果たして彼らは無事生き残れるのか⋯⋯この夏貴方は壮大なカタルシスへと誘われる──」

 重々しい声色を作りながら仰々しく並べ立てた。

「またしてもチープなB級映画の予告みたいなナレーション」

 今日の俺はダメ出しする機会が多い気がするな。彼女がくだらない事ばかり言うせいだ。

「緋本君の突っ込みも板についてきたね」
「誰がそうさせたんだか」

 と呆れたように。

「とにかくそんな感じで、緋本君を主軸に置いた感動する事必至な物語を紡いでいく予定だよ。今そのための仕込み中だから、詳細については、後日に開かれる『ひそリプ』第二回目の会議での楽しみにとっておくって事で」

 そう言って楽しげに笑う雪代を見ながら、俺は一抹どころではない不安を覚えてしまう。

 ──本当に彼女に任せておいて大丈夫なんだろうか⋯⋯。


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