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第八章 青黎祭と文学市場
50.演技の練習と共同ペンネーム
九月も残すところ後数日──そんなある日の宵の
口。
バスケットコートのある広々とした公園。
そこで俺と怜愛は、外灯の下、暖色系の光に照らされた中、お互い首と背中に手を回して、見つめ合いながら立っていた。
「君と永遠に一緒にいる事を誓うよ。例え、死が二人を分かつとも、来世でも、そのまた来世でも巡り逢って結ばれよう」
「うん。君をずっと永遠に愛すよ」
そして、二人は互いの唇を近付け──。
「はい、ここまで」
「はぁっ⋯⋯緊張した。こういうシーンは心臓に悪いな」
「この後は、嫉妬に狂った女が叫びながら登場だから、新居さんがいないと出来ないしね」
俺達は今、『凍れる美少女と一枚の絵』の現代編におけるクライマックスシーンを演じていたところだ。
ここで二人切りでの演技の練習を始めてから、既に十日以上が経った。
怜愛は日増しに練度を高め、それに付き合う俺も、彼女に必死に食らいつきながら相手役を演じ、初めの内はとちっていたけれど、今ではだいぶ熟れてきたと思う。
「それにしても、木の役しか経験がなかった蒼介君が、ここまで演れるとは思わなかったよ。この短期間で台詞まで全部暗記しちゃってるし。流石は隠れハイスペック」
と怜愛が褒めてくれる。
「俺も自分で驚いてるよ。君にリードされてる面も多いけどな」
新しい自分を見つけた気分だ。
「君、案外役者に向いているのかもね。本当の自分を押し殺して、陰の存在を長く演じていたからとか?」
「否、陰キャなのは、俺のデフォルトだよ」
「ふふっ。何にせよ、おかげで自分で納得がいく演技が出来るようになったよ。『Practice makes perfect』──練習する事で完璧に近付くけれど、内容次第では、間違った方向にいきかねないからね」
「そりゃあよかった。今週末に迫った青黎祭に向けて、調整は万全ってところか」
「うん。これなら最高のコンディションで本番に臨めそう」
怜愛は自信ありげに拳を握ると、「一息入れようか」と外灯の下に置かれているベンチに座った。
ここにくる途中のコンビニで買っておいた、ペットボトル入りのスポーツドリンクを口に傾ける。
俺もそれに倣い、彼女の隣に腰掛けてペットボトル入りのお茶を飲んだ。
「文化祭の二日目には、蒼介君のお父さんと和咲ちゃんがくるんだっけ?」
喉を潤して人心地ついた怜愛が尋ねた。
「ああ。怜愛の方は、両親がくるんだったよな」
お茶のペットボトルを脇に置きながら答えて、問い返す。
「うん。どっちも過保護だから、ちょっと恥ずかしいんだけどね」
怜愛が、いじいじと姫カットされた長い横髪を指で弄ぶ。
彼女の照れる仕草を見るのは、珍しい。
「俺、まだ会った事ないんだよなぁ。どんな両親なんだ?」
「お父さんは、慧って名前で、企業向けのファイナンシャルプランナーをしてる。眼鏡を掛けていて、見た目は冷たくて厳格そうなんだけど、中身はただの子煩悩な父親だよ」
「まぁ君みたいな一人娘を持ったら、そうなるのも分からないでもない」
「お母さんは、瑞希って名前のエステティシャン。こっちも普段はお淑やかだけど、私に対しては激甘で構いまくり」
「君を産んだ母親なら、相当な美人なんだろうなぁ」
「見た目が浮世離れしてるっていうのは私も認めてるけどね。アラフォーにもなるっていうのに、未だに私の姉妹だって誤解されるくらいだし」
「美魔女ってやつか? ラノベとかじゃよくある設定だけど、身近な現実にも存在してるなんて思わなかったよ」
「蒼介君のお父さんはどんな人なの?」
「温厚で柔らかい感じかな。大手のアウトドアメーカーで企画課課長を務めてる」
「君をそのまま大人にしたような感じ?」
「父さんは俺みたいなペシミスティックな人間と違って、よく出来た人だよ。周りからの人望も厚い」
「その真偽はともかく、一度会って話してみたいものだね。文化祭できちんと挨拶しておかないと」
「まぁ君はいいとしても、クラスメイトと自分の親が会うのって、出来れば避けたいよな」
「ホント、それ。私なんて、『雪氷の美姫』なんて二つ名まであるんだよ。それって何の拷問? って話だよ」
と眉間に皺を寄せながら。
「ははっ。自分の書いた脚本を自分で演じるっていうのも、相当なもんだしな」
と相槌を打つ。その気持ちは理解出来る。
「それはもう今更って感じだけど──ああ、そうそう。その脚本の事で、君に大事な話があるんだった」
「大事な話って?」
「ペンネームの件だよ」
「ペンネーム? ねーじゅ名義で発表するんじゃないのか? そっちの方が話題になり易くて集客力も上がるだろうし」
「それじゃ駄目だよ。だって、今回は、二人で共作した脚本なんだよ。それが分かるペンネームじゃないと、私のプロ作家としての矜持が許さない」
「君がそうしたいって言うなら、それでもいいけど⋯⋯じゃあ、どんなペンネームにするんだ? シンプルに二人のペンネームを合わせて、ねーじゅ&ブルーとか?」
「近いけれど、それより、もっといいのがあるよ。とっておきのが、ね」
そう言って、パチリとウインクして見せた。
「もったいぶるなぁ。でも、君には、あのチープなプロジェクト名なんかを命名したっていう前科もあるしなぁ」
故に油断は出来ない。
「ネージュブル」
唐突に、その単語を告げた。
「なんだそれ。どっかで聞いた事があるような響きの言葉だけど」
「フランス語で、『青い雪』を意味する言葉だよ。Neige Bleu。君の青に染まった私の雪。どう? 私達の共同ペンネームにぴったりだと思わない?」
「何だか怖いくらいに嵌ってるな」
「ね? おあつらえ向きって感じでしょ?」
得意げになる怜愛。とても楽しげだ。自分アイデアにワクワクしているらしい。
「ちょっと気恥ずかしいし、俺なんかが烏滸がましいって気持ちもあるけど、いい響きのペンネームだと思うよ」
「うんうん。これで、私と君が相思相愛だって、公然とアピール出来るね」
そう悪戯っぽく笑う彼女の細められた黒目がちなアーモンドアイ──。
そこには、サンタさんにクリスマスプレゼントを期待して、枕元に大きな靴下を用意して眠る幼子のような、あどけない期待の色が宿されていた。
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