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第十章 修学旅行
75.二つの告白
それぞれの想いが交錯する夜は、半分に欠けた月の下で始まった。
京都市内の旅館に宿を取った俺達。
夕食を終えた後は、午後七時から午後九時まで自由行動だ。
俺は、朝倉と鳴宮に連れられて、宿から徒歩で十分程のところにある高台寺へと向かった。
拝観料を払って入館し、『臥龍廊』と呼ばれる屋根付きの渡り廊下から、白砂が敷き詰められ砂紋が描かれている枯山水庭園を眺める。
『恋人の聖地』としても知られているそこ。 ライトアップされ、方丈前庭『波心庭』を中心にプロジェクションマッピングやLED照明、音響を組み合わせた光の演出がされていて、色付く紅葉をダイナミックに彩っている。
その景観は、まるで秋波を送る妖艶な美女にも似ていて、魅力的な目つきで、「さぁどうぞ、こちらへ」と誘っているかのようだ。
「うぁー、やべー、めちゃくちゃ緊張してきたー!」
その美しい景観に引っかき傷を入れるような朝倉の大声が響く。
「そう張り詰める事はないさ。結果はどうあれ、僕達に出来る事は、ただ誠意を尽くして彼女達にこの想いを伝えるだけだからね」
こっちはそれとは対照的に、落ち着き払った様子で鹿爪らしく諭す鳴宮。
「朝倉、こういう時はまず深呼吸だ。はい、吸ってー、吐いてー」
「ひっ、ひっ、ふー」
「大翔、それは深呼吸じゃなくて、ラマーズ法だよ」
俺の指示に従い深呼吸をしようとした朝倉に、鳴宮が突っ込みを入れる。
「え? そうだっけか? あ、でもなんか落ち着いてきた気がする」
「君がそれでいいなら、いいんじゃないか?」
「おっと、そうこうしている内に、彼女達がきたみたいだよ」
鳴宮に言われて、そちらへと目を向けると、渡り廊下の向こう側に、こちらにやってくる白鳥と涼葉の姿が見えた。
静まり返ったその場で、隣に立つ朝倉の、ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえる。
鳴宮も、余裕の態度を崩し、表情を引き締めている。
「大翔ー、きたよー。『俺達の未来に関わる重大な話』ってなにー? 凄く気になるんだけどー」
「湊もなのよね。こんなところまで呼び出して改まって伝えるなんて、よっぽどの事みたいね」
朝倉と白鳥、鳴宮と涼葉が、それぞれ向かい合って立つ。
俺はそこから数歩分離れて、様子を見守る。
「あー、姫、なんだ、その、本日はお日柄もよく」
「ぷはっ。何それ、結婚式じゃないんだから」
素で道化を演じる朝倉に、白鳥が思わずというように吹き出しつつ突っ込む。
「大翔、せっかく雰囲気のいい場を整えたっていうのに、台無しにしないでくれ」
と不満げにそれを咎める鳴宮。
「もったいぶらないで、早く言いなさいよ。何なの?」
要領を得ないその態度に、涼葉が、軽く苛つきを見せて急かす。
「よ、よし、じゃあ、言うぞ。お、俺、す、す──
「す?」
「好きなんだ!」
思いの丈を、シンプルな言葉で言い放った。
「何を? 今日の夕食で食べたジンギスカン? あれ、美味しかったよねー」
だが、白鳥は見当外れの受け取り方をする。
「違う! 俺が好きなのは、姫、お前だ!」
「え?」
きょとんと可愛らしく小首を傾げた。
「涼、僕も伝えさせてもらうよ。いつも凛としている素敵な君が好きだ」
「ええっ!?」
こちらは驚きに、大きく目を見開きながら。
「よければ、俺の彼女になってくれ! お願いします!」
朝倉が頭を深々と下げてOKならこの手を取ってくれと差し出す。
「君と恋人同士になりたい。どうかな?」
鳴宮は、涼葉の顔を見ながら、手だけ差し出した。
「んー⋯⋯」
白鳥は、下顎に片手の人差し指を当てて、視線を持ち上げながら思案げに唸った後、
「じゃあ、お試しで。友達以上恋人未満みたいな感じでならいいよ」
朗らかに笑みながら、朝倉の手を握り返した。
「マジか! いいよ、それで! 俺はてっきり断られるもんだとばかり思ってたよ! マジか! やべー!」
朝倉が小躍りしながら歓喜する。
「だって大翔、断ったら、卒業するまで引き摺りまくって、面倒臭そうなんだもん」
「って、何だよ、それ! 嫌々ながらじゃねーか!」
「あはははっ!」
白鳥の高らかな笑い声が雰囲気を和ませる。
「わ、私、こういうの、全然、慣れてないから、どうすればいいのか⋯⋯」
涼葉の方は、予想外の事態に、答えあぐねて戸惑っているようだ。
「じゃあ、僕達も、お試しで、って事ならいいかな? 無理強いはしないよ」
「そ、そう⋯⋯? まぁ、それなら⋯⋯はい、受け入れます」
涼葉も、おずおずと鳴宮の手を取る。
どちらも、友達以上恋人未満という、微妙な関係ではあるものの、断られる事なく受け入れられてしまった。
意外ではあるものの、それは自然な成り行きでもあったのかもしれない。
この紅葉に色付く庭園で、不規則に散らばった色とりどりの落ち葉みたいに、人の心は多様な形と豊かな彩りを持っている。
それは、時と共にカレイドスコープのように変容していき、新たな”自己”を形成していく。
そうであるから、彼女等の彼等に対する”思い”──最初の内は漠然としていたものが、”想い”──愛情や強い気持ち、時に執着へと変わる事だってあるだろう。
そして、それはこれから先もそうであり、友情が恋愛へと形を変え、不明瞭でモヤモヤしていた気持ちに、『好き』『恋』『愛しい』と名前を付けて呼ぶ事だって出来るようになるのだ。
それも、青春における恋愛の一つの姿形と言えるだろう。
この二組のカップルが、そういう関係になる事を願いつつ、陰ながら見守っていく事にしよう。
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