降る雪は沈む蒼の心を優しく包む〜冴えない根暗な陰キャぼっちの成り上がりリア充化プロジェクト〜

朔月カイト

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第十三章 アイドル転校生との勝負

90.マラソン大会に潜む刺客



 『風が強く吹いている』──。

 ついにその日が訪れたマラソン大会。
 それは、三浦しおんによる箱根を舞台にした小説のタイトルと同じように、寒風が吹きすさぶ中行われる事になった。

 学校周辺にある河川敷のランニングコースを利用し、男子十キロ、女子七キロで、男子から学年ごとにスタートする。
 終点で折り返して、再びこの学校のグラウンドに戻ってくればゴールだ。


 先にスタートした三年生男子とは少し間隔を空け、次に二年生男子の順番が回ってきた。
 整列の号令が掛かり、白線が引かれたスタートラインの前に立つ。

「トウヤくーん、頑張ってねー! 応援してるよー!」
「アイドルだらけの運動会で見せたあの勇姿をもう一度!」
「終わったらサインしてー!」

 鳴り物入りのアイドル転校生鴻上への黄色い声援が乱れ飛ぶ。
 彼はそれに、愛想良く笑顔で応じている。

 相変わらず人気者で、その走りも期待されているようだ。
 女子限定で、男子達からは妬みや嫉みを向けられて嫌われているけれど。
 俺は別にどうでもいい。
 やっかむ訳でもなし、向こうが突っかかってくるから相手をしてやっているだけだ。

「緋本君、ファイトー!」
「湊、頑張って。後、蒼介も私のライバルなんだから、不甲斐ない走りを見せないでよね」
「男子達が、汗を飛ばしながら競い合う、そして、途中で人目を盗んで暗がりに入った二人は、くんずほぐれつして別のものまで飛ばしちゃったり──それなんてエロゲ? はぁ、はぁ⋯⋯」

 俺達にも、女子達からの声援が投げ掛けられる。
 その内二人は、例の如く白鳥と涼葉だが、後の一人は、はて、誰だろう? 腐ってる女子? 知らない子ですね。

「姫、俺には!?」

 スルーされた朝倉が、必死になって呼び掛ける。

「えー? 大翔は適当にやってー」
「そ、そんなぁ⋯⋯」

 走る前から、大きなダメージを受けている。朝倉は沈んだな。

「ヒモっちのいいとこ見てみた~い」

 新居が期待を込めて緩く願う。

「緋本せんぱーい! 頑張ってくださねー! ファイトですっ!」

 続けて、揚羽が元気一杯に声を張り上げ、両手でガッツポーズをして見せた。

 後、これは蛇足でしかないが、ド変人江南も一応サムズアップを向けていた。

 俺は彼女達からの声援に、腕を挙げて応じると、目蓋を閉じ、一つ大きく深呼吸する。

 いつものルーティンで気持ちを落ち着かせた俺は、スタートの合図を待った。

 やがて、学年主任の美作先生が、天を穿つように勇ましくピストルを構えながら、

「準備はいいか?」

 確認を取ると、

「On your marks」

 合図を出し、次の瞬間、

 ──バァン!

 銃声が鳴り、同時に各走者一斉に走り出した。


   §


「緋本、お前持久力もあるんだな。その調子で、あのいけ好かないやつを負かしてほえ面かかせてやってくれよ」

 さっきから並んで走る朝倉にしつこく話し掛けられている。夏場の蚊のように、鬱陶しい事この上ない。

 同じバスケ部で朝倉の世話役を担う早風は、俺達よりも前の組でトップ争いをしているみたいだった。
 流石だ。二年B組の良心は、その名が示す通り、吹き渡る風のように颯爽と走る。

 湊は、体力面では平均値なので、もっと後方に位置しているだろう。

 部活組については、関知していない。
 大方、仲間同士で仲良くやっているんだろう。

 そして、問題の鴻上だが、俺達の一つ後ろの集団の中にいるようだ。
 さっき振り返ってみたら、かなり後方に彼の姿が小さく見えた。
 前評判通り、アイドルとしては、それなりの体力を持っているらしい。

「姫があいつの事、ドラマで見て格好良かったって前に言っててさ。俺よりあいつを取るんじゃないかって焦ってんのよ。なんせ俺達、お試し期間中だから──」

 朝倉の言葉を右から左へと聞き流しながら、

 ──このまま終われば、鴻上は、私用では二度と怜愛とは関われなくなる。なんでそんな分の悪い賭けに挑んできたんだろう⋯⋯。

 その理由が気になりはする。

 とまれ、俺は全力を尽くすのみだと、付き纏う朝倉には構わず、走るペースを上げた。


   §


 それは、ゴールまでもう間近というところまできた時の事。

 ラストスパートをかけるべく、更に加速して、前を走っていた男子の横を追い抜こうとすると──。


 その男子が、すっと足を横に差し出した。

「──ッ!」

 その足に引っ掛かり、前のめりに転倒してしまう。

 咄嗟に両手をついて支えたので、顔から地面にぶつかるという事はふせげた。
 だが、右膝を打撲して、右足首を捻ってしまった。

「ああ、悪ぃ。気づかなかったわ」

 その男子は、気遣う訳でもなく、一瞥して軽く謝罪を済ませると、すぐさま走りを再開させて、その場を離れていった。

「くっ⋯⋯!」

 怪我した足は痛むが、ここで棄権する訳にいかない。

 俺は痛みを堪えながら必死に立ち上がると、ひょこひょこと足を引き摺るようにして歩きながら、ゴールを目指した。

 そうやって遅々としながらも、着実にゴールに近付いていっていると、後ろを走っていた集団が、背後から迫ってきた。

 時折り振り返りつつそれを確認していた俺は、鴻上に並ばれたところで、痛みに苛まれながらも、気合いで耐えて再び走り出した。

「無理はしないで棄権した方がいい。足を痛めてるんだろ?」

 横を走る鴻上が、余裕の表情で、慮ったようにしながら気遣いの言葉を向けてくる。
 勿論、本心ではないだろう。もう勝った気でいるようだ。

「冗談言うなよ。そうなったら、君に怜愛とのデート権を与える事になるだろ」

 気丈に痛みを堪えつつ、言い返した。

「君程度の男が、彼女みたいな絶世の美少女と釣り合う訳がないだろ? あんな子、アイドルやモデルにだっていやしない」

 内面には一切触れない。怜愛の事は、自分の権威を高める為の、ただ見目のいいマスコットくらいにしか考えていないんだろう。
 
「君なら釣り合いが取れるとでも?」
「ああ、勿論だ。俺はトップアイドルのトウヤだぞ? これ以上の相手はいないだろう?」

 鼻を高くしながら、さも当然と言うように。

「随分と自分に自信があるみたいだが、それはお前がそう思い込んでるってだけだ。彼女の気持ちを一切無視してな」

 責めるような口調で、間違いを指摘した。

「彼女だって、すぐに気付くさ。ビジュアル、地位、名誉、金──それら全てを持っている俺の方が、君みたいなちょっと見た目がいいくらいのどこにでもいるやつなんかより彼氏に相応しいってな」

 高慢に、そして嘲りを多分に含ませながら。

「言ってろ」

 そこで言い合いを終え、互いに競り合いながら、抜きつ抜かれつ最後のデッドヒートを繰り広げる。

 そして、そのままほぼ横一線に並んで白線を越え、ゴールした。

 判定員として立っていた体育教師が告げた結果は──。


   §


「同着かー。腐ったキャベツに勝てなかったのは悔しいけど、怪我なら仕方ないよね。足、未だ痛む?」

 学校からの帰り、横を歩く怜愛が、心配そうに眉尻を下げながら尋ねた。

「歩けない程じゃないけど、痛みは無視出来ないな。暫くは苦労しそうだ」

 怪我を負った右足を庇うようにして歩きつつ、顔を歪めながら答える。

「そう。大変な時は言ってね。出来るだけサポートするから」
「ああ、ありがとう」
「それにしても、その君の足を引っ掛けたっていう男子は許せないね」

 怜愛にその見た目の特徴を伝えたところ、おそらくD組の陸上部に所属している灰原はいばらという男子生徒だろうとの事だった。

「明らかにわざとだったからな。不本意ながら最近目立っている俺をやっかんで──という事も考えられるけど、鴻上に与しているって線もないとは言い切れないな」

 推測を述べる。あくまで可能性だが⋯⋯。

「うん。私も同じ事を考えてたよ。腐ったキャベツらしい卑怯な手口だね。トップアイドルとして稼いでるだろうから、もしかしたら大金を渡すなんかして、仲間に引き入れたのかも」

 高校生がやる事じゃないけれど、否定は出来ないな。目的の為なら手段を選ばないあいつなら、何の躊躇いもなく実行しそうだ。

「あり得るな。そんな卑劣漢に、君とのデート権を与えるのを防げて何よりだ」
「だね。あいつが私に近付かないっていうのもなしになっちゃったけど、贅沢は言わないでおくよ」
「ただ、今回は無難な結果に落ち着いたけれど、彼は未だ怜愛の事を諦めてはいないようだったから、この先また何らかの手段で仕掛けてくる筈だ」

 蛇みたいにしつこそうだからな、彼。

「そうだね。私も気を付けておかないと。腐ったキャベツも、スキャンダルは起こしたくないだろうから、手荒な事はしないと思うけど、万が一って事もあるしね」
「行きと帰りは俺がボディガードするよ。今は十分に動けないけど、いざとなれば無理してでも君だけは守り通す」

 固い決意を込めて。

「うん。頼りにしてるね、私のヒーローさん」


 その日の夜の振り返りミーティングでも、同じような事を話し、改めて鴻上への警戒を強める事になった。


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