94 / 101
第十三章 アイドル転校生との勝負
92.バレンタインデー
今は学年末考査に向けてのテスト週間中。
けれど、そんな中、男子達は朝からなんとなくそわそわして、勉強にも身が入っていないみたいだ。
その前に、あるイベントを控えているせいだ。それが今日行われる。
そうなる状況と言えば、大方予想がつくだろう。
そう。言わずと知れたバレンタインデーだ。
今年はその日が土曜にあたる為、前日の今日、代わりにチョコレートを渡す女子生徒が大半を占めるようだ。
朝のホームルーム前の教室では、女子達によるチョコレートを渡すという、人によっては神聖とも言える儀式が行われていた。
「大翔ー、はい、これ」
「おぉ、バレンタインチョコだな!」
朝倉が喜び勇んで、その白鳥が差し出した綺麗にラッピングされた箱を受け取る。
「まぁ、義理だけどね」
「なっ!? そんな⋯⋯」
その言葉に、上げられた状態から一気に落とされ、愕然とする朝倉。
「嘘嘘、勿論本命で手作りだよ。ちゃんと、『姫ちゃん、マジ半端ねー。神』って思いながら、よく味わって食べるんだよ」
「そ、そうか⋯⋯マジ焦ったわ⋯⋯けど、おぅ! 姫の愛情を噛み締めるぜ!」
「うん、良き良き」
朝倉と白鳥がそんなやり取りをする傍らでは、
「み、湊、これ⋯⋯」
涼葉が、照れながらおずおずと鳴宮にチョコを差し出す。
「ありがとう。市販のものとは違うようだけど、もしかして手作りかい?」
「え、ええ。姫と一緒に作ったの⋯⋯要らなければ、処分してもらってもかまわないわ」
「そんな事する訳ないじゃないか。大事に食べさせてもらうよ」
などと、甘い空間が醸成されていた。
「トウヤくーん、はい、これ! ガチの本命だよ!」
「私もー! 愛情がたっぷり入ってるからね!」
「いつも画面越しだった推しに手渡し出来るなんて⋯⋯生きてて良かった!」
アイドル転校生鴻上も、相変わらずのモテっぷりだ。
皆、彼の本性を知らないだろうからな。トップアイドルとしての見映えの良さにまんまと騙されている。
「怜愛さん。君からのチョコも喜んで受け取らせてもらうよ」
口憚る事なく、怜愛に催促した。図々しいにも程がある。
「そこら辺に生えてる雑草でも食べてれば?」
けれど、怜愛は刺々しく毒のある言葉を返すばかり。いいぞ。さすれい。
そして、俺の状況はと言えば──。
「緋本君、はい、チョコあげるー! ナンパから助けてくれた時のお礼も含めてだから、手作りの気合いが入ってたやつ!」
「ってそれ、明らかに俺のより大きいじゃねーか!」
白鳥が、朝倉に突っ込まれながら。
「蒼介、貴方とは勉学におけるライバルだけど、林間学校の時に助けてもらった恩は忘れてないわ。だからこれ、そのお礼よ。特にそれ以上の意味はないわ。決して勘違いしないように」
涼葉がツンデレ気味に。
「緋本君、私のはハート型だよ。アサ✕ヒモって入ってるから、大翔に攻められてると思いながら、美味しくいただいてね」
橘が腐り成分を多分に含ませたチョコを。
「緋村君、青黎祭の時は助かったよ。これ、その時のお礼も兼ねて。義理だけどね」
秋里さんが、ショートポニーを揺らしつつ。
「ヒモっち、これ、あーしから~。ヒモっちとあーしはズッ友だから、友チョコね~」
新居がいつもの緩い感じで。
「緋本先輩! 私が頑張って作ったチョコ、受け取ってくださいっ!」
揚羽が元気一杯に。
「緋本君、あの時は疑うような事言ってごねんね。これお詫びのチョコ」
遊佐が申し訳なさそうに(甘粕からの「水責めに処す?」という言葉を添えられて)。
「日の光を浴びたモグラの緋本君、あの名演は私の心に刻み込まれているよ」
桐谷が、貶しているのか称えているのかよく分からない言い回しで。
「はい、緋本君。クラスに色々と貢献してくれてありがと。私、イベントごと好きだから、盛り上げてくれて感謝してるんだ」
田辺がお団子ヘアをくしくしと手で弄びながら。
「緋本氏、どうぞ。五個の内、四個に大量のワサビが入ったボク特製のロシアンルーレットチョコです。心してお召し上がりやがれください」
ド変人江南が、人を舐め腐った態度で。
そのチョコレートフィーバーは、美作先生が教室に入ってくるまで続いた。
§
お目当ての女子から、チョコをもらえたり、もらえなかったり──。
お菓子業界に踊らされた者たちによる、そんな悲喜こもごもがあった日の翌日。
本当のバレンタインデーとなる今日、俺は怜愛宅にお呼ばれしていた。
「はい、蒼介君。私からのバレンタインチョコです。勿論、愛情がたっぷりこもった手作りですよ」
瑞希さんに直接チョコレートを手渡され、「ありがとうございます」と受け取った。
「いつも俺の事を気に掛けてもらってすいません」
瑞希さんには恐縮するばかりだ。
彼女と接していると、亡き母さんの事を思い出してしまう。
慈愛に満ちた、料理が得意な優しい眼差しの人だった。
「ふふっ。蒼介君には、可愛い怜愛ちゃんを何度も救ってもらっていますからね。まだまだ足りないくらいです」
「蒼介君、私は部屋で渡すから、一緒にきて」
怜愛に促され、その後について二階に上がった。
「はい。私からのチョコ。お母さんに手伝ってもらったから、味は保証するよ」
怜愛の部屋で、彼女に青いリボンで閉じられた箱を受け取った。
「ありがとう。和咲から宅配便で届けられた分も合わせると、これで十二個目か。零個だった去年と比べれば、大収穫だな」
その事実だけ見れば、完全にリア充だ。俺ともあろうものが、孤独に寄り添う事を忘れて、甘い奸計に惑わされるなど⋯⋯とか心中では宣いつつも、感慨深げにしてるんだけどな。
「モテモテだねぇ。誰からもらったの?」
「全部義理だけどな。白鳥、涼葉、橘、秋里さん、新居、揚羽に、後何故か遊佐と桐谷、田辺にももらったな」
「江南さんは? 彼女が君に渡すところを見たんだけど」
「彼女のは劇物入りのロシアンルーレットチョコ──しかも、その的中率が80%っていう、迷惑極まりない代物だから、バレンタインチョコとしてはカウントしていない」
苦々しげに否定する。
「彼女らしい遊び心だね。他クラスとか別学年の女子からは? 君、人気ランキング三位でしょ?」
「君との交際が知れ渡っているからか、一個ももらってないな。『雪氷の美姫』の彼氏に近付こうとするのは、義理でも恐れ多いんじゃないか?」
「私って、そんなに怖がられてるの?」
心外だというように、目を丸くする。
「あの青黎祭での一件以来、以前よりも畏怖されるようになったって、秋里さんが話してたぞ」
「ああ、君とのチークキスが原因か」
恥じらいもなく、平然としてその事実を挙げてみせる。
「直接的な表現は控えてくれ。せっかく俺が言葉を濁したってのに」
少しは俺のナイーブな心を慮って欲しい。
「唇同士のキスも済ませたのに、相変わらず恥ずかしがり屋さんだね」
揶揄うように含んだ笑みを向けながら。
「衆目に晒されての方がキツイ。そんな事は早く忘れてくれ。それより、ホワイトデーにはどんなお返しがいい?」
逃げるように話題を変えた。
「それなら、私とデートしてよ」
「え、デート⋯⋯?」
軽い気持ちで尋ねたら、その何倍も重い答えが返ってきた。
「だって、私の誕生日に一度水族館デートした切りなんだよ? 私達付き合ってるのに、あんまりじゃない?」
不満げに口を尖らせる。
「分かったよ。じゃあ、学年末考査が終わったら、デートプランを考える事にする。今年のホワイトデーは、土曜日で休日らしいから、デートには丁度いいだろうし」
キャパを超えて溢れ出しそうだってだけで、俺だって怜愛との時間は大切にしているんだ。
デートの一つや二つ、気合いで乗り切ってみせよう。
「やったあ! 今度は私も一緒にデートプランを考えるね。ふふん、どこにしようかなー? 映画館? 動物園? あ、それか遊園地っていうのも捨てがたいよね」
嬉しそうに鼻歌交じりにいき先を挙げていく。
自宅に戻って食べた、怜愛が瑞希さんに教わりながら手作りしたというトリュフチョコ──。
それは、ふわふわの甘い口溶けで、子供の頃に、母さんと一緒にいったお祭りで買ってもらって食べた綿あめを思い起こさせた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。
孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。
その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。
そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。
同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。
春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。
昔から志穂が近くにいてくれるから……。
しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。
登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。
志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。
彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。
志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。
そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。
その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2026.2.22)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ
桜庭かなめ
恋愛
高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。
あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。
3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。
出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2026.1.21)
※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
∞
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。
入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。
しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。
抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。
※タイトルは「むげん」と読みます。
※完結しました!(2020.7.29)
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。