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第十三章 アイドル転校生との勝負
93.勝負の行方は
学年末考査のあった五日間が過ぎ、週が明け、結果発表の日がやってきた。
「どう? 蒼介君、手応えは感じたって事だったけど、トップは守れたと思う?」
朝。一緒に登校してきた怜愛が尋ねた。
「自信は半々ってところだ。五位以内には入ってると思うけど、今回は一位じゃないと意味がないからな」
やれるだけの事はやった。悔いは残していないが、頭を悩ませる問題も少なからずあった為、不安もなくはない。
「そうだね。それじゃあ、その目標が達成されているかどうか、結果を見にいこうか」
俺と怜愛が一緒に廊下の掲示板へと向かうと、そこに出来ていた人集りの間で、何やら騒ぎ立てている声が耳に届いてきた。
「トウヤ君すごーい!」
「イケメンのトップアイドルで、その上頭までいいなんて、もう完璧じゃん!」
「推しが尊過ぎて死ねる」
8位 鴻上透也 1267/1400
⋯⋯⋯⋯⋯
見ると、鴻上が、勝利条件の十位以内に入っていた。
どうやら、口だけじゃなかったらしく、しっかりと結果を出している。
これで、彼の負けはなくなった。
そして、俺はというと──。
1位 七海涼葉 1365/1400
2位 雪代怜愛 1357/1400
3位 緋本蒼介 1339/1400
⋯⋯⋯⋯⋯
「ふふっ。短い栄光だったわね、蒼介」
いつの間にか、俺の傍に立っていた涼葉が、勝ち誇ったように胸を張りながらドヤ顔を向けていた。
「⋯⋯涼葉、君、空気を読めよ。そういうところだぞ」
俺は悄然としながら、そんな涼葉に突っ込みを入れた。
「え⋯⋯? 私、何か悪い事でもしちゃったの⋯⋯?」
そういう反応が返ってくる事は想定外だったのか、彼女は面食らって狼狽えた。
どうやら彼女は、俺と鴻上が怜愛とのあれこれを賭けて勝負していた事を知らないでいたらしい。
隣に立つ怜愛は、ただ無言のまま、その順位表を凝視している。
そこに、鴻上がやってきて、得意げに笑みを湛えながら告げた。
「勝負は俺の勝ちだな。約束通り、怜愛さんとの一日デート権はいただかせてもらう」
§
ブルー『本当にすまない⋯⋯君を超えられなかっただけじゃなく、鴻上にデート権を与える事にまでなってしまって⋯⋯』
ねーじゅ『そんなに気に病まないでよ。私なら大丈夫だからさ』
怜愛が、もう何度目か分からない俺の謝罪に、律儀に応じる。
さめざめしい夜に、傷心する俺を慰めるように優しく奏でられるのは、ヨルシカの『ヒッチコック』──。
少女の人生相談というストーリーで展開される、共感出来る問いかけで構成された文学的で叙情的なナンバーだ。
ブルー『でも、君は彼の事をすこぶる嫌っているじゃないか。そんな相手と共に過ごさないといけないんだぞ? それに俺自身、君と彼が一緒にいるという事に耐えられそうにない』
ねーじゅ『蒼介君が私の事を大切に思ってくれているのは嬉しいけどね。例え約束を交わしたのがあの腐ったキャベツでも、それを蔑ろには出来ないよ。私にも決して捨てられない誇りがあるからさ』
ブルー『けど彼、手が早そうだから、君に強引に迫ったりするんじゃないか?』
ねーじゅ『その時は、えいっ! って股間を勢いよく蹴り上げてやるよ。デート権は与えても、身体まで許した訳じゃないからね』
ブルー『君はポジティブでいいな。俺はどうしても、悪い方向に考えてしまう』
ねーじゅ『心配しなくても、そうそうそんな危機的な状況になんてならないって。たった一日乗り切ればいいんだから。後は、君と約束しているホワイトデーのデートで上書きしてもらって、綺麗さっぱり忘れる事にするよ』
ブルー『本当に大丈夫か? 何なら、俺がこっそり後をつけていって、あいつが変な事しないか監視しておこうか?』
ねーじゅ『そんな事してもしバレでもしたら、変な言い掛かり付けられて、また何か要求される事になるかもしれないでしょ。ほら、悪い想像ばかりしてないで、もっと楽しい事考えよう? デートのプランとかさ』
ブルー『デートプランか⋯⋯君は既に幾つか挙げてたな』
ねーじゅ『色々と悩んだんだけど、映画館デートがいいなって思ってるんだよね』
ブルー『何か見たいタイトルでもあるのか?』
ねーじゅ『『雪の晶、月の雫、花の寿ぎ』っていう文芸小説が原作の恋愛映画なんだけど、知ってる?』
ブルー『ああ、そのタイトルだけなら。確か、数年前に本屋大賞を受賞した作品だよな。確か通称は『雪月花』だっけ』
ねーじゅ『そう、それ。その作品が映画化されて、丁度ホワイトデーの日に公開が始まる事になってるんだ』
ブルー『そうなんだな。じゃあ、俺もその前に原作を一度読んでおくかな』
ねーじゅ『だったら、私が貸してあげるよ。ハードカバーを持ってるから』
ブルー『そうしてくれると助かる。自分で購入してもいいんだけど、本代も馬鹿にならないからな』
ねーじゅ『凄く素敵な物語だよ。主人公の社会人と大学生のヒロインとの一途な恋を描いていてね。君の純愛小説にも通じるものがあるかも。ただ、それだけじゃなくて、最後に驚きの要素もあるんだけど──それは読んでからのお楽しみだね』
ブルー『それは読むのが楽しみだなぁ。映画の方は前評判ではどんな感じなんだ?』
ねーじゅ『そっちの評価も高いよ。既に公開前の時点で日本アカデミー賞の有力候補だって騒がれてるみたい』
ブルー『凄いな。じゃあ、チケットは早めに押さえておかないと、すぐに完売しそうだな』
ねーじゅ『それについては安心してもらっていいよ。冬瑚さんが、前売り券の発売開始と同時にネットでデジタル鑑賞券を二人分買っておいてくれたからね。『変調愛テロル』の累計発行部数が三十万部を突発したお祝いに、二人でいってきて、だって』
ブルー『貴志さんが、俺の分まで?』
ねーじゅ『スカーレット&ブルーは、冬瑚さんのお気に入りだからね。君自身の事も好ましい人柄だって褒めてたよ』
ブルー『何か気を使わせちゃった感じで申し訳ないなぁ』
ねーじゅ『そんな訳だから、ホワイトデーの映画館デートについてはバッチリだよ』
鴻上との勝負に負けてしまった事は悔しいが、彼と一日デートしなければならなくなった怜愛が、さ程気にしていないようなので、俺もそれ以上憂えるのは止める事にした。
§
翌日、俺と怜愛が一緒に登校すると、それを待っていたかのように、鴻上が近付いてきた。
「おはよう、怜愛さん」
俺は、勝ち取ったデート権を早速行使するべくその約束を取り付けようとしているのだと思った。
だが、鴻上はその予想に反し、別の事を要求してきた。
「デート権についてだけど、それはなかった事にしてもらっていい。その代わりに──」
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