101 / 101
最終章 希望
エピローグ 比翼連理の丘
春休みに入った。
俺と怜愛は、窓外に、春の訪れを告げるピンク色が、地上に舞い降りた天女のように爛漫に咲き誇る様を眺めながら電車に揺られ、ある場所に向かった。
もう一度、思い出のあの場所へ──。
そうして、再び俺達は、その地に立った。
あの時咲き乱れていた水仙は、既に見頃を終えているが、その代わりに、冬から春へとリレーするように、菜の花や桜があちこちで見られ目を楽しませてくれる。
その穏やかで緩やかな空間の中で、俺達は互いに息がかかる程の距離で向き合い、見つめ合っていた。
怜愛の黒目がちなアーモンドアイが、雪花の輝きを帯びる。
「澄み切った彼方の空みたいな」
俺の手をその雪のように白い手で握り、
「茫漠と広がる海の底みたいな」
俺の顔を揺らぐ瞳で見つめ、
「お祭りの時に買った昔ながらの懐かしいラムネのボトルみたいな」
優しく包み込むような微笑みを向けながら、
「童話で貧しい兄妹が探した幸せの鳥みたいな」
その凛として澄み切った声で、
「誠実や慈愛、知恵なんかの豊かな石言葉を持つサファイアみたいな」
それぞれが印象的なものに例えた言葉を、宝石をペンダントにそうするように大事に繋いで、紡いで、
「そんな”蒼”である君と、この私、真っ白な”雪”が巡り合った」
最後にそう締め括った。
「前に君が求めている自分の本当の気持ちを、この胸の奥に預かったって言ったよね?」
続けて、念を押すように告げる。
「私と君が、ねーじゅとブルーとして、初めて繋がりを持った時の事。君は、私の短編小説『白雪の舞う季節に』を読んで、こう感想欄にコメントしてくれたね。『貴女はまるで、降り積もったばかりで、未だ誰の手にも触れられていない、真っ白で美しい処女雪のようですね』って」
「あれは、つい気持ちが昂ぶってしまって、衝動に突き動かされて、恥ずかしい言葉を羅列してしまったんだ。俺の数ある黒歴史の中でも上位に位置する羞恥だよ」
そう恥ずかしげに頬を指で掻く俺を見て、怜愛はクスリと小さく笑いを零すと、
「あの時、私は君のかけがえのないもの欠片を預かった。そして次は、雪代怜愛と緋本蒼介として出会い、共に過ごしていく中で、何度も、何度も、新しいかけがえのないものの欠片を渡された」
そこで一呼吸置くように、その白雪のような掌を、そっと俺の左胸に当てる。
「そこにもう、答えは出ていたよ。君は”模倣”じゃない”オリジナル”をずっと探していた。私はその欠片を幾つも受け取り、繋ぎ合わせて、原型を復元させた。それを、私が自分の想いを添えて今から君に返すよ」
これまで過去に彼女から告げられた意味深な言葉の数々──そこに込められていた彼女の真意が紐解かれる。
難関な定理をついに解き明かした数理学者のような晴れやかな気分だった。
その内に秘められていた想いを、彼女の言葉により、自分ではっきりと自覚できるようになった。
──嗚呼、俺が求めていたのは、これだったんだな⋯⋯。
そんな爽快な気持ちで満たされている俺の首に、怜愛がゆっくりと手を回す。
時間は彼方に追いやられ、その瞬間が永遠にまで引き延ばされる。
これまでの彼女との軌跡が、次々と脳裏に甦ってきた。
予想の斜め上をいっていた出会い。
不敵な笑みと共に告げられた企て。
次々と課される波乱に満ちていたミッション。
彼女の柔らかく温かい、甘い匂いを伴った膝上の感触。
瞬く間に過ぎ去っていった茜色の夕日の下で、彼女の頬を流れた一筋の雫。
深い失意に沈む彼女を立ち直らせた、この地での逢瀬で、辺り一面真っ白な世界に包まれながら、そこに溶け込む真っ白な彼女と交わした口づけ。
それらを思い浮かべている内に、いつしか唇を重ねられていた。
やがて、ゆっくりと優しいキスを終えると、
「これで、私と君は心を繋げたね。素敵な物語の主人公君。誰よりも愛しい君に、私の魂を捧げるよ」
いつもの悪戯っぽい笑みを向けながら、少々重い言葉を告げる。
けれど、不思議とその言葉は、抵抗なく素直に受け入れられた。
そして、衒いなく心からの言葉を返す。
「ああ、俺の心の居場所は、君の傍以外あり得ない」
その想いを聞いた怜愛は、嬉しげに処女雪のような笑みを浮かべると、両手を広げながら、雪の妖精が舞うように、ふわりと軽やかで幻想的にくるくるとその場で回ってみせた。
「あはははっ!」
Radioheadの『Lift』──そのフレーズが頭を過ぎる。
This is the place.
ここが君の居場所さ。
It won't hurt ever again.
もう傷付く事はないよ。
同じRadioheadの『Creep』を聴いた、いつかの孤独を抱えていたあの時とは違い、今の俺には、心が帰る居場所がある。
──中々寄り添ってはくれないでいた現実も、ようやく俺に靡いてくれるようになってきたかな。
彼は気まぐれだから油断は出来ないが、怜愛と二人でなら、なんとかやっていけるだろう。
”蒼”を優しく包み込んでくれる”雪”が楽しげに舞うのを微笑みを浮かべて眺めつつ、その先にある未来を見据えて、そこに広がる幸福に思いを馳せた。
了
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。
孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。
その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。
そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。
同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。
春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。
昔から志穂が近くにいてくれるから……。
しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。
登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。
志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。
彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。
志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。
そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。
その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
恋人、はじめました。
桜庭かなめ
恋愛
紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。
明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。
ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。
「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」
「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」
明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。
一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!
※特別編9が完結しました!(2026.3.6)
※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想などお待ちしています。
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2026.2.22)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。