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2巻
2-3
しおりを挟む「色々聞かせてくださり、ありがとうございました。ところで、この鉱石はなんですか?」
「それは浮空石だな。魔力を込めると宙に浮くんだよ」
ジストンさんはそう言うと、浮空石を手に取って、魔力を流して宙に浮かせてみせた。
おぉー、本当に浮いてる。
「こんな感じで魔力を操作すれば上下左右、自在に動かせるぞ。魔力の量次第で飛ばせる時間が増えるが、俺みたいな一般人の魔力量だと、全力で魔力を込めても十分くらいが限界だな」
僕は身を乗り出して、聞く。
「面白いですね。用途としてはどんなものがあるんですか?」
「それがなー、この鉱石が発見されたのはつい最近で、まだこれといった使い道は分かってないんだよ。武器にするにしても鉄より脆いし、仮に武器にしたとしても、動かすにはそれなりの魔力がいるから、魔法使いじゃないととてもじゃないが使えない。かといって、魔法使いでさえ、『それを使うくらいなら杖を使う』って感じでなぁ」
「なるほど……」
「魔道国家の研究者や鉱山国家のドワーフが試行錯誤するために大量に買っていたこともあったが、最近見つけられたダンジョンでかなりの量が取れるもんで、需要が減って売れ残っているのが現状だな」
武器として使えない、か……
本当にそうなんだろうか?
この鉱石を見て、色々とアイデアが浮かんできたんだけどな。
浮空石だけにってね。
「ジストンさん、その浮空石を買いたいんですけど、おいくらですか?」
「お、なんだ興味が湧いたのか? 兄ちゃんは相変わらず用途がよく分からんものばっかり欲しがるなぁ」
「はは、そうかもしれないですね」
「値段は鉄鉱石の半分でいいぜ。ここにあるの全部買うのか?」
「はい、買わせてもらいます。あ、こっちの鉱石はなんですか?」
「それは色石つって、主にアクセサリーとかに使われるもんだな。これも買うかい?」
「んー、それでは、一つずつください」
「それなら、浮空石と合わせて金貨一枚でいいぞ!」
取引を成立させた僕は、言われた通り金貨一枚を払い、かなりの量の浮空石と色石を手に入れた。
ちなみに色石は、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色がある。
これを買ったのは、武器に色を付けられないかなーと思ったからだ。
分離スキルで色素が強い部分だけ分離させて、武器に合成すればいい感じになりそうな気がする。
今使っているロングソードは綺麗な銀色で悪くはないが、サブカル大好き人間の僕としては、ゲームや漫画に出てくるようなカラフルな武器にちょっと憧れがあるのだ。
「何に使うかは知らないが、なんか面白そうなもんが出来たら見せてくれよ! そんでもって、またうちの店で色々と買ってくれ!」
「分かりました。また来ますね」
そう最後に言って、僕はジストンさんの店を後にした。
ノアルは僕が鉱石屋を見ている間、近くの店にいると言っていたけど……
お、いたいた。
丁度道の反対側の出店にいたノアルに近づくと、何やら熱心に商品を見ていた。
僕の接近に気付かないくらいに。
「何か、気に入ったものあった?」
「!? ……びっくりした」
「あはは、ごめんごめん。何か凄く熱心に見てたね? 気に入ったの?」
「……綺麗だから見てた。けど、ちょっと高い」
ノアルが見ていた商品は、綺麗な色や形状をした、指輪やネックレス、ブローチなどの装飾品だった。
その中でも、ノアルが一番興味を惹かれているのは、指輪のようだ。
やっぱり女の子だから、こういう綺麗なものに惹かれるんだなぁ。
でも、確かに少し値が張るものばかりだ。
とても質が良さそうではあるから、妥当な値段だとは思うが。
「……ショーマは終わった?」
「うん、待たせてごめんね? ノアルは何か買う?」
「……大丈夫。次は道具屋?」
「そうだね。それじゃあ、行こうか」
「……ん」
そうして市場での買い物を済ませた僕達は、次の目的地である道具屋へと向かう。
少し歩いたところに、その道具屋はあった。
かなり大きい二階建ての店舗で、一階と二階でそれぞれ用途の違う商品が売られているみたいだ。
「いらっしゃいませ。冒険者の方ですか?」
早速お店の中に入ると、すぐに若い女性の店員さんが声をかけてきた。
「はい、そうです。明日から少し遠出しようと思っているので、色々と揃えたいと思って」
「そうですか。こちらに店内の見取り図があるので、お目当ての品を探す参考になさってください。何かご不明な点がございましたら、私共に声をかけてくださればいつでも対応いたします」
「ご丁寧にありがとうございます。色々と見させてもらいますね」
「はい。どうぞ、ごゆっくり」
うん、いい店だな。
店員さんの対応然り、店内の雰囲気もいい感じだ。
「それじゃあ、色々と見て回ろうか。ノアルも何か欲しいものがあったら教えてね?」
「……ん、了解」
それから僕達は店内を歩き回り、必要そうなものを手に取っていった。
毛布やタオル、鍋やフライパンにスプーンやフォーク、大小様々なお皿。それに、寝袋や雨を凌ぐための組み立て式の屋根まで売っていたので、それらをまとめて購入することにした。
屋根に関しては僕も作れるかもしれないが、作るのに沢山の材料がいるだろうし、大きいものを作るとなると、それなりに魔力が必要だ。
値段もお手頃だったし。
あとは、何かと使えそうな無地の布を何枚かと、裁縫道具を一式買っておいた。
これがあれば、服が戦闘とかで破れても直せる。
そういえば、裁縫も家事スキルの補正が入るみたいだけど、どうなるんだろう?
僕は、家事スキルのレベルも高いんだよね。
手際がめちゃくちゃ良くなるのかな?
そんなことを思いつつ、一階で手に取ったものを一旦お会計してもらった。
値段は締めて、金貨四枚程だった。
大分お買い得なんじゃないかな?
地球とはやっぱり相場が変わってくるんだろうか。
寝袋とか屋根とか、地球で買ったらそれなりの値段がしそうなものばかりだけど。
「二階は……魔道具を売ってるのか。行ってみる?」
「……んっ」
二階は、一階より少し狭い。
そこに、魔道具がぎゅうぎゅうに並べられていた。
それらの魔道具の前には値札と、どんな効力があるのかだったり、使う際の注意点などがざっくりと書いてある。
そんな魔道具達を色々と見て回っていると、先程ゲイルさんが言っていた結界石を見つけた。
使い方は……セットで売ってる台座に球体の結界石を置いて、それを結界を張りたい範囲の四隅に置き、魔力を流すことで起動するらしい。
結界の広さによって消費魔力が変わってくるみたいだ。
こっそり鑑定してみると、認識妨害という効果が付与されていて、結界の範囲内の人間は外からは認識されず、何もない普通の風景に見えるそうだ。
確かに夜寝る時とかは便利だけど、値段は金貨五枚とかなり高めだ。
なので、僕はステータス欄を開いて、認識妨害の付与が出来るか確認してみる。
どうやら、僕でも付与出来るみたいだ。
なら、これは買わずに自分で作ろう。
「……ショーマ、これどう?」
「ん? 何それ?」
手に取っていた結界石を棚に戻していると、ノアルが何かを見つけたようで声をかけてきた。
その視線の先には、そこそこ大きめの、三人くらいは余裕をもって寝転べそうな絨毯があった。
えーっと、なになに……
ほう、防汚の付与がされているのか。
「うん、いいかもね。値段もそこそこだし、買おうか」
「……ん!」
こちらの値段は金貨三枚だった。
この大きさで、付与もしてあるなら妥当なところだと思う。
確かめていないが、多分防汚の付与も僕は出来るので、適当な絨毯を買って同じようなものを作れるとは思う。
でも、ノアルはこの絨毯の模様や色が気に入ったみたいなので、これを買うことにした。
今から絨毯が売っている店に行くのも面倒だしね。
そんなこんなで、この絨毯も店員さんに会計してもらって、アイテムボックスにしまっておく。
そういえば、アイテムボックスにホイホイ色んな物入れてるけど、容量とかは大丈夫だろうか?
いっぱいになった気配は今のところないのだけれど……
まぁ、いっぱいになった時に考えればいいかな。
道具屋から出たところで、既に夕方の一歩手前くらいの時間になっていた。
「それじゃあ、宿に戻ろうか。他に買っておきたいものとかあるかな?」
「……十分だと思う」
「そっか。それじゃあ戻って、明日からのご飯を作っておこう」
「……ん、楽しみ」
*
現在、買い物を終えて泊まっている宿『みけねこ』に戻ってきたわけだが、宿の前で僕はとあることを思い出した。
「ミルドさん達にどう説明しよう……」
そう、今朝のノアルは黒猫だったが、今は獣人の姿なのだ。
というか、そもそもこの宿に獣人は泊まっていいのだろうか?
ノアルの話では、ダメな宿もあるらしい。
悲しいことにこの世界では、獣人に対する差別感情を持つ人もいるのだ。
「……獣化する?」
「いや、獣化は魔力を使うんでしょ? 早いとこ魔力を回復させたいだろうし、その姿でもし泊まっちゃダメって言われたら別の宿を探そう」
「……ごめんなさい」
「謝らないで。ノアルは悪くないんだから」
「……ん」
「それじゃ、行こうか」
不安からか、ノアルは僕の服の裾を掴んで、僕のすぐ後ろを付いてくる。
「あ、ショーマさん、お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
そのまま宿に入ると、迎えてくれたのは、この宿の従業員のソーイさん。
もう一人の従業員のトーイさんとは、双子の姉妹らしい。
ちなみに、髪型がロングとショートで大きく異なるために見分けがつくが、それ以外はそっくりである。
「あれ、その子は?」
「あー……この子は見た通り獣人なんですけど、この宿って獣人は泊まっちゃダメとかありますかね?」
「大丈夫だと思いますよ? あまりないですけど、獣人の方や魔族の方なんかもこの宿には泊まったことありますし、他の従業員の皆さんも、獣人がダメとかはないです。他のお客さんが嫌だと言っても追い出すなんてことは絶対にしません!」
「そうですか、それを聞いて安心しました」
よかった、宿を変える必要はないみたいだ。
最悪、森の方で野宿かなーとも思っていたので一安心。
「お、ショーマじゃないか。どうした?」
そんな僕達の話し声を聞きつけたのか、宿の主であるミルドさんが受付の奥のスペースから顔を出してきた。
「あ、ミルドさん、えっとですね……」
僕はソーイさんに聞いたことを、念のためもう一度ミルドさんに尋ねてみた。
すると、ソーイさんの言った通り、全く問題はないとのこと。
加えて、昨日助けた黒猫がノアルだったことや、今朝はこの宿がもし獣人NGだった時のために獣化していたことも告げた。
「なるほどな。うちの宿は基本的に種族によっては泊まれないってことはないぞ。なんでも、この宿を最初に作った人……俺の曾祖父が猫の獣人だったらしくてな。そういう理由もあって、獣人に対してはちょっと親近感があるくらいだ」
「そうだったんですか」
だから宿屋の名前もみけねこなのかな?
その曾祖父は三毛猫の獣人だったとか?
「それで、そいつも泊まるってことでいいのか?」
ミルドさんの言葉に、僕の後ろに隠れていたノアルはこくんと頷く。
「……ん、泊まる。それと、ありがと」
「ん? 何がだ?」
「……ノアルが倒れている時に面倒を見てくれたって聞いた。だから、ありがと」
「ああ、そのことか。気にしなくていい。元気になったみたいでよかったな」
「……ん」
ノアルはミルドさんにそうお礼を言うと、僕の後ろから出てきて控え目な笑みを浮かべた。
それを微笑まし気に見てから、ミルドさんは言う。
「そういえば、ショーマは最初に三日分の宿代を払っていたが、これからどうすんだ?」
「実は、明日から少し遠出をすることになりまして、泊まるのは一旦今日までですね」
「そうなのか。戻ってくるのか?」
「そのつもりです」
「そうか。気を付けてな」
「ありがとうございます」
一旦話がまとまったのを見て、ミルドさんはノアルに水を向ける。
「で、ノアルはどこに泊まるんだ?」
「あ、じゃあ新しい部屋を――」
「ショーマと一緒の部屋がいい」
僕の言葉を遮って、ノアルはそう口にした。
一緒の部屋、だって!?
「えっ!? 良くなくない!?」
「……ただでさえ、必要なものを沢山買ってもらったから、これ以上私のためにお金を使ってほしくない」
「い、いや……でも……」
決めかねている僕を横目に、ミルドさんはノアルに聞く。
「なんだ、一緒の部屋でいいのか?」
「……ん、いい」
「なら、ノアルの分の代金はサービスしてやる。一泊だけだし、ショーマはミラルのことを構ってくれたからな」
僕が狼狽えている間に、あれよあれよと一緒の部屋に泊まることが決まってしまった。
ま、まぁ、道具屋で寝袋も買ったし、僕はそれを使って床で寝ればいいか……
3 料理を作ろう!
「よし、じゃあ料理しようか」
「……おー」
部屋決めで一悶着あったが、気を取り直して僕とノアルは、明日からの食事を作るために、みけねこの厨房を借りた。
ミルドさんの奥さんであるララさんは買い物に行っていて留守にしていたので、ミルドさんに厨房を借りていいか聞いたところ、思っていたよりもあっさりオーケーをもらえた。
なんでも、あらかじめご飯を用意してから依頼に行く冒険者も多くはないがいるにはいるらしく、使った調理器具などを最後に洗って片付けてくれれば使っていいんだとか。
「ちなみに、ノアルは料理出来る?」
「……あんま出来ない。けど、何か手伝いたい」
「ありがとう。それじゃあ、少し手伝ってもらおうかな。包丁は使える?」
「……ただ物を切るだけなら」
「それなら、この食パンの耳を切り取ってくれる? あ、耳は捨てないで取っておいてほしいな」
「……ん、分かった」
今回作るのは、外でも気軽に食べられるサンドイッチだ。
何が起きるか分からない野宿では、手早く食べられるものの方がいいだろうからね。
それに、作るのも楽だし沢山作れて、挟む具材を変えれば三日くらいなら飽きずに食べられる気がする。
ノアルには食パンの耳を切る作業を任せ、その間に僕は、フライパンで色んな種類の魔物肉をそれぞれ少しずつ焼いてみることにする。
まずは、味見をしようかなって思ったのだ。
一応、買ってきた魔物肉は全て鑑定済みで、あっさりしているとか、がっつりしているとか、大体の味や食感の傾向は分かっている。
でも、実際に食べてみないとその味が好みかは分からないからね。
美味しいと勧められたから大丈夫だとは思うんだけど。
ちなみに、今回買った魔物肉は、オーク、フーミ鳥、爪熊、レッドウルフの四種類だ。
オークやフーミ鳥は豚や鳥の魔物なので、どんな味なのかはある程度予想出来るのだが、爪熊やレッドウルフの肉は全くもって未知数だ。
前世ではそんなにジビエを食べたことはなかったし。
でも、未知数だからこそ少し楽しみだ。
どんな味や食感なんだろうか?
臭くないといいけど……
とりあえず、最初はオーク肉から焼き上げることにした。
見た目は完全に豚ロースだ。
まずは、味見用に一口サイズにカットする。
ノアルの分も用意しとこうかな。
次に、脂身の部分に切り込みを入れて、格子状に筋繊維を断ち切る。
こうすると焼いた時に収縮してしまうのを防げ、食感が柔らかくなるらしい。
そうして切り分けたオーク肉を、熱して油を引いたフライパンに並べて、焼き上げていく。
豚肉はしっかり火を通すべきだけど、あんまり強い火力で焼いてしまうと、パサパサになってしまう。
両面を二分くらいかけて、低温でじっくり焼く。
一応言っておくと、僕の料理知識に関しては、ネットとか料理を始める時に数冊だけ買った料理本からの情報がほとんど。
先人達の努力の賜物である。
肉を焼きながら隣で頑張っているノアルの方へと目線を向けてみる。
包丁を使う動きはたどたどしく、少し危なっかしいけれど、問題なく食パンの耳を切り分けることが出来ているみたいだ。
耳のあるサンドイッチもあるけれど、僕はない方が好きなので今回はなし。
残ったパンの耳は、厨房にオーブンがあったので、後でラスクにでもしようかな。
そんなことを考えているうちに、オーク肉がいい感じに焼けてきた。
アイテムボックスからフォークを出して軽く刺してみると、透明な脂が浮き出てくる。
中まで火が通ったことが分かったので火を止める。
そして、二つに切り分けるともう一つフォークを取り出し、オーク肉を刺してノアルの前に差し出した。
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