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しおりを挟むということで、事態は一件落着である。
万事解決だと言える。ただ一つ、わたくしの気分を除いて。
勿論、オリヴァー様が魅了にかけられていたことは重々承知している。
『異界の術』である魅了を無理に解いて精神や身体に影響が出るなんてもっての外であるし、このままの調子ならば十中八九付き合いきれなくなったアリアが自ら術を解くことだって予測できた。
わたくしに予測できることならば、当然事情を知っていた宮廷内の人間にも容易に予測できたことだろう。
むしろ最短で解決したと言えることも十分に理解している。頭では分かっている。文句の一つもこぼした覚えはない。
ただ、どうしたって、わたくしの気分だけは別問題だった。
オリヴァー様が他所の女に、それもあんな下劣で卑しい女に愛を囁くだなんて我慢がならなかった。
でも、この状況でみっともない嫉妬心を晒すことは更に耐え難いことだった。
わたくしはオリヴァー様の愛を疑ったことなど一度としてないし、この先も疑うことなどない。『真実の愛』はいつだってわたくしだけのものだ。間違いなく。
わたくしはオリヴァー様を信じて疑ってなどいなかったのだし、その上オリヴァー様は邪法で魅了されていても尚、あれだけの愛情をわたくしに注いでくださったのだから、文句を言うなんてはしたないことだ。
でも嫌なものは嫌。
嫌。
絶対に嫌。
やっぱり素直に待たずに拷問にでもかけてさっさと術を解かせておけば良かったのだわ……なんて思いながら、わたくしはひとりベッドの上で涙を拭った。けれども、拭っても拭っても、どうしようもなく溢れてきてしまう。
人前ではいくらでも取り繕えるけれど、一人の部屋でまで我慢するだなんて無理な話だった。
意識があると気が滅入ることばかり考えてしまう。もう早く眠りに入ってしまおう。そう思ってきつく目を閉じようとしたその時、寝室の窓がひとりでに開いた。
防犯魔法に反応はない。わたくしが屋敷の者以外でこの部屋の開錠魔法を教えたのは、この世でただ一人だ。けれども。そんな。まさか。
「お、オリヴァー様? 婚前の乙女の部屋に入り込むなんて、いくら貴方様でも許されることでは────……!」
「すまない、ティターニア。君を苦しませるような事態に陥ったというのに、俺は愚かなことに謝罪一つで済ませてしまった。ようやくフロレイン家の問題が片付いたから、どうしても、素直な君に会いに行かねばと思って」
現れたオリヴァー様は、開け放った窓をそのままに、そっとベッドの上のわたくしに寄り添った。
思わず身を起こしたわたくしを、オリヴァー様はいつになく優しく、慈しむような、それでいて痛みを堪えるような顔で見つめる。
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