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第11話 電話

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 昼下がりの東京都内。新宿の一角にある古ぼけた雑居ビルの一室にて一人の男が電話を取る。



「おう、大輔。この前の薬はどうだった?あれキメた女はやべーだろ」



「はい…。そっちのお礼も改めてしたかったんですが、今日はちょっと別件で」



 いつもより覇気の感じられない電話口の相手、山本大輔は先日あった一件の詳細を男に伝える。



「へえ。中々派手にやられたみたいだけど、それがどうしたんだ?」



 特に興味も無いといった様子でそっけない返事をする男。その様子に焦りを感じた山本は本題を切り出した。



「うちの大学に、片澤詩織っていう女と山田大地って男が居るんですけど。その二人を襲って欲しいんです」



「……」



「あ、あの?」



「まあいいわ。で?どうせあのお坊ちゃんに頼むよう言われたんだろ?」



「まあ…はい、そうです」



「次からあのクソガキに直接話に来いって言っとけ。お前も良い様に使われ過ぎだ」



「分かりました…それでは失礼します」



 一先ず依頼は出来た。ホッとして通話を切ろうとした山本を再度男が呼び止める。



「おい大輔。どうせ金の心配はいらねえだろうからそっちの話はいい。だが人を襲えって言うからには具体的にどうして欲しいのか言え。うっかり殺しちまっても困らねえなら言う必要ねえけどな」



「あ、すいません!女の方は好きにして良いと言ってましたが、男の方はどこかへ監禁して欲しいとの事です」



「そこまで聞いてんなら最初から言え。後は二人の写真と情報を送れ、そしたら適当に段取りする。じゃあな」



 吐き捨てるように言い電話を切った男。時を同じくして一人の女がその場へやってきた。



「おう加奈。今丁度仕事が入ったからまた暫く空ける事になる」



「そう…、で?今回は何を?」



「男と女拉致るだけだ。男の方は山田大地っていうらしいんだが、どっかで聞いた事ある気がするんだよな」



 山田大地……その名を聞いてハッとする女。その様子を不思議に思った男が尋ねる。



「なんだ、もしかして知り合いか?」



「違うわ。名前の響きが似ていただけ」



 まさか気取られまいと平静を装う女は、気持ちを落ち着かせるべくトイレへと駆け込んだ。







 先日の一件から数日後、あの場に居た4人は誰一人として大学には来ていない様だった。



 そのまま休学でもしてくれれば此方としても気を張る必要は無いんだけど、どうにもそれで終わる気がしない。俺自身はどうにでも出来るが、片澤を狙われた場合の事を考えておく必要がある。



 少々破天荒な彼女ではあるが、大学に来ての友人だ。出来る事ならあんな奴等に邪魔されること無く平穏に過ごしてほしい。



「大地ってさ、髪型とか服変えたら化けると思うんだけど、あんまり気にしないタイプ?」



 隣で甘ったるそうな飲み物を啜りスマホを弄る片澤。彼女とはあれ以降こうして講義の合間に雑談を交わす仲になった。



「まあ正直ファッションの話とか理解できなさ過ぎて鳥肌が立つレベル」



 周囲の会話に意識を向けると時々考えてしまう事がある。やれどの髪型がどうだとか、どのブランドの服はどうだとか、世の中の人達はいつどこでそんな知識を身に着けているのか。



 お勧めされたブランドの名前すら数秒後に忘れてしまう俺は、あまりにも理解の追い付かない世界に次第に距離をとってしまっていた。



(こうなっても尚自分から調べたりしないのがダメなんだろうなぁ…)



「えー勿体ない」



 残念がる片澤を見てふと思う。分からないのであればいっそ人任せにすればいいのだ。



「片澤さえ良ければ、一回どんな服が似合うかとか決めて欲しいんだけど」



「え、いいの!?」



 目を輝かせ喜ぶ片澤。他人をコーディネートするのはお洒落好きな人間からすれば楽しい事なのかもしれない。



 俺と片澤は後日街へ行く事を約束した。
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