夜風の中を共に

兎猫

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1話

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 ここには朝がない。ずっと夜。

 朝を見たいと思った事は何度かあるけど、今は思わない。

「姫様、食事をお持ちしました」
「ありがとう」

 紫色をしたスープ。色は悪いけど、味は美味しいんだよね。

 色は悪いけど

「今日もまたお見合い?」
「はい。姫様もそろそろお決めになられて宜しいのでは?」

 みんな私が相手を見つけるのを待っている。

 それは知っているけど、この人だとっていう相手が一人もいないんだよね。

 でも、期待してくれているみんなに悪いし今回は少し前向きに検討してみようかな。

 写真で見ただけだけど、悪くはないと思うから。

「確かに姫様はまだ幼さが残っておりますが、それを感じさせないお美しい容姿でございます。そんな姫様と釣り合う相手などそうそういないでしょう」

 そう。みんな私が美しいと言う。

 私達は吸血種と言われている種族。血を好んで吸うってわけじゃないけど。

 人に流れる魔力を吸うの。

 でも、それができるのは伴侶に選んだ男性とだけ。

 だから、十歳の頃からお見合いをして婚約者を探している。

「この国の為にも、何より姫様のためにも選んでもらいませんと」
「分かってるわ。ティエイア、今日の相手の事を教えてくださる?」
「はい。今日のお相手は、姫様と同い年の少年です。名は確か、リグジェンヴェルア様」

 名前長いけど覚えられるのかな。この方には申し訳ないけど覚えられそうにない。

「彼の戦闘種族であるとの噂です。もうそろそろ着いている頃だと思いますが」
「ティエイア、今日も美味しかったと伝えておいて。私は少し用事ができたから」

 彼の戦闘種族。少し興味が出てきた。

 ここで待っているよりも、お出迎えに行きたい。

 私は窓から飛び降りて外へ出た。

「っと」

 今日のお見合いの為のドレスで着地が失敗するかなって思ったけど、さっすが私。ドレスを着てても問題なく着地できた。

 ティエイアは私の魅了が通じない相手。自分から使えばかかるだろうけど。

 無意識に発動してしまう魅了は、ここにいる人達にも効いてしまう。出来るだけ人に会わないようにしないと。

 私は種族も関係あるけど、普通の人と比べて運動神経は悪くない。

 騎士の視界に入らずに外に出るくらい簡単よ。

「貴様がこの国の美姫か?」
「私の後ろを取るなんて。貴方が今日のお見合いの相手かしら」
「見合いなどする気は無い。大王に無理矢理連れてこられただけだ」

 後ろにいる失礼な少年の顔を見てやろうと思って振り返った。

 不機嫌な彼を見た瞬間、それは告げた。

「この男しかいない。この男を逃すな」私の中にある種の本能とでもいうものだろう。それがそう告げた。

 私達種族は本能で相手を選ぶ。そう学んではいた。

 でも、実際に経験するのは初めて。

 鼓動が昂り、身体が熱い。それが何故だか心地よく感じている。

 本能のお告げが出る者は純潔だけ。純潔の中でも一部はその声を聞く事もできる。

 この身体の変化は、本能からのお告げを全身で受けているのだろう。

「顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」

 彼が私を心配している。

 彼の手が頬に触れた。

 お告げは声、姿以上に触れられる事でより強く発揮されるのだろう。

 彼が触れてくれた瞬間、意識を失った。
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