夜風の中を共に

兎猫

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2話

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 気がつくと部屋に戻ってる。

 彼が運んでくれたのかな。

「姫様、おめでとうございます」
「おめでとう?」
「はい。とうとう見つけられたのですね」

 見つけられた。それはそうだけど、彼は婚約に反対している。

「旅支度は済ませております。姫様にそのご覚悟がありましたら、いつでもどうぞ」
「旅支度ってどこか行くの?」
「彼を追うのでしょう。先代も先先代も皆そうしました。姫様、相手を逃してはなりませんよ」

 私は王族で王宮暮らし。そこから出た事は一度もない。

 いくら彼を探す為とはいえ一人で外へ出るのは少し怖かった。

「姫様、大丈夫です。姫様でしたら必ず」
「うん。探しに行ってみる。まだ遠くには行っていないかもしれないし、今から行けば早く見つかるかも」

 そうと決まればドレスは脱いで動きやすい服に着替えないと。

 一応お姫様なのに動きやすい服がいっぱいクローゼットに入っているの。

「いってきます」
「いってらっしゃいませ」

 私は着替えてから早速王宮の外へ出た。

 出る時は当然窓から。

 勢いに任せて王宮の外に出てみたけど、どこに行ったのか分からない。

 私達種族は運命を感じた相手がどこにいるのか感覚で分かるって学んだ。適当にそっちだと思う方向に進んでいったら見つかるのかもしれない。

 彼を見つけられると信じて、感を頼りに歩いた。

「全然いない」

 もう何時間歩いたんだろうか。彼を見つけられない。

「魔物」

 彼を見つける前に魔物を見つけてしまった。

 もう疲れてて逃げる気もしないよ。

 戦うにしても体力の限界。

 魅了でなんとかならないのかな。

「グォォォォ」
「貴方のような野蛮な方はお断りよ」

 疲れていても魔物一体くらいならなんとかなったみたい。

 浄化魔法で魔物を浄化させた。

「ふぅ」

 魔物がいなくなったと思って油断していた。

 魔物は群れだった。

 数十匹の魔物に囲まれている。助けを呼ぼうにも王宮から離れ過ぎている。

「伏せろ」

 魔物が一斉に頭を下げた。

 飼い慣らされたペットのように大人しくしている。

 こんなあり得ない光景を目にした事より、それをやった相手の方に意識が向いた。

 探していた彼が目の前にいた。

「箱入り姫がなんで外にいるんだ?逃げ出したか?」
「ちがっ」

 この事を知っているのはティエイアだけ。他の人には逃げ出したと思われているのかもしれない。

 それに、貴方を探していたなんて言えなかった。

「王宮に戻るんだな」
「それはできないわ」

 訳は言う事ができない。でも、今は戻れないというのは本当の事。

「寝床は?」
「ないわ」
「護身用の武器は?」
「それは、ある」

 ティエイアが用意してくれた中に護身用の短剣が入っている。

 その短剣は王家の紋が刻まれていて身分証明になる。

「男は?」
「おとこ⁉︎な、なんの話?」
「言い方が悪かったな。恋人はいるか?」
「いないわ」

 今はまだ。

「あの浄化魔法、もう一度見せてくれんなら匿ってやる」
「匿う?」
「俺と一緒で家出だろ?」

 家出していたんだ。一つ彼の事を知れた。

 私もそういう事にしておいた方がいいのかな。

「ええ。浄化魔法で良いのよね」

 彼の服が汚れている。お礼を兼ねて浄化魔法で綺麗にした。

「おお。これが浄化魔法」
「見た事ないの?」
「俺達は使う必要がない魔法だからな。お前、名は」
「シェヴィーリオ」
「俺はリグジェンヴェルアだ」

 未来の結婚相手なんだからちゃんと名前を呼ばないと。でも、間違えずに呼べるのかな。

「リグで良いぞ。リオ」

 愛称呼び。これはもう恋人確定では。

 一人で舞い上がるそうになるけど、変人だと思われないように抑えなくちゃ。

「宜しく願いますわ、リグ様」
「おう。宜しくな、リオ」

 彼は多分浄化魔法という興味深い魔法を使う少女としか思ってない。異性として見られてるかも怪しいところ。

 でも、まずは第一歩として会う事はできた。

 良い関係になるのはこれから考えれば良い。

 帰る事もお手紙を送る事も今はできない。でも、もし届いていたらと心の中で願う。

 拝啓ティエイア。私は、魔物に襲われそうになってほんの少しだけ怖かったの。でも、彼と会えたわ。彼は愛称呼びを許可してくれたのよ。リグって。

 また良い報告ができる事を願うわ。
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