28 / 44
突然の婚約破棄からそれは始まった
アーロンの宮殿にて
しおりを挟む
隣国の王宮についてからというもの、あれよあれよという間に怒涛の展開となった。
海に近いということから想像できるように、アーロンの宮殿はまさにリゾートホテルのようだった。
馬を預け、王宮の豪華なつくりに見とれる間もなく、すぐに彼の宮殿に連れていかれた。アーロンはかなり久しぶりの帰宮であり、下々の部下が彼を待っていたが、彼はとりあえず、そういうのは後回しにして、私を連れ帰ることを一番の目標にしていたようだった。
アーロンの宮殿の中を歩いていると、石造りの回廊は明るく開放的だったし、光が差しこむ中庭には、南の植物が生き生きと枝葉を伸ばしている。回廊の天井はアーチ型をしており、見るからに南国感あふれる素敵な建物だった。
「ほら、あそこがエレーヌの部屋だ」
そう言って、アーロンが連れてきてくれたのは、日当たりのよい広めのお部屋だ。いや、部屋というより、むしろホテルのスィートルーム以上のクオリティーだ。
どの部屋からもきれいな庭が見渡せるし、居心地のよさそうな藤でできた長椅子に、天蓋つきのベッド。ずっと地下牢にいたから、日の光と木々の緑が嬉しい。
レースのカーテンからそよそよと風が吹き込んできたこの部屋は、すごく心地がよさそうだった。
地下牢とはもちろん雲泥の差である。文句のつけようがないほど、素敵なお部屋だったので、私のテンションはぐんぐんと上がる。にこにこしながらあたりを眺めていると、アーロンがとても嬉しそうな顔をした。
「気に入ったか?」
「ええ、とても。アーロン、ありがとう」
アーロンがいなかったら、脱獄したとしても、すぐに捉えられていたはずだ。隣国の王族に保護されているからこその安心感がそこにあった。
脱獄してから、二人とも、ほんの少し休憩をとったものの、ずっと馬で駆けてきたのだ。アーロンだって疲れているはずだが、今の彼は生き生きとした表情をしており、なぜかとても嬉しそうだった。
自分の家に帰れたのがそんなにうれしいのかな、と思っていると、アーロンの顔に、いたずらっぽい表情が浮かぶ。
彼は突然、すっと片膝を落とすと、私の前にひざまずいた。
「アーロン、一体、どうしちゃ……」
私が言葉を言いおわらないうちに、突然、手の甲に温かくやわらかなものが触れる。
それがアーロンの唇であることに気が付いて、私は思いっきり狼狽した。
だって、アーロンは、明るい日の光の下では、暗がりより何倍もイケメン度が増していたのだ。
長い地下牢暮らしで、無精ひげが生えて少し痩せてしまってはいるが、精悍な顔立ちは相変わらずだし、短い黒い髪に、紫色のアメジストのような瞳。
そして今、細身で長身なアーロンが、床の上に片膝を立てて私を見上げている。
海外でよく男性がプロポーズする時のシチュエーションに似ている。
頬にさっと血が上る。
……決して頭に血が上った訳ではないからね?
そして、今、アーロンは私の手を握りしめたまま、熱い目で私を見つめていた。
「ア、アーロン、あの……」
今にも告白してきそうな彼の様子に、私は恥ずかしくなって、何と言ったらいいのかわからず、しどろもどろになる。
「エレーヌ、俺はあまり口がうまくない。けれども、その、俺はお前をあそこで初めてみた時から……」
一瞬、アーロンが口ごもる。いつもへらへらしている彼だが、こういう時はやはり王族なのだと思う。口元をキュッと閉めて思いつめた顔をするアーロンは、ひいき目に見ても、すごく様になっているのだ。短く言えば、すごくかっこいい。
「エレーヌ、俺のことをどう思ってる?」
「ど、どうって……?」
胸の震えを感じながら、私はしっかりとアーロンを見つめ返した。彼の手は燃えるように熱く、私と同じように、その手は少し小刻みに震えている。
「その……異性としてどう思うかってことだ」
やだ。アーロンから告白されたらどうしよう。今まで、地下牢の中でどう生き抜くかばかり考えていたから、愛だの恋だの、考えている余裕がなかったし……。
けれども、無意識のうちに私もアーロンの手をそっと握り返していた。私たちは微塵の動きもせず、お互いを見つめあう。心臓がどきどきして、今にも破裂しそうになりながら、思っていることを素直に言おうと決めた。
きっと、私にとってのアーロンは、きっと友達以上のものだ。いや、友達なんかよりも、もっともっと強い絆。きっと誰よりも大切な人なのだ。
「アーロン、私は、あなたのことを……」
アーロンも私の次の言葉を待ちわびて息をのみ、私の言葉を一言も逃すまいと熱心に見つめている。
その時だ。誰かが訪ねて来たようで、扉の向こう側で人の足音が聞こえ、こんこんとドアをノックする音が部屋に響いた。
アーロンはすっと立ち上がり、すっと手を放しながら残念そうな顔をする。
「まったく、なんでこんな時に」
彼は小さくつぶやいてから、短く、「入れ」と言葉を発した。
海に近いということから想像できるように、アーロンの宮殿はまさにリゾートホテルのようだった。
馬を預け、王宮の豪華なつくりに見とれる間もなく、すぐに彼の宮殿に連れていかれた。アーロンはかなり久しぶりの帰宮であり、下々の部下が彼を待っていたが、彼はとりあえず、そういうのは後回しにして、私を連れ帰ることを一番の目標にしていたようだった。
アーロンの宮殿の中を歩いていると、石造りの回廊は明るく開放的だったし、光が差しこむ中庭には、南の植物が生き生きと枝葉を伸ばしている。回廊の天井はアーチ型をしており、見るからに南国感あふれる素敵な建物だった。
「ほら、あそこがエレーヌの部屋だ」
そう言って、アーロンが連れてきてくれたのは、日当たりのよい広めのお部屋だ。いや、部屋というより、むしろホテルのスィートルーム以上のクオリティーだ。
どの部屋からもきれいな庭が見渡せるし、居心地のよさそうな藤でできた長椅子に、天蓋つきのベッド。ずっと地下牢にいたから、日の光と木々の緑が嬉しい。
レースのカーテンからそよそよと風が吹き込んできたこの部屋は、すごく心地がよさそうだった。
地下牢とはもちろん雲泥の差である。文句のつけようがないほど、素敵なお部屋だったので、私のテンションはぐんぐんと上がる。にこにこしながらあたりを眺めていると、アーロンがとても嬉しそうな顔をした。
「気に入ったか?」
「ええ、とても。アーロン、ありがとう」
アーロンがいなかったら、脱獄したとしても、すぐに捉えられていたはずだ。隣国の王族に保護されているからこその安心感がそこにあった。
脱獄してから、二人とも、ほんの少し休憩をとったものの、ずっと馬で駆けてきたのだ。アーロンだって疲れているはずだが、今の彼は生き生きとした表情をしており、なぜかとても嬉しそうだった。
自分の家に帰れたのがそんなにうれしいのかな、と思っていると、アーロンの顔に、いたずらっぽい表情が浮かぶ。
彼は突然、すっと片膝を落とすと、私の前にひざまずいた。
「アーロン、一体、どうしちゃ……」
私が言葉を言いおわらないうちに、突然、手の甲に温かくやわらかなものが触れる。
それがアーロンの唇であることに気が付いて、私は思いっきり狼狽した。
だって、アーロンは、明るい日の光の下では、暗がりより何倍もイケメン度が増していたのだ。
長い地下牢暮らしで、無精ひげが生えて少し痩せてしまってはいるが、精悍な顔立ちは相変わらずだし、短い黒い髪に、紫色のアメジストのような瞳。
そして今、細身で長身なアーロンが、床の上に片膝を立てて私を見上げている。
海外でよく男性がプロポーズする時のシチュエーションに似ている。
頬にさっと血が上る。
……決して頭に血が上った訳ではないからね?
そして、今、アーロンは私の手を握りしめたまま、熱い目で私を見つめていた。
「ア、アーロン、あの……」
今にも告白してきそうな彼の様子に、私は恥ずかしくなって、何と言ったらいいのかわからず、しどろもどろになる。
「エレーヌ、俺はあまり口がうまくない。けれども、その、俺はお前をあそこで初めてみた時から……」
一瞬、アーロンが口ごもる。いつもへらへらしている彼だが、こういう時はやはり王族なのだと思う。口元をキュッと閉めて思いつめた顔をするアーロンは、ひいき目に見ても、すごく様になっているのだ。短く言えば、すごくかっこいい。
「エレーヌ、俺のことをどう思ってる?」
「ど、どうって……?」
胸の震えを感じながら、私はしっかりとアーロンを見つめ返した。彼の手は燃えるように熱く、私と同じように、その手は少し小刻みに震えている。
「その……異性としてどう思うかってことだ」
やだ。アーロンから告白されたらどうしよう。今まで、地下牢の中でどう生き抜くかばかり考えていたから、愛だの恋だの、考えている余裕がなかったし……。
けれども、無意識のうちに私もアーロンの手をそっと握り返していた。私たちは微塵の動きもせず、お互いを見つめあう。心臓がどきどきして、今にも破裂しそうになりながら、思っていることを素直に言おうと決めた。
きっと、私にとってのアーロンは、きっと友達以上のものだ。いや、友達なんかよりも、もっともっと強い絆。きっと誰よりも大切な人なのだ。
「アーロン、私は、あなたのことを……」
アーロンも私の次の言葉を待ちわびて息をのみ、私の言葉を一言も逃すまいと熱心に見つめている。
その時だ。誰かが訪ねて来たようで、扉の向こう側で人の足音が聞こえ、こんこんとドアをノックする音が部屋に響いた。
アーロンはすっと立ち上がり、すっと手を放しながら残念そうな顔をする。
「まったく、なんでこんな時に」
彼は小さくつぶやいてから、短く、「入れ」と言葉を発した。
26
あなたにおすすめの小説
転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!
木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。
胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。
けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。
勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに……
『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。
子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。
逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。
時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。
これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
乙女ゲームに転生した悪役令嬢! 人気が無い公園で出歯亀する
ひなクラゲ
恋愛
私は気がついたら、乙女ゲームに転生していました
それも悪役令嬢に!!
ゲーム通りだとこの後、王子と婚約させられ、数年後には婚約破棄&追放が待っているわ
なんとかしないと…
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる