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第二巻刊行記念特別編~フロルの短期留学~
ふうちゃん再び~2
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「今日からみんなの仲間となる子を紹介しよう」
王立魔術院初日。
フロルは魔術院の制服を着て、黒板の前に立っていた。
目の前には、ざっと40名くらい。
「フロル・ダーマです。よろしくお願いします」
フロルがぺこりと頭を下げると、先生が手前に一つ空いている席を指さした。
「フロル、そこがお前の席だ」
先生はそう言うと、改めて生徒にむき合いながら口を開く。
「フロルはすでに王宮の白魔道師として働いている。宮廷魔道師長ノワール様の助手ということだ。一か月間、ここにいて、彼女に見合ったプログラムに参加するから、いつもこのクラスにいるとは限らないけど、仲良くしてやってくれ」
先生がそう言った瞬間、クラス中の雰囲気が変わった。
最初は好奇心に満ちた目だったものが、一気に尊敬の眼差しに変わったのだ。
「魔道師長様のアシスタントだなんて、すごいね」
隣に座った赤毛の男の子が感心したように話しかけてくる。
フロルが、というよりも、みんなライルの威厳に関心しているのだ。
ライルは暇な時は、いつも変な魔道具をこしらえては実験しているし、時々は、変ないたずらをするライルが、まさかここまで尊敬されているとは思わなかった。
「ねえ、魔道師長様って、立派な人なんでしょう?」
左側に座っていた女生徒、小声でフロルに話しかけてくる。
「立派、かなあ? うーん、立派でないとは言えないと思うけど……」
キラキラした目で見つめてくる女の子に、フロルはなんと言っていいものか、言葉を濁す。
ちょっと前にライルが起こした騒動を思い出す。
ライルがちょっと好奇心で作りあげた変な魔道具。
人の形をした、ゾンビまがいの魔道具だ。何がいけなかったのかは不明だが、なんとそれが誤作動してしまい、魔導士塔の外に出た時は大騒ぎだった。もちろん、フロルも魔道具ハントに駆り出された。
ただの誤動作した魔道具と侮るなかれ。
国の中で最も力の強いライルが作成した魔道具である。出来損ないでも、それはそれは強烈な力を持つ。一人や二人の魔道師では到底抑えきることができなかった。
結局、塔の魔道師全員が総動員で、その魔道具人形を必死になって追いかけたことは記憶に新しい。なんとか、魔道師でそれを取り囲み、ライルが魔力を抜いて騒動が収まったのだったが。
完璧に見えるライルでも、時々はそういう大ポカをやらかす。
けれども、みんなの夢を壊しちゃいけない、と思い直し、フロルは引きつった笑みを浮かべた。
「……そう、だね。うーんと、黒くて長い髪がカッコいいかな?」
そう、中身はともかく、ライルは見かけだけは素晴らしくカッコいい。すらりとした細身の長身に、王宮魔導師のローブにくるまって、風に長い髪をなびかせながら、すくっと立っている姿は、確かに、かっこいいともいえる。
「わあ、素敵。いいなあ、魔道師長様のお傍にいられて」
たったそれだけの情報でも口元を緩めて嬉しそうにしているクラスメイトの夢を壊さないようにしよう、とフロルは固く心に誓う。
「じゃあ、授業を始めるぞ」
そういって、先生は黒板にカツカツと音を立てながら、魔術文字を書き始める。これはすでにアルブス聖人に習ったものだったので、フロルは少しほっとした。
なんとか授業にはついていけそうだ。
フロルも、他の生徒に習って、授業に集中することにした。
◇
そして、やってきた昼休み。
お昼ごはんどうするんだろ?
ちょっと悩みつつ、教科書など荷物をしまっていると、隣の席の女の子から声をかけられた。
「一緒にお昼に行く?」
フロルはぱっと花が咲いたような笑顔を浮かべた。
「ええ、いいんですか?」
「もちろんよ」
気づけば、彼女の後ろには数人の女の子がいた。仲良しのグループだという。
そうして、彼女たちについて、学校の食堂に行く。
いつもは魔道師の食堂でご飯を食べていたフロルだが、やっぱり学校は雰囲気が明るい。生徒たちは思い思いの場所に座り、たわいもない話に花を咲かせている。
宮廷で働く魔道師たちは、きっとひときわオタク度が高いのだろう。
一緒にランチを食べるという社交性がないものだから、それぞれが個食だ。
やっぱり学校っていいな。
「いただきます」
みんなで席に着き、一緒にお昼を食べる。
(いいなあ、こういうの)
女子トークを聞きながらフロルがご飯を食べていると、ふと背後に鋭い視線を感じる。
ふと振り返ると、ついとフロルから視線を外した女子生徒がいた。
つんっとしたオーラが漂っている。
そんなフロルの様子を見て、隣に座っていた女の子がそっと耳打ちをした。
「ああ…エリー様ね」
「エリー様って?」
「公爵令嬢よ。ほら、あそこに座っている人たち、みんな貴族なのよ」
なるほど。よくよく見てみると、貴族らしい人たちは一か窓の近くに座っている。食堂の特等席という感じだろうか。
「へー」
フロルは抑揚のない声で返事をする。できればかかわらないでいたほうがいい人だ。
「まあ、私たちとは無縁だけどね」
彼女たちの話を総合すると、どうやらフロルがいるクラスは特優生が集まるクラスなのだが、実力重視であるため、身分とはあまり関係なく、庶民の生徒もぽつりぽつりいるのだとか。
そういう庶民上がりの生徒たちを貴族あがりの魔道師たちはあまり気に入らないのだという。
「めんどくさいね」
「まあ、相手にしないことが一番だよね」
「じゃあ、そろそろ教室に戻ろうか」
お昼ご飯も終わったことだしと、フロルたちが教室に戻ろうとしている後ろ姿を、じっと見つめている者たちがいた。
「あいつが平民の新入りか」
「なんでも、王宮ですでに働いている白魔道師なんだってよ」
「ふうん。短期留学って生意気だな」
先ほど、フロルをじっと見つめていたエリー含む貴族の取り巻き達だ。
そんな嫉妬混じりの視線に気づかず、フロルはまた午後の教室へと戻っていった。
◇
ちょうどその頃。西を目指して、必死の形相で飛んでいる鳥たちがいた。
「父ちゃん、あれって風船鳥かい?」
群れを成して飛んでいる鳥の群れを見つけて、近くで働いていた農夫親子が驚いたように空を見上げる。
「ああ、風船鳥さな。あの鳥があそこまで必死になって飛んでいるとは珍しいこったの」
「普通はあんな風に飛ばないよね?」
「ああ、しかも群れを成してるしなあ」
おっとりと空を見上げる農夫たちをよそに、風船鳥たちは、今朝から焦りまくっていたのである。
いつも、魔導士塔の窓からフロルに朝の求愛をするのが風船鳥たちの日課であった。
なのに、なのに!
昨日の朝からフロルがいないのである。
一日待ってみたが、フロルが戻ってくる様子はない。
そうして、フロルを見たという別の風船鳥からの情報によると、馬に乗った騎士達とどこかへ旅立った模様。
風船鳥たちは意識を共有しているので、そこからフロル大捜索網が引かれたのだ。
それによると、フロルは西に向かって移動しているという。
フロルを捜して一匹が二匹になり、また二匹に新たな一匹が加わり、と繰り返して、今や、フロルを目指す風船鳥は何百匹と膨れ上がっていた。
風船鳥たちは、血相を変えて、フロルの後を追っていたのだった。
鳥たちの眼下には、王立魔術院がある。
そう、フロルが今あさに留学している場所であった。
◇
10話前後で終了予定!
王立魔術院初日。
フロルは魔術院の制服を着て、黒板の前に立っていた。
目の前には、ざっと40名くらい。
「フロル・ダーマです。よろしくお願いします」
フロルがぺこりと頭を下げると、先生が手前に一つ空いている席を指さした。
「フロル、そこがお前の席だ」
先生はそう言うと、改めて生徒にむき合いながら口を開く。
「フロルはすでに王宮の白魔道師として働いている。宮廷魔道師長ノワール様の助手ということだ。一か月間、ここにいて、彼女に見合ったプログラムに参加するから、いつもこのクラスにいるとは限らないけど、仲良くしてやってくれ」
先生がそう言った瞬間、クラス中の雰囲気が変わった。
最初は好奇心に満ちた目だったものが、一気に尊敬の眼差しに変わったのだ。
「魔道師長様のアシスタントだなんて、すごいね」
隣に座った赤毛の男の子が感心したように話しかけてくる。
フロルが、というよりも、みんなライルの威厳に関心しているのだ。
ライルは暇な時は、いつも変な魔道具をこしらえては実験しているし、時々は、変ないたずらをするライルが、まさかここまで尊敬されているとは思わなかった。
「ねえ、魔道師長様って、立派な人なんでしょう?」
左側に座っていた女生徒、小声でフロルに話しかけてくる。
「立派、かなあ? うーん、立派でないとは言えないと思うけど……」
キラキラした目で見つめてくる女の子に、フロルはなんと言っていいものか、言葉を濁す。
ちょっと前にライルが起こした騒動を思い出す。
ライルがちょっと好奇心で作りあげた変な魔道具。
人の形をした、ゾンビまがいの魔道具だ。何がいけなかったのかは不明だが、なんとそれが誤作動してしまい、魔導士塔の外に出た時は大騒ぎだった。もちろん、フロルも魔道具ハントに駆り出された。
ただの誤動作した魔道具と侮るなかれ。
国の中で最も力の強いライルが作成した魔道具である。出来損ないでも、それはそれは強烈な力を持つ。一人や二人の魔道師では到底抑えきることができなかった。
結局、塔の魔道師全員が総動員で、その魔道具人形を必死になって追いかけたことは記憶に新しい。なんとか、魔道師でそれを取り囲み、ライルが魔力を抜いて騒動が収まったのだったが。
完璧に見えるライルでも、時々はそういう大ポカをやらかす。
けれども、みんなの夢を壊しちゃいけない、と思い直し、フロルは引きつった笑みを浮かべた。
「……そう、だね。うーんと、黒くて長い髪がカッコいいかな?」
そう、中身はともかく、ライルは見かけだけは素晴らしくカッコいい。すらりとした細身の長身に、王宮魔導師のローブにくるまって、風に長い髪をなびかせながら、すくっと立っている姿は、確かに、かっこいいともいえる。
「わあ、素敵。いいなあ、魔道師長様のお傍にいられて」
たったそれだけの情報でも口元を緩めて嬉しそうにしているクラスメイトの夢を壊さないようにしよう、とフロルは固く心に誓う。
「じゃあ、授業を始めるぞ」
そういって、先生は黒板にカツカツと音を立てながら、魔術文字を書き始める。これはすでにアルブス聖人に習ったものだったので、フロルは少しほっとした。
なんとか授業にはついていけそうだ。
フロルも、他の生徒に習って、授業に集中することにした。
◇
そして、やってきた昼休み。
お昼ごはんどうするんだろ?
ちょっと悩みつつ、教科書など荷物をしまっていると、隣の席の女の子から声をかけられた。
「一緒にお昼に行く?」
フロルはぱっと花が咲いたような笑顔を浮かべた。
「ええ、いいんですか?」
「もちろんよ」
気づけば、彼女の後ろには数人の女の子がいた。仲良しのグループだという。
そうして、彼女たちについて、学校の食堂に行く。
いつもは魔道師の食堂でご飯を食べていたフロルだが、やっぱり学校は雰囲気が明るい。生徒たちは思い思いの場所に座り、たわいもない話に花を咲かせている。
宮廷で働く魔道師たちは、きっとひときわオタク度が高いのだろう。
一緒にランチを食べるという社交性がないものだから、それぞれが個食だ。
やっぱり学校っていいな。
「いただきます」
みんなで席に着き、一緒にお昼を食べる。
(いいなあ、こういうの)
女子トークを聞きながらフロルがご飯を食べていると、ふと背後に鋭い視線を感じる。
ふと振り返ると、ついとフロルから視線を外した女子生徒がいた。
つんっとしたオーラが漂っている。
そんなフロルの様子を見て、隣に座っていた女の子がそっと耳打ちをした。
「ああ…エリー様ね」
「エリー様って?」
「公爵令嬢よ。ほら、あそこに座っている人たち、みんな貴族なのよ」
なるほど。よくよく見てみると、貴族らしい人たちは一か窓の近くに座っている。食堂の特等席という感じだろうか。
「へー」
フロルは抑揚のない声で返事をする。できればかかわらないでいたほうがいい人だ。
「まあ、私たちとは無縁だけどね」
彼女たちの話を総合すると、どうやらフロルがいるクラスは特優生が集まるクラスなのだが、実力重視であるため、身分とはあまり関係なく、庶民の生徒もぽつりぽつりいるのだとか。
そういう庶民上がりの生徒たちを貴族あがりの魔道師たちはあまり気に入らないのだという。
「めんどくさいね」
「まあ、相手にしないことが一番だよね」
「じゃあ、そろそろ教室に戻ろうか」
お昼ご飯も終わったことだしと、フロルたちが教室に戻ろうとしている後ろ姿を、じっと見つめている者たちがいた。
「あいつが平民の新入りか」
「なんでも、王宮ですでに働いている白魔道師なんだってよ」
「ふうん。短期留学って生意気だな」
先ほど、フロルをじっと見つめていたエリー含む貴族の取り巻き達だ。
そんな嫉妬混じりの視線に気づかず、フロルはまた午後の教室へと戻っていった。
◇
ちょうどその頃。西を目指して、必死の形相で飛んでいる鳥たちがいた。
「父ちゃん、あれって風船鳥かい?」
群れを成して飛んでいる鳥の群れを見つけて、近くで働いていた農夫親子が驚いたように空を見上げる。
「ああ、風船鳥さな。あの鳥があそこまで必死になって飛んでいるとは珍しいこったの」
「普通はあんな風に飛ばないよね?」
「ああ、しかも群れを成してるしなあ」
おっとりと空を見上げる農夫たちをよそに、風船鳥たちは、今朝から焦りまくっていたのである。
いつも、魔導士塔の窓からフロルに朝の求愛をするのが風船鳥たちの日課であった。
なのに、なのに!
昨日の朝からフロルがいないのである。
一日待ってみたが、フロルが戻ってくる様子はない。
そうして、フロルを見たという別の風船鳥からの情報によると、馬に乗った騎士達とどこかへ旅立った模様。
風船鳥たちは意識を共有しているので、そこからフロル大捜索網が引かれたのだ。
それによると、フロルは西に向かって移動しているという。
フロルを捜して一匹が二匹になり、また二匹に新たな一匹が加わり、と繰り返して、今や、フロルを目指す風船鳥は何百匹と膨れ上がっていた。
風船鳥たちは、血相を変えて、フロルの後を追っていたのだった。
鳥たちの眼下には、王立魔術院がある。
そう、フロルが今あさに留学している場所であった。
◇
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