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第二巻刊行記念特別編~フロルの短期留学~
ふうちゃん再び~8
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フロルの短期留学も今日が最終日。
魔導士塔へ戻る日が来た。
フロルは荷物をまとめて校庭に出ると、沢山の生徒たちが見送りに来ていてくれた。
「みなさん、色々とありがとうございました!」
生徒の前でペコリと頭を下げるフロルに、同級生たちは暖かい拍手を贈る。
「フロル、向こうでがんばれよー」
「また遊びに来てねー」
そんな友達の声に囲まれて、フロルは嬉しそうに笑う。
色々と心配したけど、学校に来てよかった。
限られた期間ではあったけれど、友達もできたし、薬草学の知識は実りあるものだった。
ブール草取り名人のフロルは、野草取り名人へと昇格したのだ!
「また学びに来なさい、フロル」
「はい、先生、ありがとうございます」
「それで、お迎えの人はまだ来ないの?」
フロルは空を見渡して、軽くかぶりを振る。
「そろそろ来ると思うんですけど」
そうやって手持無沙汰に迎えを待っている間、名残惜しそうに、見送りに出てきてくれた生徒たちの顔を一人一人、フロルは見渡した。
「フロル、もうお別れね」
エマがそう言って、フロルに手渡してきたのは手作りのクッキー。
「わあ、もらちゃっていいの?」
「ええ、もちろんよ」
別れを惜しむかのように、二人はしっかりと抱き合った。
「夏休みにはこっちに遊びに来てね」
学校をやめてからできた初めての学友だ。フロルも嬉しそうにエマに笑いかける。
「うん、もちろんよ。絶対に遊びに来る」
その頃。
建物の入口に続く階段がある。その小高い階段の踊り場から、そんな様子を遠目から見ていた男がいた。
そう、あのバズである。
二度目に風船鳥に激突されたバズは、結局、足の骨を骨折していた。鼻には包帯、足にもギブスをはめたバズは、松葉杖をつきながら、フロルを憎々し気に見つめていたのだ。
「くそっ、白魔道師様はお帰りになられるんだとよ」
吐き捨てるようにバズは呪いの言葉を口にする。結局、あの白魔道師に指一本触れられなかった。
まるで何かに呪われているかのように、悪意をもってフロルに近づこうとすると、階段から落ちたり、棚から転がり落ちた物が頭にあたったりとロクなことがない。
せめて最後くらいは一矢報いたい。
フロルがバズに何も悪いことをしていないのに、バズはなぜかフロルに仕返しをしてやりたい気持ちになる。
「おい、バズ、別にいいじゃないか。白魔道師がここを去ってもさ」
隣にいた同級生は何も気にすることなく、バズの言葉を聞き流す。
「まあ、最近、また少し攻撃魔法の技を磨いたからな」
バズはそう言って、胸ポケットの中から小さな杖を取り出す。新しい攻撃魔術の授業で雷を落とす技を学んだばかりなのだ。
「おい、やめろって。危ないだろう」
攻撃魔術は何もしていない人間に放てば、懲罰ものとなる。
「ふふ、俺は隠ぺい術も学んだんだ。俺がやったとはわかるまい」
バズは相変わらず凝りもせず、杖を振りかざそうとしたその瞬間。
どすっ。
バズの後頭部に直撃した何かがいた。
「きゅう!」
それはかわいらしい鳴き声を発しながら、フロルめがけて真っすぐに飛んでいく。
「あ、リル!」
随分長く離れていたせいか、リルはきゅんきゅんと泣きながらフロルの胸の中にぽすんと飛び込んでいった。
「ああ、リル、久しぶり!」
子竜をしっかりと抱きしめているフロルをエマは目を丸くしながら眺めていた。
「まあ、子竜?!」
「あ、これはリルっていって、私の竜なの」
フロルが子竜を飼っているとは初めてしった。
「まあ、可愛いわね」
ニコニコしながら目を細めているエマの傍らで、フロルはリルが人にぶつかってきたのを瞬時に悟っていた。
その方向に視線を向けると、その人は階段からリルにぶつかったせいで階段から落ちたのだろう。
数人の生徒に囲まれながら、助け起こされている所だった。
「ちくしょう、なんてことだ」
ちょっと太めでニキビ面のある男子生徒だった。フロルよりずっと上級生らしい。
「あの、ちょっとごめんね」
エマに一言いうと、慌ててその男子生徒に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
バズは目に悔し涙を滲ませながら、口を開く。
「今度は腕を折ったかもしれない。ちくしょう。なんてことだ」
今度は腕がひどく痛む。ギブスをして足が不自由でなければ階段から落ちることもなかったのだ。
それにしても、今度は子竜が後ろからぶつかってくるなんて……。
そしてそれも、フロルが抱きかかえている子竜のせいなのだ。
「あの、ちょっと怪我を見せて」
フロルが申し訳なさそうに言うと、バズは激怒した。
「俺に触れるな。チビが!」
そう言った瞬間、バズの背後から低く響く声が聞こえた。
「へえ。フロルの手助けを拒むとは、実にもったいないことをするね」
え?
フロルとバズが振り返った瞬間、そこにいたのは宮廷魔道師長と、白魔道師たちだった。
「あ、ライル様、それにグエイド様まで」
フロルが目を輝かせると、ライルは冷たい表情でさくっとバズを無視する。
「フロル、久しぶりだね」
壮絶な美貌の持ち主であるライルは、口元にきれいな笑みを浮かべながら、そっとフロルの頭を撫でる。
「遅くなってすまなかったね」
そう。今日の帰路はライルのお迎えだったのだ。
「いいえ、ちっとも。でも、わざわざお迎えに来ていただいてすみません。それにリルも連れてきていただいて…」
ちょっと申し訳なさそうにしているフロルにライルは言う。
「いや、任務のついでだったから。それにしても、リルが一足先に飛んで行ってしまったのには、少し驚いたけどね」
ライル曰く、こちらに向かう途中で、リルがどこに向かっていくのかすぐに気づき、ものすごい勢いでフロルに向かって飛んで行ったのだという。
「そうですか」
ライルはすぐに気分を切り替えて、グエイドが連れてきた馬の手綱を取る。
「それじゃ、行こうか。フロル」
「き、宮廷魔道師長!」
周囲の生徒はフロルを迎えにきた人物が誰かを知り、静かなどよめきが広がる。憧れの魔道師長が目の前にいるのだ。そんな生徒たちはライルは冷たく無視をする。
ライルにとっては関係のない人々である。人嫌いのライルが愛想を振りまく必要もなければ、そうしようとも思わなかった。
「じゃあ、魔導士塔に戻ろうか、フロル」
ライルが馬にひょいっと飛び乗り、フロルに手を差し伸べる。
「ノワール魔道師長」
目の前にいる人物が誰か知って、バズは言葉を失った。
ノワール宮廷魔道師長は、全ての魔道師の憧れである。そして、バズにとっても、魔道師長の存在は神に等しい。
抜けるように白い肌。艶やかで長い黒髪が、彼が動くたびに揺れる。
切れ長の細い瞳は、海のように青く、話す一言一言が鈴がなるように美しい。
俺は一体、誰に喧嘩を売ろうとしていたんだろうか。
呆気に取られているバズなど、魔道師たちは誰一人として気に掛けなかった。
「さあ、フロル、早く」
馬から手を差し伸べるライルに、フロルはちょっと気が付いたように口を開く。
「すみません、ライル様。リルがこの人に怪我させちゃったみたいんなんです」
フロルはちょっと申し訳なさそうにバズに近寄る。
「リルがごめんなさい。ちょっと怪我を直させてもらいますね」
今にも出発しそうなライルの時間を取らせる訳にはいかないのだが、さりとて、リルが怪我をさせた人を放置する訳にもいかない。
バズの返事を待たずに、フロルはさっとバズの腕に手をかざし、即座に治癒魔法を展開させる。
「お、おい、何すんだよ」
「ごめんなさい。急いで直しますね」
バズの腕が淡い光に包まれ、瞬く間に傷が癒えていく。
「嘘だろ……」
本物の治癒魔法。宮廷魔道師長ライルの下の白魔道師のフロル。
初めて本物の治癒魔法に触れて、バズは学院の治癒魔法のレベルが比較にならないくらい低かったことを悟った。
「えっと、腕はこれで治りましたけど……」
フロルはちょっとためらいがちに口を開く。
「ついでに足のケガと鼻の怪我も治しますね」
ものはついでだとフロルは言い、バズににっこりとほほ笑みかけた。
「え、あの……俺……」
すぐ近くで見るフロルの笑顔。淡い金髪に包まれた顔は、バズが思っていた以上に可愛かった。
……こんなに可愛い子だったなんて。
少し顔を赤くして、バズは治療に集中しているフロルの顔を呆気にとられて眺めていた。
この傷も、あの傷も、本当はフロルを傷つけようとして負った怪我だ。それなのに、フロルは一生懸命に自分の怪我を癒そうとしてくれているのだ。
……俺、今までなんてことしてたんだろう。
自分がしてきたことの意味を悟り、バズは心の底から自分が恥ずかしくなった。
「さて、治療、終了っ!」
フロルが元気よく立ち上がり、振り返って、ライルに視線を移す。
「ほら、フロル、早く」
「はい、ライル様、ただいま!」
バズがお礼を言う間もなく、フロルはたたたっとライルに駆け寄った。
「じゃあ、フロル、行くよ」
そこからはあっと言う間だった。
馬に乗った魔道師たちは、あっと言う間に、学園から去っていく。当然、フロルはバズのことなど振り返りもしなかった。
「くそっ」
バズは悔しそうに口を開く。
「お礼を言う間もなかったじゃないか」
……すまなかった。
謝罪の言葉を口の中でつぶやくバズの傍らで、フロルたちの後ろ姿を生徒たちは尊敬のこもった目でいつまでも眺めていた。
そんな生徒たちを風船鳥は木の上から眺めていたが、やがて、フロルの後を追って、風船鳥の群れが王宮に向かっているとは誰一人知る由もなかったのだった。(fin)
◇
野良竜第二巻、発刊記念、特別編、これにて終了です。短編でしたがお付き合いいただき、ありがとうございました。
これからは、本編に戻ります。子供になったリルを元に戻すための旅が続きます。お楽しみに!
魔導士塔へ戻る日が来た。
フロルは荷物をまとめて校庭に出ると、沢山の生徒たちが見送りに来ていてくれた。
「みなさん、色々とありがとうございました!」
生徒の前でペコリと頭を下げるフロルに、同級生たちは暖かい拍手を贈る。
「フロル、向こうでがんばれよー」
「また遊びに来てねー」
そんな友達の声に囲まれて、フロルは嬉しそうに笑う。
色々と心配したけど、学校に来てよかった。
限られた期間ではあったけれど、友達もできたし、薬草学の知識は実りあるものだった。
ブール草取り名人のフロルは、野草取り名人へと昇格したのだ!
「また学びに来なさい、フロル」
「はい、先生、ありがとうございます」
「それで、お迎えの人はまだ来ないの?」
フロルは空を見渡して、軽くかぶりを振る。
「そろそろ来ると思うんですけど」
そうやって手持無沙汰に迎えを待っている間、名残惜しそうに、見送りに出てきてくれた生徒たちの顔を一人一人、フロルは見渡した。
「フロル、もうお別れね」
エマがそう言って、フロルに手渡してきたのは手作りのクッキー。
「わあ、もらちゃっていいの?」
「ええ、もちろんよ」
別れを惜しむかのように、二人はしっかりと抱き合った。
「夏休みにはこっちに遊びに来てね」
学校をやめてからできた初めての学友だ。フロルも嬉しそうにエマに笑いかける。
「うん、もちろんよ。絶対に遊びに来る」
その頃。
建物の入口に続く階段がある。その小高い階段の踊り場から、そんな様子を遠目から見ていた男がいた。
そう、あのバズである。
二度目に風船鳥に激突されたバズは、結局、足の骨を骨折していた。鼻には包帯、足にもギブスをはめたバズは、松葉杖をつきながら、フロルを憎々し気に見つめていたのだ。
「くそっ、白魔道師様はお帰りになられるんだとよ」
吐き捨てるようにバズは呪いの言葉を口にする。結局、あの白魔道師に指一本触れられなかった。
まるで何かに呪われているかのように、悪意をもってフロルに近づこうとすると、階段から落ちたり、棚から転がり落ちた物が頭にあたったりとロクなことがない。
せめて最後くらいは一矢報いたい。
フロルがバズに何も悪いことをしていないのに、バズはなぜかフロルに仕返しをしてやりたい気持ちになる。
「おい、バズ、別にいいじゃないか。白魔道師がここを去ってもさ」
隣にいた同級生は何も気にすることなく、バズの言葉を聞き流す。
「まあ、最近、また少し攻撃魔法の技を磨いたからな」
バズはそう言って、胸ポケットの中から小さな杖を取り出す。新しい攻撃魔術の授業で雷を落とす技を学んだばかりなのだ。
「おい、やめろって。危ないだろう」
攻撃魔術は何もしていない人間に放てば、懲罰ものとなる。
「ふふ、俺は隠ぺい術も学んだんだ。俺がやったとはわかるまい」
バズは相変わらず凝りもせず、杖を振りかざそうとしたその瞬間。
どすっ。
バズの後頭部に直撃した何かがいた。
「きゅう!」
それはかわいらしい鳴き声を発しながら、フロルめがけて真っすぐに飛んでいく。
「あ、リル!」
随分長く離れていたせいか、リルはきゅんきゅんと泣きながらフロルの胸の中にぽすんと飛び込んでいった。
「ああ、リル、久しぶり!」
子竜をしっかりと抱きしめているフロルをエマは目を丸くしながら眺めていた。
「まあ、子竜?!」
「あ、これはリルっていって、私の竜なの」
フロルが子竜を飼っているとは初めてしった。
「まあ、可愛いわね」
ニコニコしながら目を細めているエマの傍らで、フロルはリルが人にぶつかってきたのを瞬時に悟っていた。
その方向に視線を向けると、その人は階段からリルにぶつかったせいで階段から落ちたのだろう。
数人の生徒に囲まれながら、助け起こされている所だった。
「ちくしょう、なんてことだ」
ちょっと太めでニキビ面のある男子生徒だった。フロルよりずっと上級生らしい。
「あの、ちょっとごめんね」
エマに一言いうと、慌ててその男子生徒に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
バズは目に悔し涙を滲ませながら、口を開く。
「今度は腕を折ったかもしれない。ちくしょう。なんてことだ」
今度は腕がひどく痛む。ギブスをして足が不自由でなければ階段から落ちることもなかったのだ。
それにしても、今度は子竜が後ろからぶつかってくるなんて……。
そしてそれも、フロルが抱きかかえている子竜のせいなのだ。
「あの、ちょっと怪我を見せて」
フロルが申し訳なさそうに言うと、バズは激怒した。
「俺に触れるな。チビが!」
そう言った瞬間、バズの背後から低く響く声が聞こえた。
「へえ。フロルの手助けを拒むとは、実にもったいないことをするね」
え?
フロルとバズが振り返った瞬間、そこにいたのは宮廷魔道師長と、白魔道師たちだった。
「あ、ライル様、それにグエイド様まで」
フロルが目を輝かせると、ライルは冷たい表情でさくっとバズを無視する。
「フロル、久しぶりだね」
壮絶な美貌の持ち主であるライルは、口元にきれいな笑みを浮かべながら、そっとフロルの頭を撫でる。
「遅くなってすまなかったね」
そう。今日の帰路はライルのお迎えだったのだ。
「いいえ、ちっとも。でも、わざわざお迎えに来ていただいてすみません。それにリルも連れてきていただいて…」
ちょっと申し訳なさそうにしているフロルにライルは言う。
「いや、任務のついでだったから。それにしても、リルが一足先に飛んで行ってしまったのには、少し驚いたけどね」
ライル曰く、こちらに向かう途中で、リルがどこに向かっていくのかすぐに気づき、ものすごい勢いでフロルに向かって飛んで行ったのだという。
「そうですか」
ライルはすぐに気分を切り替えて、グエイドが連れてきた馬の手綱を取る。
「それじゃ、行こうか。フロル」
「き、宮廷魔道師長!」
周囲の生徒はフロルを迎えにきた人物が誰かを知り、静かなどよめきが広がる。憧れの魔道師長が目の前にいるのだ。そんな生徒たちはライルは冷たく無視をする。
ライルにとっては関係のない人々である。人嫌いのライルが愛想を振りまく必要もなければ、そうしようとも思わなかった。
「じゃあ、魔導士塔に戻ろうか、フロル」
ライルが馬にひょいっと飛び乗り、フロルに手を差し伸べる。
「ノワール魔道師長」
目の前にいる人物が誰か知って、バズは言葉を失った。
ノワール宮廷魔道師長は、全ての魔道師の憧れである。そして、バズにとっても、魔道師長の存在は神に等しい。
抜けるように白い肌。艶やかで長い黒髪が、彼が動くたびに揺れる。
切れ長の細い瞳は、海のように青く、話す一言一言が鈴がなるように美しい。
俺は一体、誰に喧嘩を売ろうとしていたんだろうか。
呆気に取られているバズなど、魔道師たちは誰一人として気に掛けなかった。
「さあ、フロル、早く」
馬から手を差し伸べるライルに、フロルはちょっと気が付いたように口を開く。
「すみません、ライル様。リルがこの人に怪我させちゃったみたいんなんです」
フロルはちょっと申し訳なさそうにバズに近寄る。
「リルがごめんなさい。ちょっと怪我を直させてもらいますね」
今にも出発しそうなライルの時間を取らせる訳にはいかないのだが、さりとて、リルが怪我をさせた人を放置する訳にもいかない。
バズの返事を待たずに、フロルはさっとバズの腕に手をかざし、即座に治癒魔法を展開させる。
「お、おい、何すんだよ」
「ごめんなさい。急いで直しますね」
バズの腕が淡い光に包まれ、瞬く間に傷が癒えていく。
「嘘だろ……」
本物の治癒魔法。宮廷魔道師長ライルの下の白魔道師のフロル。
初めて本物の治癒魔法に触れて、バズは学院の治癒魔法のレベルが比較にならないくらい低かったことを悟った。
「えっと、腕はこれで治りましたけど……」
フロルはちょっとためらいがちに口を開く。
「ついでに足のケガと鼻の怪我も治しますね」
ものはついでだとフロルは言い、バズににっこりとほほ笑みかけた。
「え、あの……俺……」
すぐ近くで見るフロルの笑顔。淡い金髪に包まれた顔は、バズが思っていた以上に可愛かった。
……こんなに可愛い子だったなんて。
少し顔を赤くして、バズは治療に集中しているフロルの顔を呆気にとられて眺めていた。
この傷も、あの傷も、本当はフロルを傷つけようとして負った怪我だ。それなのに、フロルは一生懸命に自分の怪我を癒そうとしてくれているのだ。
……俺、今までなんてことしてたんだろう。
自分がしてきたことの意味を悟り、バズは心の底から自分が恥ずかしくなった。
「さて、治療、終了っ!」
フロルが元気よく立ち上がり、振り返って、ライルに視線を移す。
「ほら、フロル、早く」
「はい、ライル様、ただいま!」
バズがお礼を言う間もなく、フロルはたたたっとライルに駆け寄った。
「じゃあ、フロル、行くよ」
そこからはあっと言う間だった。
馬に乗った魔道師たちは、あっと言う間に、学園から去っていく。当然、フロルはバズのことなど振り返りもしなかった。
「くそっ」
バズは悔しそうに口を開く。
「お礼を言う間もなかったじゃないか」
……すまなかった。
謝罪の言葉を口の中でつぶやくバズの傍らで、フロルたちの後ろ姿を生徒たちは尊敬のこもった目でいつまでも眺めていた。
そんな生徒たちを風船鳥は木の上から眺めていたが、やがて、フロルの後を追って、風船鳥の群れが王宮に向かっているとは誰一人知る由もなかったのだった。(fin)
◇
野良竜第二巻、発刊記念、特別編、これにて終了です。短編でしたがお付き合いいただき、ありがとうございました。
これからは、本編に戻ります。子供になったリルを元に戻すための旅が続きます。お楽しみに!
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