夕日と白球

北条丈太郎

文字の大きさ
上 下
8 / 45
白球を追う少年たち

不祥事発生! 野球部の危機!

しおりを挟む
 ある日の午後、野球部キャプテン坂本辰馬は職員室に呼び出された。
「坂本君、困ったことが起きてね。君の野球部の部員が校舎裏でケンカをしたそうなんだよ」
 まず、坂本に話しかけたのは体育教師の権藤であった。
「サッカー部だった千田洋一が君の野球部に入部しただろう。その千田がやらかしたんだよ」
 生徒指導を担当している教師が権藤に続いて言い、眉をしかめて咳ばらいを一つした。
「何人もの生徒が目撃したんだ。ケンカの相手はあの不良だ、八木大吾だ」
 八木大吾という名前を聞いた坂本はすぐに思い当たり、八木のいかつい顔を思い出した。
「先生! そのケンカの件は僕がなんとかします! 八木と千田を仲直りさせます!」
 坂本が大声を出したため、職員室中の教師が坂本に注目して黙った。
 放課後、坂本は八木大吾がいつもいるという体育館裏に向かった。
「八木君、野球部の千田が君とケンカした件はキャプテンの僕が謝る! 許してくれ!」
 坂本が頭を下げると八木は立ち上がり、鋭く小さな目で坂本の坊主頭をにらみつけた。
「キャプテンさんよお、謝るのは千田のボケやろ! 千田連れてこいや! アホンダラ!」
「それはできない。またケンカをしたら大変だ。僕が土下座でもするから許してやってくれ」
 坂本の言葉を聞いた八木は思わず笑い、その巨体を揺らした。
「アホか! たかがケンカの件で先輩が後輩に土下座するんか? やってみいや先輩!」
 八木が笑いながら言ったとき、坂本は地面に膝を立てて土下座していた。
「……これで許してくれ。それと、できれば君も野球部に入ってくれ! 頼む!」
 土下座を繰り返す坂本の姿に圧倒された八木は苦笑し、そして大笑いした。
「……先輩にゃかなわんな! よしゃ入部したるか! ほな野球部内でケリつけるで!」
しおりを挟む

処理中です...