夕日と白球

北条丈太郎

文字の大きさ
上 下
9 / 45
白球を追う少年たち

決着のクロス

しおりを挟む
 放課後のグラウンドではコーチ役となった二年の中島銀次が千田洋一を見ていた。
「そうだチータ! お前には外野をやってもらうぞ。俊足が生きるからな!」
 銀次は洋一をおだてつつ、ボールを高く投げて洋一に捕らせていた。
「オーライオーライ! こんなの楽勝じゃんよ! 外野って簡単じゃねえか!」
 洋一が楽しそうにボールを追いかける姿を見た銀次はグラウンドの奥にボールを投げた。
「おおっと先輩! 遠いぜ! でも俺の足なら余裕で追いつく! ああっ!」
 そのとき、全速力で走った洋一は近くにいた大柄な男にぶつかった。
「おう! 何さらすんじゃワレ! このボケ! いてまうぞドアホが!」
 野球部のユニフォームがはち切れそうなほど大きな体の男は不良の八木大吾であった。
「あ、て、てめえは八木! 八木大吾じゃねえか! ぶっ殺すぞこの野郎!」
 八木大吾の体に弾かれた洋一はすぐに立ち上がり、さっと近づいて左パンチを放った。
 そのパンチが顔面にめり込んだ瞬間、八木大吾の右パンチが洋一の顔面に突き刺さった。
「ああっ! く、クロスカウンター!」
 全てを見ていた夜空が叫んだとき、千田洋一と八木大吾はグラウンドに倒れこんだ。
 その姿を見た太陽はグラウンド外へ走り、水の入ったバケツを抱えて戻った。
 太陽は倒れている二人に思い切り水を浴びせ、銀次を見て首を振った。
「両者ノックアウトです先輩! 早くキャプテンを呼んでください!」
 銀次がキャプテン坂本を呼びに行く間、太陽と夜空は倒れている二人をじっと見た。
「……これって練習中の事故ってことで済むのか?」
 夜空がつぶやくと、太陽は微笑んでうなずいた。
しおりを挟む

処理中です...