夕日と白球

北条丈太郎

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新たなる野球部

強豪校との決戦!

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 栄光中学は神奈川で三強と言われる強豪校である。一回戦を突破した小船中学は不運にも二回戦で栄光中学と対戦することになった。試合前日のミーティングでタンピンは多くを語らなかった。ただ、栄光中学の四番エースである中村についてのみ語った。まともに打てる投手ではないからバットを短く持って当てていくこと、バッターとしての中村については低め低めに投げていくようバッテリーに指示した。夜空と太陽はうなずき、ナインもうなずいてミーティングは終わった。
 ……そして試合当日、夜空は応援席と客席に集まった人数を見て驚いた。むろん彼らは栄光中を見に来たのであり、小船中は眼中になかった。小船ナインは委縮したが夜空は燃えた。
「やってやろう。栄光中がなんだ! 中村がなんだ! いくぞ太陽! お前の球で黙らせろ!」
 だが太陽は初回から四球を連発し、ノーアウト満塁で四番の中村を迎えた。
「……でけえ。力士かよ。なんだこの腕、ケツもでけえ。太ももかよこれ。」
 かつてラグビー部にいた夜空も中村ほどの巨漢を見たことはなかった。打席に立った中村の顔は無表情で構えもリラックスしていた。緊張した夜空は太陽に外角低めの直球を要求した。
これは決まったと夜空が思った瞬間に中村のバットが空気を切り裂いて白球が遠くへ飛んだ。
 マウンドの太陽は振り返って場外を見つめた。満塁ホームランであった。夜空は声も出せず、大きなため息を何度か漏らした。小船ナインはみな一様にうなだれていた。
「おいコラ! シャキッとしやがれ! まだ始まったばっかだろ! 声出せ。 声を出せよ!」
 ベンチからタンピンが大声を出したが太陽はうつむいたままだった。そこで夜空は駆け寄った。
「なあ太陽。あいつすげえな。ああいうやつがプロ野球とか行くんだろ。ま、切り替えようぜ」
 すっかり意気消沈した太陽はその後も打たれ続け、小船中は大差コールド負けとなった。
 夏の大会は二回戦敗退となり、小船中野球部の夏は終わった。
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